あなたは私の天使だった

じゃがマヨ

文字の大きさ
1 / 1

あなたと出会った日

しおりを挟む




 グラウンドの上でピストルが鳴る。

 地面に敷かれた白線と、0コンマ1秒のストップウォッチ。

 時刻はAM11時。

 その針の下で、ほんのわずかな静寂が訪れる。

 スタートダッシュを切るタイミング。

 地平線へと続く、12秒フラットの境界線。


 焦りだした1つの心が、白線の上で静止できない。

 2007年6月の陸上選手権大会。

 あの日。

 あの夏の季節からだった。

 かつて私の背中にあったはずの翼を、この心に取り戻すことができずにいた。

 視線のおぼつかないカメラワークが、いつも、明日の世界を探してた。


 キミは、あの日公園のベンチに座る私の後ろで、尻尾を曲げたまま動かない。


 日はすっかり暮れてた。

 夜の向こうに見えた満天の月明かり。

 まるで、すべての時間を止めるレースの直前の合図のように、
 

 「これからどうすればいい?」

 って、虚ろな瞳で。


 目を覚ませば、いつもと変わらずに朝が来る。

 瞬きもできないほどに進んだ時間の端で、地面に足を着けたまま動かないのは、きっと、明日に託したいものが、今日という1日の中にあったから。


 キミになにを言えばよかったかな?

 白い吐息が漏れるほどに冷えきった街の公園。

 草むらの中を掻き分けて、破れかけの段ボールの中にいるキミの体を掴む。

 キミは少し怯えながら、歌を歌うわけでもなく。


 翼の折れたその体を拾い上げて、これからどこに行く?って、私は尋ねた。

 「キュゥ…」と声を挙げるキミを連れて、どこかへ——


 きっといつか、空の向こうに行こう。


 壊れた足を持ち上げて、そう呟いた。

 わからなかったんだ。

 まだ、その時は。


 キミが、私の知らない世界へと、連れていってくれることを。



しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。

ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。 彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。 婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。 そして迎えた学園卒業パーティー。 ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。 ガッツポーズを決めるリリアンヌ。 そのままアレックスに飛び込むかと思いきや―― 彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

予言姫は最後に微笑む

あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。 二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?

あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。 「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...