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俗に言うアレ

第214話

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 一之瀬さんを後ろに乗せて、学校を出た。

 三ノ宮の街並みは見慣れてるが、どこか新鮮だった。

 カラフルな色のビル群も、三ノ宮中央通りの喧騒も、街角の小さなベーカリーも。

 高架下の色褪せたコンクリートと、頭上を走る電車の音。

 視線の先に触れる街の輪郭は、どこか、艶がかったように真新しい。

 唸るようなエンジン音が聞こえて、すれ違うヘッドライト。

 錆びたフェンス沿いを走って、いくつかの細い路地を通った。

 何度か、通ったことのある道。

 結構昔だっけ?

 市民球場に向かう時に、よく通ってた。

 水路の上に掛かった小さい橋掛けを飛ぶように渡って、住宅地をジグザグに走り。

 
 見慣れたとは言っても、普段はあんまり通らない。

 ここらへんをうろちょろするのは、最近だと、友達の家に行く時とかかな?

 つっても、最近はほとんど通ってない。

 そのせいかわからないが、久しぶりに通る街並みの一つ一つに、見たことがない景色があった。

 塗装の剥げたカーブミラーも、ラーメン屋だったはずの場所にある、小洒落た美容室も。


 街も、変わっていくもんだな…


 ペダルを漕いだ時に感じるゆったりとしたスピードが、柔らかい感触の中で、少しずつ速度を増していく。

 煙たいくらいに排気ガスが宙を舞い、交差点を横断する無数の影が、波のうねりのようにチラチラと飛び跳ねていた。

 夕日が降りてくる空の真下には、鮮やかな黄土色が、地面のいちばん低いところを焦がしている。

 いつもと何も変わらないようで、180度、何かが違う。

 そんな奇妙な感覚に囚われながら、目まぐるしく動く賑やかな三ノ宮の街中を、俺たちは走った。
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