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序章
生き続けた亡霊(2)
しおりを挟む庭に響いたのは叫びではなかった。
「あははは、ぃ息が苦しい。失礼。幽霊に生身があったら大騒ぎだよ。本当に酷いな、その噂。確かに僕の事だろうけど、生憎と死んだ覚えは無いな。はい、お手」
事情を聞いた伝説の亡霊は、腹を抱えて笑っていた。
すっと差し出された右手。青い裾から覗く、蝋人形のような骨張った手に、既に警戒を解いていたヨルシャは躊躇いなく手を伸ばした。
触れる。握る。そして揉む。
「あらほんと、肉がある。って私は犬じゃないのよ!」
派手な音を立てて叩き落とす。痛いと呟きながらも黒衣の男は微笑みを崩さない。
先ほどまで恐怖で凍りついていたヨルシャは、彼に助け起こされた。
状況を理解できずに瞬き数回。
怪我はないか、具合が悪いのか、と尋ねられて我に返った。
ヨルシャを助け起こしたのは幽霊ではなく、星を見に来た細身の青年だった。
年頃は二十歳前後で身長はヨルシャと頭二つ分ほども違う。優しげな眼差しから敵意や脅威は感じられない。透き通るような白磁の肌に深緑の瞳。漆黒の長髪は無造作に青紐で止めていただけだという。
ずぼらな格好と黒い外套が、シセルの昔話を連想させ、尚且つこれ以上ないほどに引き立てた。おかげで噂話を信じて腰を抜かすという、赤っ恥をさらした事を理解したヨルシャは自分の莫迦さ加減に怒り狂っている。
「君、面白いね。名前はなんて? 僕はフーポー。一応、ここの学生」
朗らかな笑顔で挨拶されると、毒気も怒りも抜けていく。
壁に爪を立てていたヨルシャは振り返ったが、恥ずかしさで視線を落とした。
「ヨルシャよ。三年生」
再び、すっと片手を差し出される。
「よろしくヨルシャ。赤銅の髪なんて初めて見たよ。名前に砂漠の民と街の名残があるね。生まれはこの辺かな」
求められた握手に応じつつも首を振った。
「違うわ、生まれは砂漠よ。十二の頃に此処へ来たの」
砂漠の民は流浪の民の事で、通常の人間よりも命が短い事で知られている。
特徴的の一つが名前で、エデュマイェルなどの長くて言いにくいことが多い。逆に普通の人間はアトラ、ラトレイトなどスッキリしたものが多く、三文字なら北の地方生まれ、五文字以上なら南の地方の特色となる。
地方によって容姿にも細かい違いが現れる為、民族史に精通する者は相手の名前と容姿だけで、大凡の出身地や育った場所を言い当てられるという。
この青年、莫迦ではないらしい。
ようやく普段の調子が戻ってきていた。相手の言葉を反芻しながら問い返す。
「お兄さん何年生? 見たこと無いわ。それに歌花祭伝説って二十年も前の話よ。お兄さん、どう見ても二十歳位じゃない」
フーポーは二十年前の伝説を『僕のことだ』と明確に話したが、相手の見かけと年月が釣り合わない。伝説が本当の話だとすれば、当事者達は今頃三十歳は越えているだろう。
この期におよんで意地の悪い冗談はよして欲しい、というつもりで軽く睨視したヨルシャだが、フーポーは目を点にして見下ろし、やがて「あぁ」と合点いったように呟いた。
「お兄さん、こういう人だから」
さらさらと零れる黒髪を掻き上げると隠れていた左耳が現れた。秘色の耳飾りが光る。
「耳が尖ってる。竜族なの?」
呆然と顔を見上げた。
丸みを帯びた人の耳介と異なり、葉の様に尖った耳介をしている者は、この世で竜族と呼称される者達しかいない。
五百年前の第二次世界大戦が勃発するまで、この大陸は竜族に支配されていたという。人間の十倍である約五百年の寿命と自然を使役する力、高度な知性が膨大な数の人間支配を可能とした。歴史書によると当時、人間の殆どは奴隷だったらしい。
大戦以後も国家は分裂を繰り返し、今の人の国と竜の国が生まれた。人も竜も棲み分けるように暮らしていることが多く、人の国の中心都市パフェルで竜族を見ることは少ない。
また伝統が長いレディン学院では創立当時の方針が現在にも影響しており、男子学生は極端に少ないのだが、竜族の男子生徒ともなると、例外中の例外といえた。
