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毒キノコでも食った?

第373話

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 「おはよ」

 「今何周目ですか?」

 「2周目」

 「よし。ならセーフ」

 「いやアウトやろ」


 部室の裏の生垣を横切って、学校の外に出る。

 パステルカラーのひさしが設置してある可愛らしいクリーニング屋が、開店準備を始めてた。

 おはようございまーす。

 今日も朝から水やりですか?

 チョロチョロと音を鳴らしながら、じょうろの先で水が滴ってる。

 水を浴びるキンモクセイが、髪を振りほどくように水雫を弾いてた。

 キラキラと光る葉っぱ。

 朝の日差しの下に寝転がるマンホール。

 ピトッと張り付くてんとう虫が、テクテクと葉っぱの上を歩いていた。

 クリーニング店の窓に映る向かい側のアパートで、ベランダに干してあるシャツが、ハタハタと風に揺られ。


 窓のたくさんついている背の高いマンションは、ランニングコースの景色の1つだ。

 パンダの置物があるフラワーショップも、誰もいない交番も。

 部室のすぐ後ろは坂道になってて、周りには何もない。

 何もないっていうか、ほとんどが家とか、アパートとか。

 山沿いの街並みが、遊歩道の柵の向こうに広がる。

 春になると綺麗な桜の並木道が、学校前の通りに続いていく。

 部室はグラウンドの中にあるんだけど、神戸高のグラウンドは校舎とは別の敷地にある。

 校舎は坂の上にあって、いちいち上ったり下りたりするのがめんどくさい。

 神戸高の生徒にとっては苦行以外のなんでもない。

 『地獄坂』

 神戸では有名な坂だ。

 グラウンドはその坂の下にあって、今はラグビー部と兼用のグラウンドになってる。

 まぁ、つっても、他の部の人たちもちょろちょろしてるけどね?

 陸上部なんかはしょっちゅう端の方でトレーニングしてるし。

 専用のグラウンドがあるってのに。



 坂道は文字通り急勾配で、カーブミラーがあるブロック塀の前まで続いている。

 そのまま道なりに進んでいくと、山の麓に着く。

 摩耶山の麓だ。

 実は、朝のランニングが練習の中でいちばん好きかもしれない。

 練習は大変だけど、坂道の上から眺める景色が、すごく綺麗だから。


 「フゥ…フゥ…」

 「おい、シャキッとせぇよ」
 

 ランニング程度で息を切らすな。

 亮平がおかしいのは態度だけじゃない。

 色々とは言ったが、仕草とか言葉遣いとか、基本全部。

 大体走り方おかしくない?

 いや、別に変な走り方だとは言わないけどさ?

 なんかもうちょっとこう…気だるそうな感じじゃなかった??

 こっちの思い過ごしだといいけど。

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