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始まりは29
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毎月29日は肉の日だそうだ。
中でも取り分けていいのが11/29。
そう、《いい肉の日》。
そんな最上級の日付に、先程お弁当持たせて、バス停まで見送ったはずの旦那様からラインが届いた。
洗濯を廻して、お皿洗って、掃除機かけて。
さてのんびりしよう、お茶でもいれようかしら?なんて羽を伸ばそうとしていたのがバレたかと、一瞬ギギギッと動きが鈍くなる。
スマホの画面をみて拍子抜けと共に、この二日ほど魚が続いた事への嫌味か?と訝しく思うのは、仕方ない。
《今日はいい肉の日だって。あれこれ安いんじゃない?》
青白く光を放つスマホが憎い。
うちの給料日は月末なんだよ旦那様!
財布の中はスカンピンに近いっつーの。
それに知らないのか?
スーパーマーケットっていうのは
【 女・の・戦・場・ 】なのだ。
思い付きでホイホイと出掛けてはならない場所なのだ。
それでも女は、愛した男の願いは叶えてやりたいものだ。
私はエプロンを脱ぎ捨て、戦闘装備を整えだす。
旦那様が可愛いって言うから、ベットの上で弄ぶのがお好きだからと、長く伸ばした髪を邪魔にならないようにきつめのフィッシュボーンへと編む。
眉を整え、軽く下地を塗ったらファンデーションとチーク、アイライン、アイブロウ、グロス...と慣れた手順で軽めにメイクアップ。
去年辛くも卒論通って卒業したばかりの頃よりは大人っぽくなっただろうか...。鏡に映る自分を見詰める。
毎晩のあれこれで少しはささやかな部分は大きくなったか?...あ、幻想だっこれ。チッパイのままの現実に朝から項垂れる。
それでも多少は女らしく張ったヒップラインと腰のくびれは、旦那様にもたらされた物だと思う。
そんな私の愛する旦那様の願いを叶えるべく、私は今日の戦場に見合うワードローブをシュミレーションする。
獰猛なベテラン主婦軍勢に抗うには、動きやすいのが一番だ。
クローゼットを開け、棚板を外し、奥に隠したもうひとつのクローゼットに仕舞ったバトルスーツを眺める。
今日はご近所の...そうね、お肉に定評のあるスーパーへいこう。
カーキのストレッチが利いたコンバットパンツに黒T。その上からこの前超天セールで買ったコルセットリグを絞め、マガジンポーチを装着。
キッチンへ戻り、食器棚を床からスライドさせ、奥の隠し小部屋であるウォークインクローゼットに入る。
連射できるAK47を手に取り、銃の確認。メンテナンスは先週しているから大丈夫だ。
予備のバッテリーをウエストポーチへと装着し、ついでに勝利のお守りであるお気に入りのグロック18Cも用意して、サングラスを胸元に差し込む。お財布は最終ラインでしか出さないのでポーチの奥へ忍ばせた。
そのまま玄関へ向かい、コンバットシューズの紐をぎゅっと編み上げ、シューズボックスの上にある結婚式の時のシルバーグレイのタキシードを着た旦那様の写真へ最敬礼をして、アパートの玄関を出る。
最近お腹回りが某イギリス児童書のコートを着たクマさんみたいに成ってきた旦那様の為には、お野菜沢山のお料理がいいのだろうけれど、彼はお肉が出ていない食卓は目に見えてガッカリしてしまうので、ついつい甘やかしてしまう。
糖質制限もガンとして認めてくれないので、最近はカロリーダウンのお米を用意しているんだけど、多分気がついてはいない。味覚がお子ちゃまなのだ。
そんな可愛くも愛する旦那様の為に、今日はできたら豚ヒレブロックをゲットしたい。
赤ワインとデミグラスソースで柔らかく煮て、茹でたジャガイモやブロッコリー、玉ねぎを添えて見た目ゴージャス!でも本当は節約料理!キャハッ♪と、差し上げたいものだわ。
チリワインも添えて、ガーリックライスで夜の活力源もプラスして、彼のも連射してもらえたら...と考えてしまい、一人鏡の前でイヤンッと赤面する。
とにかく私は気合いをいれて、そんな大人の夜の野望を抱いたまま、愛車であるママチャリに跨がった。ちなみに、電動ではない。電動欲しい。
うちのアパートの前の坂道を下り、目当てのスーパーへ。
ちょうどタイムセールが始まるところのようで、店長さんが『並んでくださーい!押さないで!並んで~ッ』と猛獣の群れである主婦軍勢を涙目で押し止めているのが目に入った。
