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第一の選択「今すぐ死ぬか、永遠に生きるか」
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プロローグ
死。死。死。死はいつでも隣にいる。ただ、距離が違う。例えば70過ぎの老人。彼と死との距離は約五センチ。対して、二十代の青年と死との距離は約一メートル。
では、目の前の少年との距離はどうなのだろうか? 一センチ? いや、もっとだ。その距離は一ミリ。つまり、もう死は目前に迫っているのである。孤児であり、貧しく、すら未生活を強いられた日々。毎日が死と隣合わせ。恐喝、殺人何でもありの路地裏に住む彼が今まで生きてこれたのは、奇跡に近い。いや、苦行だったかもしれない。生きども生きども代わりのない苦しい生活。死ぬことでしかもう、幸福を享受することが出来ないかもしれない。しかし、彼はとことんツイていないのか、それとも強運なのか、彼に話しかけるものが一人いた。
一章
1
「……初めまして、国王です。おめでとう! 君は勇者に選ばれました!」
彼女はとても整った顔をしていました。女性も男性も、両方をも魅了する、そんな顔です。胸元には豊かさを強調する大きな胸が。華美な装飾を施されたマントを羽織り、頭には金色に輝く王冠。そう、この国の王、国王です。
本来ならこんな路地裏にいるはずのない雲の上の存在。
「……勇者に選ばれた?」
少年はどんどん力の抜けてく体に無理やり活を入れて、国王を見ました。
「その通り、君はこれから魔王を倒すために旅立つのです」
なんということでしょう。勇者、国王は勇者と言ったのです。皆のあこがれの存在。数多のおとぎ話に登場するヒーロー。それに、少年がなると言っているのです。
「でも……僕はもうすぐ死ぬよ。わかるんだ」
現にどんどん力が抜けて、すーっと気持ちよくなっていきます。自然とまぶたが落ちてきます。抗いがたい誘惑に必死に反抗し続けるも、もう限界です。
「大丈夫。今勇者になれば死ぬことはありません。不老不死のちからが手に入るので」
「ふ、不老不死?」
またもや国王は信じがたいことを口にしたのです。不老不死。誰もが夢見る伝説。勇者になれば手に入る?
とうとう耳までおかしくなってきたかと少年は自分の耳を疑いました。
「これは救いではありません。むしろ辛い選択です。君は今ここでひっそりと、誰にも知られず死ぬか、それとも不老不死の勇者となって永遠の命に苦しむのか……今までも色々な勇者が苦しんできました。中には、精神を病んでしまい、狂人になってしまった勇者もいます」
少し悲しそうな顔をした国王。でも、すぐにそんな顔は引っ込めて言いました。
「……さあ、ゆうしゃよまおうをたおすのじゃ!」
……僕は……。
もう楽になりたい、早くこの地獄から抜け出したい、そう思った。でも、そう思うたびに数々の顔が頭の中をチラつく。
僕をかばって殺されてしまった兄のような青年。いきなり連れ去られてしまい、臓器を全て売られ、ほぼ皮だけの死体となって帰ってきた友人。妹のように可愛がっていたのに、ある日ゴロツキに襲われ、絶望し、自殺してしまった少女。
僕は彼らの生きられなかった分、生きる必要があると勝手に感じている。別に、今死んであの世に行ったとしても彼らが怒らないだろう。むしろ、歓迎してくれそうだ。
でも、僕が僕であるために決めたルールに反する。
一、生きることを諦めない
二、人間であることを諦めない
三、悪を自分の中で正当化しない
僕はこのルールに従い、一度も盗みはしなかった。無論、殺人もだ。ぼくは人でありたかった。そして、自分に恥じない生き方をしたかったのだ。生きる。生きる。生きることを諦めない。
「……なります。僕を、勇者にして下さい!」
僕は残った力全てを声に変え叫ぶ。
国王は驚いたように目を開き、悲しそうに笑った。
「ありがとう。……お気の毒ですが、今、このときから、君は永遠の命を手に入れます」
国王は持っていたステッキを僕に向ける。すると、僕の体は金色に光り、力が溢れてきた。右手には、勇者を表す紋章が。服はボロ布のようなものから、上等で、耐久力のありそうな服に変わりました。
「さぁ、これから君は勇者として、数々の選択を迫られるでしょう。君はどんな選択を選ぶのかな……? 君の心の選択に従うんだ!」
