The Dead Crisis‐デスゲームに巻き込まれたけど生き残る!

Bastion

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序章「運命の時」

3話「天才と流浪の者」

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「答えてください、ここは何処ですか?」


「知らねぇ!俺達は本当に何も知らねぇんだ!」


 棒読みの様なあまり心の篭っていない声を出しながら、童顔の少年は双剣の尖端を地面に転がる様にして倒れた男の喉仏辺りに向ける。

 尖端は、もう喉仏の目と鼻の先にまで迫っておりもう少し先に剣の尖端が進めば、喉を剣で突き刺される事になるだろう。
 少年はギリギリで停止させているものの、その目に宿る殺気は剣の尖端を前に押し進める事に対して何の躊躇いも持っていなかった。

 何も使い道が無いのなら、それは必要ないのと全くと言って良い程同義だ。
 使えるのなら使えるまで使う、使えないのなら容赦無しに切り捨てる、それだけだ。


「そうですか、ならもう結構です」


 躊躇いなんて必要ない。少年は両手に握っていた片手剣の内、左手に握っていた剣で男の喉元を刺し貫いた。

 男は、死ぬと言う恐怖と前の戦いで負った傷の痛みによる苦痛で表情を歪め、先程までの威勢のある顔とは打って変わって、情けない面を晒しながら息絶えた。


「全く、汚い…」


 喉仏を剣で貫いた事で、刺し貫いた剣には大量の血が付着している。

 男をまた一人刺した事で、異常な程の血が吹き出した。
 少年は、血の付いた剣を強く振るい血を払う。

 強く振るい、空を斬った剣は刀身に付着した血を落としていく。
 血飛沫が舞う様にして、剣に付着した薄汚い血は地へと落下していった。

 さっきから何回もやっている事だ。


 少し前から聞いて回っては殺して、聞いて回っては殺してを何回も繰り返している。

 大体の場合は、聞く前に向こうからこちら側に吹っ掛けてきて、そのまま返り討ちにしていたのだが…。


 しかし、低能な奴らばかりだ。さっき殺した男でもう13人目だ。

 謎の場所で目覚めた後、それまで出会ってきた奴なんてたかが知れた様な奴らばかりだった。

 気を失って目が覚めてすぐ、少年は複数人のガラの悪そうな男女に囲まれていた。
 目的は恐らく金品や金になる物でも奪い取ろうとしたのだろうか。

 目覚めた事に気が付くなり、手に持っていた粗末な武器を自分に向けてくる。

 勿論、油断しっぱなしで何も敵に対する対策も取っていない。


 そんな奴らから首を飛ばす事なんて余裕であり、非常に簡単な話だ。
 敢えて怯える様な仕草を見せて、見え見えな隙をついて敵の首を落とす。何も難しい話ではない。


 その後は、この何処か分からない場所を探索する為に、そして自分が何処にいるのか知る為に行動を始める。

 道中で、自分と同じ人とは出会ったがどれも正常とは言えない様な奴らばかりだった。


 目が合うなりチェンソーで斬りかかってくる者。

 言語が一切通じず、コミュニケーションを図る事が出来ない者。

 明らかに吸ったらダメそうな薬を摂取している者。


 等々、低能を通り越して最早異常とも捉えられる様な奴らばかりと出会ってしまった。

 無論、全員何の使い道もない為残らず全て葬ったが……。


 ◇◇


 そして、話が通じない奴らばかりとしか出会ってこなかったが故に彼はまだここが何処なのか未だに把握出来ずにいた。

 話し合えば通じる、と言う手は通じる事はなく、話を行おうとする前に向こうから攻撃を仕掛けてくる。
 これでは話し合い所ではなかった。

 話し合いで解決とは、この場所では難しいのかもしれない。
 敵意を見せていないにも関わらず、目に入った者全てを敵と認識して排除しようとする。

 全く、馬鹿の極みだ。


 お陰で余計な体力の消費、無益な殺生、挙句の果てにはここが何処なのか等と言った情報を何も得る事が出来なかったと言う、三重苦を味わう事となった。

 家の外で突然気を失ったと思って目覚めたら、これだ。
 あまりにも耐えられない様なバカバカしく、くだらない状況ではあったが、前の時と対して変わっていない様な気がするので精神崩壊等が自身の身に起こる様な事はなかった。


「ふぅ……水よ…来たれ」


 移動や戦闘で、少しばかり体力を使い過ぎてしまった彼は一旦休憩を取る事にした。
 適当に、座れそうな場所を見つけた彼は一度腰を下ろして座り込むと右手を出して、水よ来たれと詠唱を行う。

 すると、彼の右の手の平からは透き通る程の非常に美しい水が流れ出てきたのだ。

 そして、彼は透き通る程の美しさがある水が出てきた事を確認すると、そのまま流れ出てきた水を口の中に流し込んだ。

 喉が多少乾いていたと言う事もあってか、口の中を流れ、喉を通っていく水は少しだけ甘く感じられた。

 勿論の事を言わせてもらうが、彼の手は水道用の蛇口ではない。

 しかしそれにも関わらず、何も無いただの手の平から水が出てきたのだ。

 これは所謂「魔法」と言う物だ。
 彼の世界の場合は、魔法を使う為のエネルギー的存在である「魔力」を消費して使用するのが一般的であり、基本的には誰でも使う事の出来る便利な機能だ。