「あら!さっちゃん!来たのね」
駐輪場に投げ捨てるように...でもちゃんと白線の中にママチャリを停めて、走りだそうとする私の背後から声がかかる。
「ゆきちゃん、あなたも来たのね...」
ポニーテールの茶色い髪を靡かせながら同じアパートの主婦歴4年の先輩、雪恵ちゃんがニヒルに笑いながら立っていた。肩には89式小銃。華奢な彼女に似合う銃だ。
彼女の使い込まれた銃身が昼の太陽を鈍く光らせている。
「そうよ。今日こそあの獰猛な主婦歴10年越えのババアどもに一泡ふかせてやろうと思ってね。どう?組まない?私は100グラム68円の豚バラブロック1キロと98円赤玉子狙い。さっちゃんは?」
「私は100グラム80円の豚ヒレブロック、500はほしいの。」
お互いに睨むように見合いながら、沈黙する。
胆力で負けたらこの戦場では生き残れない。
お互いに一歩も退かない睨み合いの果てに、ふっとゆきちゃんが微笑んだ。
「今日こそ、勝ちましょう!」
グローブをぎゅっと鳴らしながら絞め、その手を握りあう。
「...行こう!ゆきちゃん!」
ベテラン主婦...それは常に若手を潰さんと、精神からもマウントを取ってくるそら恐ろしい生き物だ。
大体が8年から30年越えをベテラン勢、それ以上をレジェンドと呼ぶ。
レジェンドまでの道のりは、酸いも甘いもどころか、辛酸を舐め泥水を啜り、血の涙を乗り越えた果てにある遠き道のりだと言われている。
この主婦ランクは同居か別居か、はたまた介護ありかと、事細に細分化されているようだが、大まかに年越えランクが勝敗を分けるとも言われ、私はまだ駆け出しどころか新婚6ヶ月のぺーぺーだ。
うっかりと何も知らずに昼間のスーパーへと入ったのは、まだ新婚旅行から帰って二日目の時の事だった。
件のタイムセールと知らず、自動ドアをくぐった瞬間に私はベテラン主婦の洗礼を受ける事になった。
炸裂する閃光弾に視界を奪われ、慌ててその場で踞る私に、あっという間もなく縄が掛けられ転がされる。
「得物も持たずに...これだから素人は...」と蔑んだ視線を肉団子よりも肉肉しい三重顎の主婦から投げつけられ、ひたすらタイムセールが終わるのを、ただ震えて待つしかなかったものだ。
あれから6ヶ月。
私は学んだ。
繰り出される攻撃から身を交わす技も、重火力の中に飛び込む勇気も、何もかもを。
タイムセールの列に、なんとかゆきちゃんと紛れ込む。
店長フラッグが振られ、店内カートを掴むまでは睨み合う事しかできないのも、ルールだから仕方がない。
「あらぁ、貴女この前は美味しい地鳥モモ肉、譲ってくださった方ねぇ?」
ねっとりとした視線で絡んでくるのは、かごに入れる瞬間にタックルしてきた、鶏ガラのような細身からは想像できない腰力の持ち主、12年のベテラン主婦のハイエナのタキだ。
「くっ...その節はどうも!」
「今日もいいのがあったら譲ってくださいねぇ」
チラリ、と脇差しにしたベレッタM92を見せつけながら厭らしく嗤ってくるのだから腹がたつ。
「さっちゃん...あの女...この前の...?」
私は無言で頷くしかない。
今日は私の雪辱戦にもなるのか...気合いを入れ直す。
「まだなの?!早くしなさいよ!」
列の何処かでイライラとした感情を隠さずに誰かが叫んだ。
それがトリガーとなり、列の全体が閧の声を上げだす。
『『『『『『開・け・ろ! 開・け・ろ! 開・け・ろ! 開・け・ろ! 開・け・ろ! 』』』』』』
「押さないで!...押さないで!...カウントダウン行きます!!」
店長さんが青ざめた顔のまま、大きな声を張り上げた。
静かに波が引くように、主婦たちの怒号が収まる。
タイムセールの列の先頭にテープを張った男性店員さんが二人。
遠目から見ても分かるほどガタガタ震えているようだ。
店長さんは青を通り越して真っ白な顔でカウントダウンを始める。
彼が高く掲げた旗が、振り落とされた瞬間が勝負だ。
「10!...9!...8!...7!654!!...GOーーーーーッ」
バッ!と振り落とされた旗、飛び退く店員たち。
開け放たれたドア。
走り出す。
【ドドドドドドっ】
地鳴りでスーパーが揺れる。
それに構わず私とゆきちゃんは、かごとカートを引っ掴んだ。
まっすぐの青果コーナーを駆け抜ける。
バリケードに、南の島の天然水がうず高く積まれている。あの角を曲がれば鮮魚コーナー!!
