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嘘だろ!?

第87話

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 俺と千冬が…?


 …って、どういうことだよ、それ


 女はどこからか取り出してきたボールを持ち、それを俺に預けた。

 ボールは汚れていて、糸がほつれかけていた。

 土の匂いが染み込んでいた。

 色褪せた、グラウンドの匂いが。


 「夏は一回しかやってこん。やり直しが効かないんや。振りかぶったら、それまでや。もう、立ち止まることはできん」


 言いたいことは、なんとなくわかる気はした。

 夏は一回しか来ない。

 そんなことはわかってるさ。

 だから、アイツは憧れてたんだ。

 甲子園のサイレンと、一度きりの勝負。

 いつだって恋焦がれてた。

 いつか自分もマウンドに立つんだって、それだけを信じて。


 「あの日の一球のスピードを、まだ、世界は追い越しとらん。せやから、——もしそれが“運命”やとするなら、あんた達は永遠に、同じ時間に立つことができん。過ぎ去った時間を取り戻すことは」

 「なんの話や、…それ」

 「あの日、あんたとキーちゃんは、同じグラウンドの上には立たんかった。9回裏、ツーアウト。その場面で投じられた最初で最後の1球は、お互いに触れることができん1球やった。あの日のスピードにはもう、きっと、——追いつけない。…せやけど、私になら…」
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