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夕暮れと影

第144話

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 ………

 ……………………

 ……………………い

 …………………………おいって!

 


 後ろで何か言っている。

 声は届いていた。

 それが、俺に対して向けられている言葉であることも。

 肩を叩かれていることも。


 だけど、「時間」は停止していた。

 全てが凝固したかのように止まっていた。

 「流れ」そのものが失われていた。

 そう形容するより、他になかった。

 カーテンを開いて、その先に広がる確かな景色を、——見て。



 そこにいたのは、“千冬”じゃなかった。


 ——千冬 


 …じゃない?

 …いや、きっとそうだ。

 目の前にいるのは千冬じゃない。


 でも、…なんで?



 ベットの上に横たわっていたのは、知らない人だった。

 千冬と同じように鼻に栄養チューブを付けられていて、寝たきりになっている。

 一目でわかった。

 “千冬じゃない”と。

 それぐらい年老いていて、見た目は80歳から90歳くらいのおばあちゃんだった。

 部屋を間違えたのかと思い、外に出た。

 「番号」は合っている。

 フロアの階層も、病院だってそうだ。

 廊下を歩いている看護婦に尋ねた。

 この部屋にいた女の子は?

 どこにいったんですか?

 前のめりになり過ぎていたせいか、看護婦さんはかなり困った感じだったけど、ステーションで問い合わせてくれて、色々調べてくれた。

 だけどあの部屋には、ずっとあの人がいるみたいだった。

 「千冬」っていう入院患者も、その履歴も、どこにも残っていなかった。

 よくお世話してくれていたチーフナースの渡辺さんを見かけて、いてもたってもいられずに駆け寄った。

 千冬はどこに行ったんですか?!

 たまらずにそう聞くと、首を横に振られた。

 それどころか、俺のことを知らないみたいだった。

 目を合わせるなり、「誰?」って、冷たく言われて…
 
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