 一応、補足をさせてもらうが「使えない」なんて事は一切ない。時折、魔法が使えないだのうんたらかんたら言っている様な出来事をよく耳にするが、あんなのただの迷信だ。

 少なくとも、世界をそれなりに知っている彼からすれば魔法が使えない事なんてまず有り得ない話だ。

 だが、この世界なら例外はあるかもしれないが…。


「ふぅ…」


 求めていた水を飲めた事で、喉を乾きを潤し、体力も回復した彼は再び行動を開始する事とした。

 方向も、場所も分からないままであったが動かなければどうにもならない状況下に置かれている為、少年は再び足を動かし始める事とした……。


「……お、生存者発見!」


 聞き慣れない声、姿が見えないにも関わらずこちらの存在には気が付いている。
 彼はすぐさま、足を僅かに開いて踏ん張る姿勢を取り、鞘に納められた剣の柄を握り締める。

 険しい表情を崩さぬまま、少年は周囲を見渡す。


「何者、ですか?」


 少年は周囲を警戒しながら見渡し、まだ変声期ではないにも関わらず、相手を脅すかの様な少し低めの声で話す。

 しかし少年に話しかけてきた謎の人物はお堅い感じで話している様な口調とは打って変わって軽率で軽く、軽快な感じで話しかけてきた。


「そう怖い顔すんなよ、坊や…」


 そして、姿の見えていなかった人物は遂にその姿を見せた。


「貴方は…?」


 目の前に現れたのは一人の女性。やけにニヤニヤとした軽く笑うかの様な表情を浮かべており、敵かもしれない存在が目の前に立っているにも関わらず、警戒心の無さそうな立ち振る舞いをしている。

 しかしそんな事よりもこの歳になって坊や呼ばわりされるとは思っていなかった。
 確かに少しばかり幼く見えるが、これでももう15歳だ。
 本当なら成人している人間だ、なのに目の前の女性は彼の事を坊やと読んだ。

 格下の様な呼ばれ方をして少しばかり気に食わないと感じた。


「アタシはエルヴァ…「エルヴァ・グレイザー」だ。お前は?」


 くすんだ黒色の髪に、赤色のインナーカラー、そして少々短めのウルフカット。
 そして、狙っているかの様な胸元を開いたライダースーツ風の衣装。やけに扇情的だ、デカいし。


 しかし、ようやくまともに話し合える人間が出てきてくれた。
 この手を逃す機会はない。まだ向こうは攻撃を仕掛けてきていない、なら取り合ってもらうのは簡単な話だ。

「僕はシン…「シン・ティルモディア」ティルモディア家長男、次期18代目ティルモディア家当主!」


「シン……あぁ、お前の家ボンボンだろ?」


「……まぁ、間違ってはいない、です」 


 エルヴァの言う通りだ。シンの家は過去の時代から語り継がれてきた名門貴族の家だ。

 言ってしまえば、シン自身も坊ちゃん的存在で間違ってはいなかった。
 家は金持ちで、将来は間違いなく約束されている。
 下級の人間からは考えられない様な裕福な生活をしている事は否定しない。


「まさか……!?」


 もしかしたら裕福な貴族と言ったお金持ちな家の者を襲う盗賊的な奴なのか?
 それなら、気さくに自分に話しかけてくるのも納得出来る。

 シンは若干緩めていた警戒心を再び取り戻し、両腰に装備された鞘に納められていた剣の柄を強く握り締める。
 いざとなれば剣を抜く事に躊躇いはない。


「いや、待て待て!アタシは別にそう言う奴じゃない!アタシもお前と多分同じだ、変な場所で目覚めた同族だ!」


 しかし、シンの想像していた奴とは違う。エルヴァは武器を出す事はなく、首を横に何回も振り、両手を前に出して静止しろと言いたげな動きを見せる。

 エルヴァ自身もこの暗闇の中で目覚めた身だ、出来る限りなら情報は欲しい所だった。


「な、そうなんですか?」


「あ、あぁそうだよ。アタシも賞金首追ってたら気を失っちまってな…気付いたらこの真っ暗な世界の中にいたって訳よ。えぇっと、シンだっけ?お前は何か知らないのか?」


「申し訳ありません、先に警戒した事を謝罪します。それと僕も同じ様な経緯なので、ここの事については何も知らないんです」


 どうやら、相手も同じ様な事情を抱えている様であった。
 向こうも迷い人、と言う事か。一応生存者と会う事は出来たが事態は何も好転しない事にシンは僅かに苛立ちを覚える。


「ま、知らないにしてもここは一緒に行動しようぜ?」


「そうですね、効率的に考えて僕と一緒の方が……」


「まぁ…そうお堅い事言いなさんな、貴族の長男殿!」


 そう豪快にエルヴァは言い、まるで小動物を愛でるかの様にして彼の小さい頭をガサツに何回も撫でたのだった。
 それなりに屈強ながらも、綺麗で整った美しい彼女の手。そんな手で頭を撫でられてしまったシンは思わず頬を赤らめる。


「ちょ、ちょっと!」


「ははっ、そう照れなさんなって!」


 実の所、こう言う少しガサツで姉御肌な感じの年上の女性は…嫌いじゃない。
 ここまで急に接近された事は初めてではあるが、何故だろうか…あまり嫌な気がしない。

 やはり昔からの年上好きと言うモノが出てしまっているのだろうか。

 そうシンは考え込み、照れながらも疑問を覚える様な表情を浮かべた。
 ビビってしまい僅かに体が震えた事については気にかけられなかったが…。
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