8 / 10
第一章 伯爵の策略と子爵の苦悩
第7話 英雄のできあがり?
しおりを挟む
第7話 英雄のできあがり?
ドドドドドドーー!!
地響きまでする音が聞こえる。
メイちゃんさんは『素晴らしい』と何度も頷いていた。
「ふぅぅ」
弟は深呼吸すると頭を机に乗せる。
「だ、大丈夫?」
「うん、ちょっと疲れた」
ちょっとか?と疑問に思うが飲みこもう。
形勢逆転とはこのこと。
大きな大きな岩は弟が「よし」と言って手を一度叩き消えた。砂埃が舞う敵陣営は動かなかった。
メイちゃんさん部隊はそのまま真っ直ぐ敵陣に向かい残った兵士を薙ぎ倒している。
蹂躙ーーーいや、もっと怖い言葉があるんだろうけど絶対勝てない相手に逃げることもできない状況はなんとも恐い光景だった。
しばらくすると母さんが後ろから「何してるのー?」と声をかけてきたので「父さんを見てるの」って答えたらズズいと顔を水晶玉に近づけて「どこ??」とちょっと怖かった。恐怖はここにも。
「メイちゃん、父ちゃん見せてー」
弟が声をかける。
『はい、マスター』
視線が下がり地面に降りたつと父さんが座り込んで遠くの光景を見ていた。
「あなた!!」
叫ぶ母さんにビックリしてのけ反ってしまいボクは椅子から転げ落ちる。
「メイちゃん、父ちゃんに母ちゃんが見てるから何か言ってと伝えて」
『はい、マスター。御尊父様、貴方様の奥方が見ておられますよ』
『ぇ、何??なんて言ってる?』
「もっと簡単にー」
『はい、マスター。奥様が私の目を通して見てます。何か一言お願いします』
『見てる?見てるって…むしろ味方で良いのか?』
『あ…はい、もちろんです』
なるほどと手を打ち自分で納得するメイちゃんさん。
『そういえば、申し訳ありません。ご挨拶が遅れまして私はマスタージェイクの専属メイドでメイちゃんと申します。以後お見知り置きを』
『あ、あなたのおかげで助かったけど敵がいなくなったのもその……メイちゃんさんが??』
『いいえ、マスターから借りて操作しただけです』
・・・
『なんだか分からないが窮地は脱した!ありがとう!』
メイちゃんさんの肩をバンバンと叩きいつもの父さんに戻った。
「あなた無事なのね」
両手を組んで胸に押し当てて母さんが俯き泣いていた。
やっぱり心配だったじゃないか。ボクまで泣けてきた。
「あとは掃討戦だから時間の問題だけだね」
領主陣営が呆気にとられる中、メイちゃんさんの軍団は進行して掃討戦も終了。
その場で白い軍団が消えて風の音だけになる。
「メイちゃん、今はみんな混乱してるから一旦離れて様子見でー」
『はい、マスター』
『それでは一旦離れます、敵はもう居ませんのでみなさんで休息を取られたらどうでしょうか?私のことは他言無用でお願いしますね』
釘を刺すのを忘れないメイちゃんは森の影へ移動する。
父さんが周りに声をかけて皆は集まり生き残った無事を喜んでいた。
◇◇◇◇◇
・
・・
・・・
領主の兵士数名と農兵が集まると敵陣の様子を見ていた斥候が敵全滅の知らせを持ってきた。
動く影なし。逃走した形跡もないという「殲滅」で終わった。
敵の遺物をどうするか話し合っていると馬の走る地響きが近づき皆の前で止まった。
ざわめく周りをよそに先頭からその場に合わない貴族服にマントを羽織った男性が歩み寄ってくる。
「戦ご苦労、私はクレール・ド・リヴィエール。隣の領地で伯爵をしている者だ。こちらに子爵代理は居るだろうか?」
「は、はい!」
文官のように見える痩せた男が前へ進み寄り顔を見せる。
「そちか、こちらで詳細を知りたい。今の戦況はどうか」
「はっ!今すぐ!」
足早に伯爵の下に駆け寄る文官はそのまま伯爵と共に離れて行く。残る兵士と農兵はその場で座り込み状況を見送る。
幾ばくかの時が過ぎて伯爵が前に出てくる。文官の姿は見えず立つよう指示がある。
「今回の戦、誠にご苦労!この場で褒美を渡す。我が兵士と共に一列に並んで欲しい」
手前にいる子爵兵士から伯爵の兵士を並ばせ二人ペアとなり並ぶ。ほんの30名ほどなのですぐに並び終わると北を向いて待てと指示が飛ぶ。
「やれ」
伯爵が呟くと正面から霧が立ちこめ視界を塞ぎどんどん濃くなり前が完全に見えなくなった。
静寂が包みドサっと音だけが聞こえる。
ドサッ ドサッ
次々に倒れる音が続き兵士が伯爵の元へ戻っていく。
「揃いました」
「よし、もういいぞ」
「はっ」
霧が薄くなり晴れていく。
そこには先ほどまで立っていた子爵兵士と農兵の姿が首を切り裂かれた状態で倒れていた。
「練度が伺えるな、晴れた天候時にここまでの濃霧を作り出すとは…」
「全員を確認」
一人の兵士が走ってくると伯爵に進言する。
「うむ、何か持っていたか?」
「いえ、何も」
兵士はすぐに返答し隊列に戻る。
「ご苦労だった。こいつらを敵のところにでも捨てて何も残してはならん。その足で子爵へ使いを頼むぞ?私が向かうとな」
上機嫌で馬に乗る伯爵はそのまま走りだし遺体を踏み進む。他の兵士は片付け班と奪取班に分かれて敵の遺留品を奪っていった。
ドドドドドドーー!!