横の通路からリンゴが転がり出てくる。
必死にカートを操作して交わす!
私の後ろでリンゴを避けきれなかった主婦たち数人が「道連れだ!」と叫び、パイナップルの栓を引き抜いた。
「ちッ!」
思わず舌打ちしながらも、菓子パンの棚に駆け寄って耳と目を塞いでしゃがみながら避けた。
【ドウッ!】
閃光一喝。
爆風でカートが吹っ飛んでいくのが見えた。
大丈夫、私のカートは無事だ。
カートを握りしめ、爆煙のなかを這い出る。
【タタタタタタタタッ】
這い出た私の目の前の床が狙撃され、慌ててローリングして避ける。
豆腐のチルド棚から黒光りする銃口がチラリと見えた。
AK47を構えながらカートを走らせる。
走りながら乳製品の棚に背中を預け、撃つ。
「豆腐の角にど頭たまぶつけておけ!」
【ダララララララララッ!】
連射の威力を遺憾なく発揮し掃射する。
豆腐のチルド棚に潜んでいた主婦が叫びながら倒れた。
勢いのまま、特設鍋コーナーを駆け抜ける。
「お待ちなさい!沙知代さん勝負よ!」
ハイエナのタキだ。
キムチ鍋の素の山の影から、スッと立ち塞がる。
「はっ!ベレッタでタイマンが勝てるとでも?」
「新婚風情が生意気なのよ。デカイ得物ばかりがいいってもんじゃない事を教えて上げるわ!」
「タイマンよ!道を開けな!」
三重顎の肉だるま、タンクの小夏が私とタキの状況を見て、大声をあげた。
タキが冷ややかな眼差しで私を見ている。
ここで引いたらそれは敗けを指してしまう。
「フィールドは?」
汗が額から、つ...と顎まで滴り落ちる。
対峙するタキに対する緊張から来る冷や汗なのだろうか。
「特設コーナーから調味料棚までの2ブロック。3分勝負よ。」
ちらり、と確認する限り、いつも通りの並び。
鍋の特設コーナーを棚エンドに、醤油、みりん、味噌等の和調味からお酢の棚、その対面棚は中華素材やカレー、シチュー等のレトルトパウチや、ルーの箱が並ぶ。
さらに反対側の棚はイタリアンフェアの特設コーナー。
いつも通りならトマト缶やパスタのソース類、パスタやマカロニ、スパイスも棚に並んでいるはず。
イタリアンの対面棚はたしかコーヒーや、紅茶、お茶、製菓の材料、あとなぜかお餅だったはずだ。
頭のなかで瞬時にシュミレーションする。
タイマンに場所的な不都合はないはずだ。
「わかった。」
ゆきちゃんをセコンドに指名して、カートを預ける。タイムセールにはこのカートがないと参加できなくなるのだ。
ハイエナのタキも、潜伏のおキクという有名なベテランにカートを預けていた。セコンドはタイマンのときは正式に中立という立場になる。
中立のセコンドを後ろから撃つような真似はしてはならないし、セコンドも、タイマン中は攻撃もできなくなる。信頼がなければ成り立たない重要な役目だ。
「さっちゃん...頑張って!」
「もちろんだよ、負けたくない...あの女だけには!」
気合いを入れ直し、通路の反対側にいるタキと向き合うようにスタート位置につく。
スーパーの何処かで銃撃戦が繰り広げられているのは、耳が拾っている。
それでも、私の周りの空気はシン...と静まり返っている。
いや、どッどッどッど...と心臓の音が痛いほど耳に響いている。
私とタキはお互いの視線を外さないまま、距離を取る。
まだ銃弾はある...筈だ。
私は私のAK47愛機を信じる...しかない。
ゴクリ、と喉が鳴った。
タンクの小夏の両腕がいやにゆっくりと上がる。
「 ファイッッ!!! 」
掛け声と同時に小夏の丸太の様な腕が交差。
同時に私は醤油のダンボールの影に滑り込んだ。
【タンッ!タタタタタンッ!!】
ダンボールの角が吹っ飛んでいく。蜂の巣よりも激しく孔が開いて行くのを視界に留めながら、横っ飛びに飛び退く。
ハイエナのタキのコートの裾が翻る。
あっちはベレッタ二挺。
リロードのタイムラグは必須。ならば...弾数で勝負だ!