そんなヨルシャの驚きも何処吹く風。
「うん。こう見えて今、二百二十歳。惜しかったね」
左右の耳を両手で抓みながら、フーポーは陽気に笑う。
「にひゃ……あー、竜族の十年は人間の一年相当だっけ。東の人? 西の人?」
現在、大陸には四つの竜族国家がある。
それら四つは、分裂前の西国か東国の呼び名で呼ばれることが多い。
一般的な史書によれば、竜王国は当時の竜王西妃と東妃の王子達によって分裂。
西側を西妃の息子が治め、東側を東妃の息子が統治。西と東の間には砂漠が広がっていたが、砂漠の民の王により砂国という中立地帯となった。そして砂国は人の国へ、西国と東国は大戦を経て、更に分かたれてゆく。
分裂した国々は名を持ったが、旧支配領からの独立、或いは旧王家の血筋から分裂した国家は総じて起源となる旧国の名で区別される。
「東の人。もっと言うと生まれも育ちもイルノュド」
淡泊な回答にヨルシャは固まった。
東国イルノュドは、国を空へ浮き上がらせるほどの高度な技術を持ち、世界で最も裕福とされている。国家的な性質として穏和で無骨な争いを好まず、其れが故、叡智を駆使して空へ逃れ、独自の社会を形成していると訊く。
ヨルシャは予想外の話に食いついた。
「天空の都じゃない」
万民が行きたがる幸福の土地。厳しい人数制限が課されており、移住を認められる者は少ないという。フーポーはことも無げに頷いた。
「そう言う人もいるね」
「なんで世界一裕福と歌われる浮遊都市から、こんな辺鄙な所にいるのよ」
パフェルは人の国の中で上位に数えられる裕福さを持っていたが、上流層と中流層、下流層に貧困層という格差の激しさもあって、安全で平穏な場所とは言い切れない。フーポーは人差し指で喉を示した。
「僕はこれ、声があるから。音子はパフェルの学院に集うものだろう」
音子はコエを持った者達のことを指し示す。レディン学院は、コエを持った者達だけの教育現場。コエを生まれ持った人類は、全人口の一割にも満たないという。
模範解答に、ヨルシャは両手を腰にあてて頬を膨らませた。
「其れは地上の定説でしょう。天空のイルノュドなら音子の学院くらい自分達で持ってるんじゃないの? 私は行ったこと無いから知らないけれど、古代遺産を掌握する竜属国が音子の教育機関が無いとは思えないし」
「あると言えば、あったかな」
「だったら其処にいた方がいいんじゃないの」
わざわざ不便な地上へ来なくても。
と言いたげに見上げると、フーポーは微笑みながらも柳眉を崩して答えに困っていた。
首筋に片手をあてて黒い空を仰ぐ。
「事情は色々あるんだけど、好みの違いかな。地上が好きなんだ。入学当時は憧れとかも強かったし、イルノュドは貴族意識の方が強すぎて、僕は苦手でね。別な意味で暮らしにくい」
大方の竜族は人を劣る者として見下していることが多い。
かつて地上の全てを支配していた名残だろう。
虚しい誇りが手放せないに違いない。
しかし目の前のフーポーはどうだ。威厳も不遜な態度もなければ、身なりは襤褸でぼうっとしている。岩の上で大の字になって寝っ転がっていたのだから、品があるとは思えない。
「意外。私、竜族って殆ど見た事なくて高慢な印象しか無かったんだけど、お兄さんみたいにおっとりしてる人もいるのね」
「偏見だな。確かにそう言う連中が多いのは否定しないけれどね。お兄さんではなくて、名前で呼んでくれないかな? 体が痒くなりそうだ。お爺さんでも良いけど」
実年齢から言えば、確かにお爺さんだ。
笑いを噛み殺しながら、ヨルシャは体をくの字に曲げる。
「いいわ。改めて聞くけど、歌花祭伝説ってフーポーの事なのよね」
「多分ね。心当たりはある」
ヨルシャが石のように固まった。
「待った。此処に入学したのは何年前なのよ」
「同時期のはずだけど」
原則としてレディン学院は四年制である。必要単位を落として留年する者も少なからずいるが、大抵は五年か六年で学院を卒業していく。フーポーは現在、二百二十歳だという。従って入学時期が遅いことも問題ながら、二十年余りも学院に居座っているなど尋常ではない。
