青鷺 〜好きな人に振られてしまったので、彼女の✖️✖️✖️に転生しました〜

じゃがマヨ

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第6話 初恋というのは、往々にしてバカげている

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思えば1年前の春だった。俺と彼女が出会ったのは。

桜が咲き乱れ、やたらとリア充どもが「入学式デビューだぜ!」とばかりにスマホ片手に写真を撮りまくっていたあの日。
俺はといえば、すでにその時点で人生のテンプレートを見失いかけていた。
東京湾に浮かぶ人工都市「学術都市・東京区」への転入初日。田舎の片隅から放り込まれた俺は、まるでゲームでチュートリアル飛ばしたまま最初のボス戦に突入するタイプの新米だったからだ。

(やばい……やばい……! 教室どころか校門に入る前に胃が痛い……! お母さん俺もう帰っていい?)

校門をくぐった瞬間、俺は人の群れに飲まれた。
スーツ姿の教師、未来的なデザインの制服に身を包んだ新入生、ロボ犬を連れて歩くやつまでいる。
完全に場違い。俺だけがRPG世界に迷い込んだモブ村人そのもの。

そんな俺の目に飛び込んできたのが——彼女だった。

三崎あかり。
およそ1ヶ月には学年のトップ、能力適性Aランク、才色兼備、教師からの信頼も厚く、まさに「学術都市・東京区」の広告塔にして看板娘になるであろう天才少女とのエンカウント。
だがそのときの俺の目には、彼女がそんな肩書きを持つ未来を描くことになるとは思いもせず、ただただ——

「……太陽だ」

そう愕然と思ってしまう自分がいた。
口をついて出たのは、誰に聞かれるでもなく零れ落ちた言葉。
本当に太陽みたいに眩しかった。
柔らかく風に揺れる黒髪。
桜の花びらを反射して煌めく瞳。
ほんのり赤みを帯びた頬に、少し照れくさそうな笑顔。

その光景を見た瞬間、俺の心臓はジャンプした。
いや、正確に言うとジャンプして着地に失敗し、足をひねって転んだくらいの衝撃だった。

(お、俺……なにこの感覚!? 体内で爆弾でも爆発したのか!? 心拍数がBPM200を超えてるんですけど!? 医務室どこ!?)

それが人生で初めての“恋”だった。

——だが、現実は残酷だ。

彼女はその場で、俺に笑顔を向けて言ったのだ。

「大丈夫? 新入生だよね? 道に迷った?」

その瞬間、俺の脳内でパニックアラートが鳴り響いた。

(しゃ、喋ったああああああああああ!?!? 声が尊い!! 耳が幸せすぎて爆発する!! 鼓膜に永久保存したい!! ていうか俺に話しかけてるのおかしくない!? 俺ただの地味男だぞ!? これはドッキリ? もしかして背後にカメラ回ってる!?)

あまりの緊張で口から出た言葉は——

「……あ、あ、あの、その、はいっす……!」

(はいっす!? 何だはいっすって!? 返答の語彙力どこいった!? 俺の辞書にそんなスラングあったか!? いや待て、今の俺は完全に不審者! 入学初日からやらかしたあああああああああ!!!)

だが、奇跡は起こった。
彼女はそんな俺の挙動不審な返事に、クスッと笑ったのだ。

「そっか。なら一緒に行こうよ。入学式、もうすぐ始まるから」

笑顔。
ただそれだけの行為が、俺の中の何かを完全に焼き切った。
その瞬間、俺は誓った。

(俺、この人のこと……一生忘れられない……!)

——初恋というのは、往々にしてバカげている。
本人は真剣でも、第三者が見たらただのコメディだ。
だが俺にとっては、あのときの笑顔が世界を変える引き金になった。

それからの日々、俺は彼女の存在を意識しすぎて、あらゆる場面でポンコツを晒した。
体育の授業でボールを受け損ねて顔面直撃 → 彼女が心配して「大丈夫?」と声をかける → 心拍数300。
掃除の時間に雑巾を絞りすぎて手が攣る → 彼女が笑いながら「無理しないで」 → 精神HPゼロ。
購買でパンを買おうとしたら彼女も同じクリームパンを持っていた → 「趣味合うね」と微笑まれる → 即死。

(俺の人生……全部彼女にトドメ刺されてないか……?)

だが、確かに言えるのはひとつ。
あの春の日、彼女と出会ってしまった時点で、俺の人生はもう“ただの平凡な日常”には戻れなくなったのだ。

——そして今。
その“太陽”に、俺の魂はとんでもない形で繋がってしまっている。

ソファの上で無防備にテレビを見ている三崎あかり。
俺はその足元の……いや、正確には“とんでもない場所”から、その光景を見上げている。

(おい運命……! お前俺のこと嫌いだろ!? あの頃の純粋な初恋を、なぜ今こんな拷問イベントに変換してくるんだよ!?!?)

俺の精神は、甘酸っぱい思い出と現実の地獄が入り混じり、完全にカオスの渦へと呑まれていった——。
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