【タタタタタンッ!】
耳の横を弾がヒュンッと通り抜ける。
空圧で髪が数本宙に舞った。
数秒間の静寂。空気の振動が無くなる。
...来た!
タキはタクティクスリロードと呼ばれている弾が残った状態での交換をしてくるはず。
今しかない!
スパイスの小瓶が並ぶ横を駆け抜ける。
角をコートの裾がチラリ、と見えた。
曲がりながら掃射で決まる!
イタリアンフェアの棚エンドを靴底で滑るように、AK47を構えながら曲がる。
私は唇のはしが上がるのを止められない。
今、さっきの屈辱を晴らして、この前のセールの雪辱を果たす!
トリガーに掛けた指が、視界に照準を合わさずに流行る気持ちでコーナーを曲がった瞬間に掃射。
【ダラララララララララ!!!...ダラララララララララ!!!】
気持ちいい程の連射音に、うっかり『KA・I・KA・N...♡』って大昔の某邦画の女優になりきる。殺った。絶対殺った!
小夏のコールが響いたら私の勝ちだ!!!
「ンフッ...勝ち誇ったいい顔ね...おバカさん」
爆煙けぶる床...浮かび上がったシルエットは、トマト缶を積み上げた土豪から...コート姿のタキがゆっくりと出て...。
ガジャンッ...と床に転がったのは二つのマガジンではなくて。
ベレッタが二挺、タキの手からゆっくりと落ちる。
すかさず腰の後ろに廻したその手に、再び二挺のベレッタ...?!
「狙いもしないで数打ちゃ当たる?...だからど素人って言われちゃうのよ?」
クフフフと含み笑いのタキがコートの両端を開いた...!
コートの裏地、内側に沢山のベレッタ...!!
「今時の若い娘さんは知らないかしらん?ニューヨークリロード。...踊れ!」
容赦ない銃弾の嵐に右に左にと必死に交わし、イタリアンフェアの棚エンドまで戻る。
「くそっ!あんなの反則だよ!」
慌てて後退し銃を構え、装填のためにポーチを漁る。
暴れまわる心臓の音と荒れる呼吸にポーチが開けにくい。
ひっ掴んでマガジンを片手で外して脇に銃身を絞めながら装着
しようとしたのに
焦る手が、指が、予備弾を握り損ねて。
ジャジャッ...!!
マガジンが床を転がって行く。
フロアに滑りながら転がって、拾おうとする私の上半身がタキの射程内に入った。
ヤバイ、負ける!
スローモーションに、タキがニヤッと嗤って
あいつの二挺の銃口が私を向いて
引き金が絞られ、放たれる弾丸
倒れながら、お守りをカーゴポケットのフラップから私の左手に転がり落とし、すかさず握りしめる。
「御守り!!お願い!」
祈りを込めるように倒れながら両手に構え、セーフティーを解除するのと標準を合わせるのと、引き金を弾くのまでがまるでコマ撮り画像の様に鮮明に脳裏に映り、私の弾丸がタキの脇を引き裂いた!!!
と同時にタキの弾丸が、私のサングラスをぶっ飛ばした。
右側のレンズがビシッとひび割れ、床に落ちていくまでがスローモーションで視認でき、勢いを肩で殺すようにして回転軸にした。一回転半で踞る。
もう一度しっかりとタキの方を見ると、悔しげに睨み付けられた。
「負けた...わね。小娘にしてやられたわ。」
そう言った。
はっきり
負けたって
言った...!
「やった...やった勝った!ゆきちゃん勝ったよ!」
小夏のコールが、店内に響くのをまるでファンファーレの如く耳にする。
「勝者!沙知代!」
ギャラリーは無いけど、店内のそこかしこで祝いのクラッカーのように銃の発射音が鳴る。
ゆきちゃんの側に駆け寄り、お互いにハンズアップして、言葉少なに勝利を祝う。
改めてカートを握りしめながら、再び戦利品を得る為に走りだす。
「頑張んなさいよ、新妻!」
微笑むタキと小夏にすれ違い様に背中を叩かれる。
小さく頷いて、私とゆきちゃんは最後の戦場に走り込む。
精肉売り場は屍が累々とうめき声を上げながら横たわって、まさに凄惨の一言だった。
新妻同盟のえなちゃんや、林檎幼稚園のリーダーのりえかママ...あっちにはベテラン主婦たち...。
チルド商品棚のウインナーやハムのケース下にも、有名なベテラン勢が倒れている。
何があったの...?
