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白いパンツ

第6話

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 「ええから、はよ」


 言われるままにバックから出すと、こっちによこせと要求してきた。

 渡すのは構わないが、「話」があるんだよな?

 ってかなんで俺がボール持ってるの知ってるんだよ

 色々突っ込みたい気分だったが、女はボールを受け取った後金網をよじ登り、グラウンドの中に入っていった。

 …アグレッシブすぎない?

 俺も釣られて中に入る。

 草ボーボーのグラウンド。

 見た感じ誰も使ってないようだ。

 まあ、狭いし。

 草野球をするにしても、すぐ裏に家があるからあんまりかっ飛ばせそうにない。

 外野側のフェンスの向こうには海が見えた。

 へえ、こんな場所もあったんだな。

 感心していると、女はマウンドをならし始めた。

 話があると言ったわりにはちっとも話そうとする気配がない。

 ——にも関わらず、だ。


 「…あのさ、家に帰りたいんやけど?」


 痺れを切らして聞くと、女は不服そうに俺を見た。


 「せっかちな男やな」


 せっかちとな??

 そんなこと言われる筋合いはないし、話があるって言ったのはそっちだろ?

 勢いのままに睨み返すと、女はバックネット裏の方を指差した。


 「あんたに勝負を申し込む」


 …勝負。

 確かにそう聞こえた。


 …何?

 どういうこと?

 戸惑いながら、尋ねたんだ。

 そっくりそのまま、復唱するように。
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