こうして僕は勇者になったのです。
死。死。死。死はいつでも隣にいる。ただ、距離が違う。例えば70過ぎの老人。彼と死との距離は約五センチ。対して、二十代の青年と死との距離は約一メートル。
では、目の前の少年との距離はどうなのだろうか? 一センチ? いや、もっとだ。その距離は一ミリ。つまり、もう死は目前に迫っているのである。孤児であり、貧しく、すら未生活を強いられた日々。毎日が死と隣合わせ。恐喝、殺人何でもありの路地裏に住む彼が今まで生きてこれたのは、奇跡に近い。いや、苦行だったかもしれない。生きども生きども代わりのない苦しい生活。死ぬことでしかもう、幸福を享受することが出来ないかもしれない。しかし、彼はとことんツイていないのか、それとも強運なのか、彼に話しかけるものが一人いた。
一章
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「……初めまして、国王です。おめでとう! 君は勇者に選ばれました!」
彼女はとても整った顔をしていました。女性も男性も、両方をも魅了する、そんな顔です。胸元には豊かさを強調する大きな胸が。華美な装飾を施されたマントを羽織り、頭には金色に輝く王冠。そう、この国の王、国王です。
本来ならこんな路地裏にいるはずのない雲の上の存在。
「……勇者に選ばれた?」
少年はどんどん力の抜けてく体に無理やり活を入れて、国王を見ました。
「その通り、君はこれから魔王を倒すために旅立つのです」
なんということでしょう。勇者、国王は勇者と言ったのです。皆のあこがれの存在。数多のおとぎ話に登場するヒーロー。それに、少年がなると言っているのです。
「でも……僕はもうすぐ死ぬよ。わかるんだ」
現にどんどん力が抜けて、すーっと気持ちよくなっていきます。自然とまぶたが落ちてきます。抗いがたい誘惑に必死に反抗し続けるも、もう限界です。
「大丈夫。今勇者になれば死ぬことはありません。不老不死のちからが手に入るので」
「ふ、不老不死?」
またもや国王は信じがたいことを口にしたのです。不老不死。誰もが夢見る伝説。勇者になれば手に入る?
とうとう耳までおかしくなってきたかと少年は自分の耳を疑いました。
「これは救いではありません。むしろ辛い選択です。君は今ここでひっそりと、誰にも知られず死ぬか、それとも不老不死の勇者となって永遠の命に苦しむのか……今までも色々な勇者が苦しんできました。中には、精神を病んでしまい、狂人になってしまった勇者もいます」
少し悲しそうな顔をした国王。でも、すぐにそんな顔は引っ込めて言いました。
「……さあ、ゆうしゃよまおうをたおすのじゃ!」
……僕は……。
もう楽になりたい、早くこの地獄から抜け出したい、そう思った。でも、そう思うたびに数々の顔が頭の中をチラつく。
僕をかばって殺されてしまった兄のような青年。いきなり連れ去られてしまい、臓器を全て売られ、ほぼ皮だけの死体となって帰ってきた友人。妹のように可愛がっていたのに、ある日ゴロツキに襲われ、絶望し、自殺してしまった少女。
僕は彼らの生きられなかった分、生きる必要があると勝手に感じている。別に、今死んであの世に行ったとしても彼らが怒らないだろう。むしろ、歓迎してくれそうだ。
でも、僕が僕であるために決めたルールに反する。
一、生きることを諦めない
二、人間であることを諦めない
三、悪を自分の中で正当化しない
僕はこのルールに従い、一度も盗みはしなかった。無論、殺人もだ。ぼくは人でありたかった。そして、自分に恥じない生き方をしたかったのだ。生きる。生きる。生きることを諦めない。
「……なります。僕を、勇者にして下さい!」
僕は残った力全てを声に変え叫ぶ。
国王は驚いたように目を開き、悲しそうに笑った。
「ありがとう。……お気の毒ですが、今、このときから、君は永遠の命を手に入れます」
国王は持っていたステッキを僕に向ける。すると、僕の体は金色に光り、力が溢れてきた。右手には、勇者を表す紋章が。服はボロ布のようなものから、上等で、耐久力のありそうな服に変わりました。
「さぁ、これから君は勇者として、数々の選択を迫られるでしょう。君はどんな選択を選ぶのかな……? 君の心の選択に従うんだ!」
こうして僕は勇者になったのです。
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