The Dead Crisis‐デスゲームに巻き込まれたけど生き残る!

Bastion

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序章「運命の時」

2話「非稼働的」

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「あ、あの~だ、誰かいませんか~?」


 必死になって、恐怖を押し殺した声で彼女は何とか明るい雰囲気を作り出そうとする。


「あ、あの~」


 暗闇の中、光魔法によって光源を生み出して明かりを作り、周囲を照らしながら進む一人の少女がいた。

 今にも恐怖と不安から、へたり込んでしまい恐怖のあまり体を震わせて失禁してしまいそうになるが、一人の少女は自らが愛用する錫杖を強く握り締め、恐怖を堪える。

 唯一の救いは明かりが展開されていると言う事。
 展開された明かりのお陰で、完全に周囲が暗闇に包まれる事はなく、全てが闇に覆われると言う最悪の事態は避ける事が出来た。

 もし今、完全に周囲が暗闇に包まれてしまったら立っている事すら出来なくなってしまうだろう。
 暗闇が立ち込める未知の中、彼女は巫女的存在であるシズルは一人暗い道を進む。


 若干猫背になりながら、両手を小動物の様にして震わせてシズルは狐の様な二つの耳をピクピクと動かしながら前へと進む。


 そして数歩進んだ時、シズルは背後に気配を覚える。
 本能の鋭い獣、狐としての力もその血に宿すシズルは他者の気配を感じ取る事は苦手ではなかった。

 唾を飲み込み、恐怖に打ちひしがれそうになり表情は益々不安な顔へと変わっていく。

 まさか、自分を殺す人間?

 嫌な考えが不意に脳内を過ぎる。
 嫌な事を考えてしまうと、自然と悪い方に考えが向いてしまうのが普通だ。

 不意ながらも、全くと言って良い程宜しくない考えを想像してしまったシズルは思わず自分が死ぬと言う幻覚に捕らわれる。

 今、後ろから小さいながらも感じる気配。それがもし自分の事を殺そうとしているのなら?


 今から走って逃げ出す?
 いや、逃げた所で自らが感じる気配は未知の存在だ。

 今から後ろを振り返らずに走った所で、間に合わないかもしれない。
 それに、着用している服はあまり長時間走る事には適していない巫女服であり、履いている専用の草鞋も高速で走るのには向いていない。

 シズルの表情が、どんどん絶望と恐怖に染まっていく。その目には明らかに恐怖が宿っている。

 呼吸は次第と荒くなっていき、短い感覚で何度も口呼吸を激しく、そして荒く行う。
 手の震えは先程よりも強くなり、足の震えも起こっていた。


「はァ……はぁ…」


 ――ダメ!深呼吸しなきゃ!


 そう必死になってシズルは自分に言い聞かせる。
 深呼吸、深呼吸しろ。そう何度も、何度も自分に言い聞かせる。

 少しは落ち着けるはずだ、はずなんだと。
 しかし、目の前に広がり続ける圧倒的な闇の世界と背後に感じた何者かの気配による恐怖は、想像の域を余裕で脱していた。

 シズルは目の前の恐怖に対して、深呼吸程度では恐怖と動揺を落ち着かせる事は出来なかった。


「이봐요!(おい!)」


 聞き慣れない言葉、全くと言って良い程聞いた事のない言語にシズルの恐怖は更に高まっていく。
 恐怖のあまり吹っ切れてしまったのか、もしくは勇気が出たのかは知らないが……。

 気が付いたら、シズルは後ろを振り向いていた。
 もうどうせ死ぬのだろうと言った考えがあったと言うよりかは、もう何も考えていなかっただけだった。
 何も思考が回らなかっただけ、何か考える前に体が動いてしまった。それだけの事だった。


「……!」


 無言のまま、ロボットの様にぎこちない動きで首を背後の方向に捻り、シズルは背後に感じた気配を確認する。


「뭐하는 거야! 죽고 싶은가!?(何やってる!死にたいのか!?)」


「え、え…え、ええ?」


 焦った口調で口走った結果、思わず母国語が口から飛び出してしまった。


「あ!すまない…使用言語を間違えた…」


「ご、ごめんなさい!ごめんなさい、ごめんなさい……!」


 相手が何を言っているのか一切分からないシズルは恐怖が遂に頂点を突破してしまう。
 両手に握り締めていた錫杖を思わず手放し、地面にしゃがみ込んでしまう。

 両手で頭を抱えて周りを確認する事なく目を閉じ、ブルブルと震え続けてしまう。


「お、おい…」


「お願いします、殺さないで!何でもしますからぁ!」


 最早、人間としての尊厳を全て捨ててでも彼女は生き残りたかった。生存したいと言う願望に縛られた彼女は、只管に生を懇願する。

 死にたくない、死にたくないと心の中で何度も叫び、生き残る為なら何でもすると言う。


「……すまん。驚かせたみたいだな…」


 流石にこれは、彼もやり過ぎてしまったかと思った。別に驚かすつもりはなかった。
 しかし、暗い道を目立つ様な明かりを照らしながら歩く女性がいたものなので焦って飛び出したらこのザマだった。

 本当は助けようとしたが、母国語が口走って出たのが間違いだったのかもしれない。
 急に知らない言語なんて話されたら、それは驚かれるのは当然だ。


 闇の中から現れた一人の青年は、驚かせてしまった事を謝罪すると、シズルの肩に手を置き、しゃがみ込んでしまっている彼女と同様に自分も姿勢を低くする。


「え……えぇ?」


 驚きと恐怖のあまり、その表情は恐怖に支配され、目元からは涙が流れていた。
 その儚く、傷付いた姿には彼も何処か美しさを覚える。
 しかし、その姿を作ったのは紛れもなく自分自身とこの闇の世界だ。