地響きまでする音が聞こえる。
メイちゃんさんは『素晴らしい』と何度も頷いていた。
「ふぅぅ」
弟は深呼吸すると頭を机に乗せる。
「だ、大丈夫?」
「うん、ちょっと疲れた」
ちょっとか?と疑問に思うが飲みこもう。
形勢逆転とはこのこと。
大きな大きな岩は弟が「よし」と言って手を一度叩き消えた。砂埃が舞う敵陣営は動かなかった。
メイちゃんさん部隊はそのまま真っ直ぐ敵陣に向かい残った兵士を薙ぎ倒している。
蹂躙ーーーいや、もっと怖い言葉があるんだろうけど絶対勝てない相手に逃げることもできない状況はなんとも恐い光景だった。
しばらくすると母さんが後ろから「何してるのー?」と声をかけてきたので「父さんを見てるの」って答えたらズズいと顔を水晶玉に近づけて「どこ??」とちょっと怖かった。恐怖はここにも。
「メイちゃん、父ちゃん見せてー」
弟が声をかける。
『はい、マスター』
視線が下がり地面に降りたつと父さんが座り込んで遠くの光景を見ていた。
「あなた!!」
叫ぶ母さんにビックリしてのけ反ってしまいボクは椅子から転げ落ちる。
「メイちゃん、父ちゃんに母ちゃんが見てるから何か言ってと伝えて」
『はい、マスター。御尊父様、貴方様の奥方が見ておられますよ』
『ぇ、何??なんて言ってる?』
「もっと簡単にー」
『はい、マスター。奥様が私の目を通して見てます。何か一言お願いします』
『見てる?見てるって…むしろ味方で良いのか?』
『あ…はい、もちろんです』
なるほどと手を打ち自分で納得するメイちゃんさん。
『そういえば、申し訳ありません。ご挨拶が遅れまして私はマスタージェイクの専属メイドでメイちゃんと申します。以後お見知り置きを』
『あ、あなたのおかげで助かったけど敵がいなくなったのもその……メイちゃんさんが??』
『いいえ、マスターから借りて操作しただけです』
・・・
『なんだか分からないが窮地は脱した!ありがとう!』
メイちゃんさんの肩をバンバンと叩きいつもの父さんに戻った。
「あなた無事なのね」
両手を組んで胸に押し当てて母さんが俯き泣いていた。
やっぱり心配だったじゃないか。ボクまで泣けてきた。
「あとは掃討戦だから時間の問題だけだね」
領主陣営が呆気にとられる中、メイちゃんさんの軍団は進行して掃討戦も終了。
その場で白い軍団が消えて風の音だけになる。
「メイちゃん、今はみんな混乱してるから一旦離れて様子見でー」
『はい、マスター』
『それでは一旦離れます、敵はもう居ませんのでみなさんで休息を取られたらどうでしょうか?私のことは他言無用でお願いしますね』
釘を刺すのを忘れないメイちゃんは森の影へ移動する。
父さんが周りに声をかけて皆は集まり生き残った無事を喜んでいた。
◇◇◇◇◇
・
・・
・・・
領主の兵士数名と農兵が集まると敵陣の様子を見ていた斥候が敵全滅の知らせを持ってきた。
動く影なし。逃走した形跡もないという「殲滅」で終わった。
敵の遺物をどうするか話し合っていると馬の走る地響きが近づき皆の前で止まった。
ざわめく周りをよそに先頭からその場に合わない貴族服にマントを羽織った男性が歩み寄ってくる。
「戦ご苦労、私はクレール・ド・リヴィエール。隣の領地で伯爵をしている者だ。こちらに子爵代理は居るだろうか?」
「は、はい!」
文官のように見える痩せた男が前へ進み寄り顔を見せる。
「そちか、こちらで詳細を知りたい。今の戦況はどうか」
「はっ!今すぐ!」
足早に伯爵の下に駆け寄る文官はそのまま伯爵と共に離れて行く。残る兵士と農兵はその場で座り込み状況を見送る。
幾ばくかの時が過ぎて伯爵が前に出てくる。文官の姿は見えず立つよう指示がある。
「今回の戦、誠にご苦労!この場で褒美を渡す。我が兵士と共に一列に並んで欲しい」
手前にいる子爵兵士から伯爵の兵士を並ばせ二人ペアとなり並ぶ。ほんの30名ほどなのですぐに並び終わると北を向いて待てと指示が飛ぶ。
「やれ」
伯爵が呟くと正面から霧が立ちこめ視界を塞ぎどんどん濃くなり前が完全に見えなくなった。
静寂が包みドサっと音だけが聞こえる。
ドサッ ドサッ
次々に倒れる音が続き兵士が伯爵の元へ戻っていく。
「揃いました」
「よし、もういいぞ」
「はっ」
霧が薄くなり晴れていく。
そこには先ほどまで立っていた子爵兵士と農兵の姿が首を切り裂かれた状態で倒れていた。
「練度が伺えるな、晴れた天候時にここまでの濃霧を作り出すとは…」
「全員を確認」
一人の兵士が走ってくると伯爵に進言する。
「うむ、何か持っていたか?」
「いえ、何も」
兵士はすぐに返答し隊列に戻る。
「ご苦労だった。こいつらを敵のところにでも捨てて何も残してはならん。その足で子爵へ使いを頼むぞ?私が向かうとな」
上機嫌で馬に乗る伯爵はそのまま走りだし遺体を踏み進む。他の兵士は片付け班と奪取班に分かれて敵の遺留品を奪っていった。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる