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いや、ちがう、そうじゃない

第24話

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 リビングを占拠され、かれこれ1時間。

 おかんは夕食の準備をし始めた。


 一向に出ていこうとする気配がない女に怒りさえ湧き、無理矢理別室に連行した。


 「どういうつもりやお前」

 「なあに亮平君」

 「「なあに?」ちゃうわ!!」


 多重人格者かなにかか?

 怖いんだけど。


 「明日千冬に会いに行く。あんたも来るやろ?」


 …は?

 会いに行くって、いつ?


 「朝でも昼でも。とりあえず明日は学校ないし」

 「会ってどうすんや…」

 「あんたしばらく会ってないやろ?」

 「え…、そりゃ、まあ」


 会ってない。

 女の言ってることは正しい。

 だけど、どうして…?


 「あのさ、なんで色々知っとるんや…?」


 ずっと疑問だった。

 さっきから気になってしょうがないんだ。

 なんで何もかも知ってる?

 名前とか家族のこととか、そんなのはまだいい。

 どうして千冬にしか話していないことをお前が?

 だってあり得ないだろ…

 そんなこと…


 「せやから言うとるやろ。私は千冬の友達やって」

 「説明になっとらんがな。仮にお前が友達やとして、どこでそのことを知った?」

 「本人に聞いた」

 「嘘つけ」

 「ほんまや」


 女の目は嘘をついているようには見えなかったが、どうしても納得できなかった。

 千冬と2人で夢を追いかけていたあの頃、俺たちはよく海まで出かけた。

 この街のすぐ近くにある、海岸に。

 あの頃のことはよく覚えてる。

 アイツの家にだってよく遊びに行ってた。

 一緒に星を見ながら、未来についてを語り合っていたことも。
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