「大丈夫か?」


「うぅ…はい。あ、あの貴方は?」


 一人の少女は涙を拭いて、しゃがみ込んでいた状態から立ち上がった。
 ちゃんと通じる言葉を話す事の出来る普通の人と出会えたのが嬉しかったのか、彼女は落ち着きを取り戻した。


「俺はサイファーと言う者だ」


 紺緑と黒色の混ざったサイバー風ジャケットと、ジャケットの下に着たお洒落なシャツ。髪型もツーブロック風の髪をしている。
 中々の美形でクールな声を持つ男は、サイファーと名乗った。


「サイファー…さんですか。私はシズル、クジョウ・シズルと言います……あの~急で申し訳ないんですけど、ここは一体何処なんですか?」


 突拍子も無しに、シズルはサイファーに対してそう質問を投げた。
 シズルは、気が付いた時からこの光が差さないこの暗闇の世界に一人立っていた。ずっと状況と、ここが何処なのか把握出来ていなかったシズルは、目覚めてから初めて出会ったサイファーに質問を投げる事にした。


「ここは……一言で言えば無法地帯だ。そこらで凶暴な奴らが、殺し合っている…」


 サイファーがそうシズルとは目を合わせずに、周囲をキョロキョロと見渡しながらやや焦った様な口調と僅かに動揺している様な表情で言う。

 シズルはサイファーの言葉に嘘は無い様に思えてきた。
 確かにこんな緊迫している様な状況で、サイファーが手の込んだ嘘をつく様には思えない。

 シズルは、彼の言葉を疑う様な事はせずに彼の言葉を信じる。
 しかし信じると言う事は、目の前に広がる恐ろしい現実を認めるのと同じ行為であった。


「え、それって普通に考えたら…」


「俺達みたいな奴は、他の奴らから見れば格好の餌だ……。おい、走れるか?」


 急に走れるかと聞かれて、シズルは思わず戸惑ってしまう。
 正直な話、走れるかと聞かれれば答えはいいえだろう。

 第一、今履いている靴自体が走る事にあまり適していない。下手に長時間速く走ってしまえば、靴が磨り減るかもしれない。


「えぇっと、今履いている靴があまり走る事には…」


 その言葉に、サイファーはピタッと動きを僅かに止め、軽く唸る。


「っつ……まぁ、それなら仕方ない。軽く走れるだけでもいい。急いでここを離れるぞ」


「は、はい!」


 そう言って足早に軽く走り出したサイファーの後を、シズルは落としてしまっていた錫杖を再び握り締めて、彼の後を追う。

 この状況の中で頼る事の、いや縋る事の出来る人物はサイファーただ一人であった。
 この闇の中に再び一人で取り残されるなんて以ての外なので、シズルはサイファーの後を追う以外の選択肢はなかった。


 ◇◇


 二人で争うと言う選択を取らずに、非稼働的に足を進める中でシズルはやや早歩きになりながらサイファーに話しかける。


「あ、あのサイファーさん」


 まだ会って間もない、そして恐らく年上の異性と言う事で、少したどたどしくそして僅かながら言葉が詰まってしまうも、シズルは何とか言葉を紡ぎ出す。


「ん、どうした?」


「無法地帯って、どう言う事…ですか?」


 ここは無法地帯、その言葉がシズルにとっては大きな疑問であった。
 無法地帯、自分の住んでいる場所の近くにそんな風に呼ばれている場所はなかったはずだ。
 一体、どう言う事なのだろうか。


「そのままの意味だ。ここは俺もお前もいた世界じゃない…また別の空間。別の世界…」


「え、それってどう言う…」


 続きの事を聞こうとしたシズルだったが、突然シズルの足の速度に合わせて進んでくれていたサイファーが立ち止まり、シズルに進まない様にとサインを送る様にして右腕を横に広げた。

 突然のサイファーの行動に戸惑いを隠せないシズル。

 疑問の表情と、首を僅かに横に傾けながらシズルはサイファーを見つめる。


「さ、サイファーさん?」


「先に連中が見える……」


「それって……つまり…」


 サイファーの言葉を聞いて、シズルも何となく何が起こっているのか察してしまった。

 サイファーのその非常に落ち着きのある忠告の声から、シズルは今自分達の先にいるのがどの様な存在なのかを知ってしまった。


「じゃ、じゃあどうすれば…」


「ふっ……」


 再び、恐怖が蘇り体を震わせながら焦る様な表情を浮かべるシズル。
 しかし、サイファーはまるでようやく出番が回ってきたかの様にして、やかに面白そうにクールな笑みを浮かべる。


「空から破壊してやる」


 すると、サイファーは背中に背負っていた小型の何かを取り出した。
 背中に背負っていた一つの物体。最初は折り畳まれた様にして収容されていた為に、何なのかは分からなかったが、サイファーは強引にそれを掴むとそのまま闇が広がる空の上に放り投げた。


 前進翼の翼、黒塗りのフォルム。軍的な見た目をしたその姿。

 小さくジェットの音を響かせながら、闇夜の空を駆けていくその姿は正に戦闘機であった。


「え、あれって……」


「俺の操縦式偵察用無人機だ。これで偵察及び攻撃を行う」


 そしてサイファーは、何処かからリアルタイムカメラが搭載された操縦モニターを取り出すと、片膝を着いて僅かにしゃがみ込みながら無人偵察機の操縦を開始する。

 シズルは彼が何をやっているのかが全く理解出来なかった。
 突如として、空に何かを飛ばしてよく分からない装置の様な物を一人弄っている。


「あ、あの何を?」


「心配するな、俺達が有利に立ち回る為の事だ……見ていろ」


 そう言ってサイファーは、指の動きを速めたのだった。
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