青鷺 〜好きな人に振られてしまったので、彼女の✖️✖️✖️に転生しました〜

じゃがマヨ

文字の大きさ
2 / 15

第2話 よりによってなんで“そこ”なんだあああああ

しおりを挟む


…しかし、

我ながら自分の能力というものが恐ろしく思えてくる。俺が所持している能力「ギフトステップ=魂付与」は、学術都市が制定している評価基準では“B”に該当する評価となっているが、使い方によっては“規格外”と呼ばれてもおかしくない危うさを孕んでいる。
能力の一端を簡潔に説明するとすれば、“魂付与”というのは文字通り“自らの魂を共有できる”というもので、そこに空間的な制約はない。物質の種類や場所を問わず、指定した「物」に対し俺の魂の欠片を宿らせることができる。石ころでも、ペンでも、教科書でも、果てはお守りや机の脚にだって魂を宿せる。分配さえすれば、それは俺の「視点」と「意識」となり、同時に複数の存在としてこの世界を“体験”できるようになる。

便利? いや、それは時と場合によっての話である。今回の場合に限っていえば、「便利」という矮小な表現など無に期してしまうほどの行き過ぎた結果と成果を生み出してしまっている。
もはや便利というか“危険”だ。
制御さえ誤れば、見なくてもいいものを見てしまうし、感じなくてもいいものを感じてしまう。

……そして今、俺はまさにそれをやらかしてしまったのだ。

よりによって——よりにもよってだ。

なぜ「そこ」なんだ俺!? いや、俺が望んだわけではない。断じて違う。神に誓って違う。だが事実として、俺の魂は——三崎あかりの、清く正しく尊厳あるはずの“下着”に宿ってしまっている。

俺は目を開けていない。開けられるわけがない。
だがわかってしまうのだ。“視点”としての俺はそこに存在してしまっている。肌触りを——いやいやいや! 触れてはいない! 断じて触れてはいないのだが、意識がそこに存在している以上、布を隔てた柔らかな感触や、彼女の体温や、ありとあらゆる“情報”が流れ込んでくる。

ああ、やめろ俺! 冷静になれ! これはただの事故! 不可抗力! 望んだわけじゃない!
ただこれを“ただの不慮の事故”として処理できるような安易な事態でないことは、誰の目から見ても明らかだった。俺は今、未曾有の情報量の中で理性が焼き切れそうになり、人間としての尊厳が着々と失われつつある。

……しかも、だ。

そのことを彼女は知らない。ドアという壁を介していたこともあってか、幸いにも俺の人生最大のやらかしに気づいていない。彼女ともあろう優等生がこんな程度の低い失態に気づいていないのは神のご加護というべきか、不幸中の幸いと言ったところだろう。“本当に気づいていないかどうか”は神のみぞ知るといったところだろうか…?
…いやいや、とにかく今はそう願うより他にない。仮にバレていたら今頃俺の命は細切れになって消えていたに違いないし、こんな薄っぺらいドアの一枚壁など彼女の殺意と戦闘能力によって紙切れになっていたも同然だ。こんな時、彼女の能力が泡瀬里緒奈(学園のクラスメイト)の「メンタルクリアランス=思考透過」のような能力じゃなくてよかったと本当に思う。アイツの能力なら壁越しでも俺の思考回路や感情など手に取るように見通すことができていたはずだ。とはいえ、俺が魂を付与してしまった相手は“あの”学園随一の希少能力持ちと言われている少女で、そこらへんの生徒のようにのらりくらりと躱せる生易しい相手ではないことも事実。
なんと言っても目の前の彼女は、学年一の美少女として校内でも一躍有名になっているあの“孤高の天才”三崎あかりであり、都内どころか県外からも一目置かれている「学園ランクA」のカリスマである。
学園でも上位3%しかいないと言われている「A」というランクに、史上最年少記録となる入学30日以内での昇格という破格の実績持ち。
彼女は俺の初恋の相手——その人だった。今まで恋とか情事とかくだらないおままごと程度にしか思っていなかった俺の価値観を、たった1日で塗り変えてしまった人。入学初日に俺は悟ってしまったのだ。——ああ、この人はそこら辺にいる男子校生の人生の価値観など埃を払うように指先一つで押しのけてしまう存在なのだと。

そんな彼女が、である。
体調を崩し数日寝込んでいた俺を心配してわざわざ部屋まで様子を見に来てくれたのだ。ドア越しに「大丈夫?」と声をかけ、水分補給用にドリンクを置いてくれたその気遣い。俺は嬉しくて、ほんの少しでも彼女の近くにいたいと願った——その瞬間、俺の能力は無意識に発動してしまった。

よりによって“パンツ”に。

どうする? どうすればいい?
気づかれる前に解除? いや、意識を切り離せるのは確かだが、その瞬間“何かをした”気配を感づかれる可能性がある。バレたら最後、俺の学園生活は間違いなく終焉を迎えるだろう。いやそれどころか、人としての存在価値が地に堕ちる。

冷や汗が止まらない。心臓は限界突破のドラム演奏を繰り広げ、全身の血液が真っ赤に煮えたぎるのを感じる。

「……新戸くん?」

やばい。やばい。やばいやばいやばい。
ドアの向こうから、柔らかな彼女の声が届いた。俺の意識は二重になり、耳から聞こえる彼女の声と、“そこ”を通して伝わる彼女の体温とが同時に押し寄せてくる。

俺は叫びたい。
いや、叫んではいけない。
これは耐久戦だ。自分との戦いだ。

頼む、神様。せめて今だけは、俺に“無”の境地を与えてくれ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

交換した性別

廣瀬純七
ファンタジー
幼い頃に魔法で性別を交換した男女の話

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...