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丘の坂道

第284話

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 「夢って言ったって、千冬は、もう…」

 「さっきの世界は、キーちゃんの夢の中の世界でもある」

 「…はぁ!?どういうことや??」

 「もしあの日事故に遭わんかったら、海に溺れることがなかったら、今頃ここに、キーちゃんはおらん」

 「…そんなん言わんでもわかっとる」

 「世界はそうやって成り立っとんや。過去と未来の分岐点が、互いに交錯し」

 「…過去と、…未来?」

 「世の中に起こる出来事は、一つだけやない。常に色々なことが起こり、波の流れのように揺れ動いとる。“時間”は、限られた方向にしか進まんのやない。前後左右、そのどの方角にも動き続けとる。…せやから、「運命」なんてものは存在せんのんや。この世界の、どこにも」


 運命がどうとか、難しいからわかんねーよ。

 あの日がなかったら

 あの事故が起こらなければ

 そんなことを考えたって、あの日の出来事が変わるわけじゃない。

 違うか?


 「…そうやな。けど、まだ“未来”は変えることができる。これから先どんなことが起きるとしても、明日が来る前の、——今なら」

 「未来なんてどうでもええ…」

 「まだ“間に合う”って言うとんや」

 「間に合う…?」

 「まだ生まれていない未来。夏の季節の向こうに、今からでも行ける」

 「…で?何が言いたいんや?そんなところに行ったってしょうがないやろ?…それともなんや?千冬がおるって言うんか?」

 「そうや」

 「…冗談はやめてくれ。千冬はここにおる。…未来なんて…、あり得ん…」

 「キャッチボールするって、考えとったんやろ?——今日」

 「そりゃっ…!」


 そうだ。

 誘おうと思ってた。

 学校が終わったあと、無理言ってでも。


 …でも、目の前にいない。

 目の前にいた彼女は、違う世界の「千冬」なんだろ…?

 …よくわかってねーけど


 「確かにそうや。けど、繋がっとるんや。この世界と、さっきの世界は」


 繋が…ってる?

 でもさっきお前は、“ここにはいない”って…


 「ここにはおらん。せやけど、それはあくまで一つの意味に過ぎん。「時間」は全部繋がっとる。キーちゃんはこの世界に1人しかおらんが、かと言って“孤立”しとるわけやない。…せやから、「未来」はまだ決まっとらんのや。——明日、雨が降るかどうかが」

 「…どういう」

 「私があんたを連れて行ったのは、時間の「壁」の向こう側や。未来では、ベッケンシュタイン境界、——通称“ゲート”と呼ばれとる。現在と現在の間にある、次元の狭間や」
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