「今だ学院生徒? 十七年も留年中って絶対おかしいって。この三年間、私が一度も見たことが無いって事は、全く授業出席してないでしょう」
「あ、気づいた?」
悪戯がばれた子供のような顔をした。
「誰だって気づくわ! とっとと卒業して社会に貢献しようとか、私腹を肥やそうとか、目標なり野望なりは無いの」
胸ぐらを捕まれ、前後に揺さぶられるフーポー。
音子は就職先が安定しており、かつ上流社会への就職が多い。才能に恵まれて努力を怠らず、望みさえすれば何処までも駆け上がっていくことが出来る。中には国王の片腕という最高峰の地位についた卒業生だっている。
竜族の音子となれば価値は稀少に違いない。しかしフーポーは水の如くなすがままだ。
「そんな崇高な目標、考えてたことないなー。今のままで充分楽しいし」
「あぁ情けない! 五百年前まで大陸全土を支配下に置いていた竜族の子孫ともあろう者が、何故に其処まで無気力なのよ」
「性格の所為かな」
けろりとした言葉。
今にも火を噴きそうなヨルシャの勢いは静まらない。
「竜族よ、仮にも竜族よ? 知性は勉強すればいいけれど、音子や竜族は生まれが全てを左右するのよ。音子で竜族、生まれも育ちも天空の都イルノュド! 一生を約束されたも同然よ」
「イルノュドにも爵位や財産を持たない竜族はいるんだけれど」
「都市機能が充実していて、生活の保障はされてるって聞いたわよ」
国家対策が万全で、飢える者や貧しい者がいない。それがどれほど幸せか。
獣のように唸るヨルシャを前に、フーポーはしばらくして視線を明後日の方向へ逸らす。
「それはそうかも」
フーポーが小声で認めると、ヨルシャはやっと胸ぐらから手を放した。
「真面目に授業を受けろとまでは言わないけれど、せめて出席ぐらいしなさいよ。歌なんか先生よりよっぽど上手なのに」
歌は上手いはずだ。
男性の声なのに、耳に馴染む高い声音。きちんとした姿勢でもないのに彼処まで澄んだ歌を歌っていたのなら、まともに歌えば相当の技量なのだろう。ヨルシャ担当官の先生ですら彼処まで美しくは歌えない。人間離れした歌声が昔話に箔をつけて怯えてしまったのだから、尚のこと学生のままのフーポーが不思議でならない。
真剣な顔で見つめられたフーポーは目を点にした。
「さっきの聞いてたのか。家の関係でちょっとね。皆と授業は出られないんだ」
此処でヨルシャの頭は活発に回転していた。
十七年間も留年中、実技は玄人並み、無気力、家庭の事情で授業に出られない。
従って一つの結論が導き出される。
「家庭の事情で困っているのなら、先にそう言ってくれればいいのに」
ヨルシャはどんと胸を叩く。
「それなら話は早いわ。フーポー、今夜から五日間、私に歌を教えなさい」
「へ?」
「貴方、歌が上手いもの。私に伝授して頂戴。実は私、五日後に開かれる歌花祭に出場するの。上位に入賞出来れば、就職口も斡旋して貰えて大金が手に入る。今のままじゃ物足りないの。だから教えてよ」
シセル先生、ごめん。
ヨルシャは心で謝った。決して先生が嫌いだとか下手だとか言う理由ではない。
少しでも可能性をあげるためだ。
歌花祭とは、三年に一度開かれるパフェル挙げての祭だ。
レディン学院の中でも技術的に好成績をおさめた上位数名のみが、歌花祭の目玉である王立歌劇場への出場権利を与えられる。入賞できれば多額の賞金と将来が約束されていた。
職業斡旋。
生活安定。
生涯補償。
欲望に忠実なヨルシャとしては、魅惑的な特典が揃っている歌花祭は絶好の機会。
「教えるのは構わないけれど、本気?」
「勿論、大金が手に入ったら山分けするわよ。私達、戦友ね。よろしく」
契約代わりにヨルシャは右手を差し出した。
フーポーは暫く考える仕草をしてから、ヨルシャの右手に己の手を重ねる。
「分かった。面白そうだから引き受けよう。では明日の夜に、再び此処で会おうか」
こうして一方的な欲望の元で、契約は交わされた。
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