ゆきちゃんとナゲットの昇り旗の下に伏せながら様子を探るように睥睨する。
タイムセールのコーナーは金の綺羅びやかなモールに彩られながら、そこにはたった一人の影しかみえない。
赤いプラスティックの牛乳ケースをひっくり返し、まるで戦国時代の武将が座る《床几》のようにしながら座ってるのは
「あれ...レジェンド...まさか長煙管ながキセルのお蝶さまじゃない?!」
小さくゆきちゃんが呟くその名は、この町の頂点《長煙管のお蝶》と呼ばれる生きる伝説...!
曰く大戦時は花魁であった、とか。
曰く身分を偽った御公家様の末裔である、とか。
曰く歴史的大人物をも調教した元女王様であらせられる、とか。
曰く日本経済の急成長発展は彼女が調教の片手間で命じたプレイの一環だ、とか。
曰く歴史の影にはお蝶夫人あり、とか。
花魁女王様、だなんて二つ名もある。
御歳を召されない吸血鬼姫の末裔だ、なんて一部では囁かれてもいるほどの、謎多きレジェンド主婦である。
「貴女達...隠れてないでお顔をお見せなさいな」
鈴を転がすような清廉な声は、まるで少女のようだが、声の深さとでいうのか...耳から侵入されてしまえば絶対に逆らえない恐怖がそこにあった。
私はトリガーに指を掛けたまま、ゆきちゃんは構えをそのままにした方がいいのか、それとも解除すべきか逡巡しつつも、二人でお蝶様の前におずおずと進み出る。
我々主婦に於ける最高位のレジェンド。
そのなかにあって孤高の永遠のトップ オブ トップと言われるレジェンドのなかのレジェンド【お蝶】。
悠然と微笑む彼女は、白髪を一部の隙もないほどに綺麗に夜会巻きに結い上げ、ひらりとしたシフォンの重なった七分丈のワンピース姿は低めの詰襟が喉元を彩り、前身頃を小さなボタンが1列に並んでいる。まるで修道服のような清廉な美しさで、羨ましいほどに均整の取れた出すぎず、引っ込みすぎずの美しいボディラインを覆って。
『これから雅叙園のティールームでお茶会ですの』とでも典雅に微笑まれたら、『そうですの?楽しんできてくださいませ』なんて返してしまいそうな程、スーパーマーケットのタイムセールという我々の戦場には似つかわしくない優美さで、艶然と微笑む夫人。
こんなペーペーの駆け出し主婦が話し掛けていい御方ではない。ドキドキと跳ね回る心臓が口から飛び出しそうな程、緊張の度合いが上がっていく。
「...貴女達もなの? 嘆かわしいわねぇ...」
頬にそっと手を当てながら、小首を傾げる姿は本当に美しく、まるで妖精のようだ。御歳不明のレジェンドは伊達じゃない。
「ぅ...ぁの...?」
彼女の憂い顔は何を言わんとしているのだろう?
恐る恐るではあるが、声を絞り出す。
「それよ、そぉれ...。銃だなんて...美しくないわ。一体いつからそんな腑抜けた物でタマのやり取りするようになったのかしら、と思って。本当に嘆かわしいわ。」
ユラリ、とお蝶夫人が立ち上がる。
「女はね...おそそを上げて手前てめぇの胆田引き締めてなんぼのもんよ。
それをあんた達は得物にばかり頼って...情けないったらねぇ。
わっちらの時代にゃぁね?己の技で勝負が当然だったもんだよ」
【パンッ】
乾いた音がお蝶夫人の手元で鳴る。
女性には少し大きめに見える扇が握られていた。
片手でゆっくりとそれを開くと、夫人は目を弓形に細め、扇の影に隠れる様に《見えなくなる》?!
たった一振りの鉄扇の影に夫人が見えなくなった...?!
すぅ...と消えたのは気配なのか?
夫人そのものが消えたのか...戸惑う私とゆきちゃんは、自然にお互いの背中を合わせた。
警戒。
毛穴という毛穴が、ぶあっと開いて得体の知れない恐怖に歯が鳴るという経験を、初めて体感している。
全身がまるでレーダーにでもなったかのように、ひたすら私たち以外の存在を探る。
二人の呼吸すら煩らわしい雑音に感じる位、恐怖で叫びそうなのを無理矢理押し留めながら、いきなり私の横っ面が吹っ飛んだ。
空中に足が浮く。そのまま体がくの字に曲がったまま、床を滑らずに空中を飛ばされていく。
あ!
っと知覚した瞬間に、痛みと驚きとがぶわぁっと私を襲う。
【 ドォンッ!! 】と響く衝撃音。
にこっ、と夫人が畳んだ扇をつき出し微笑んでいる。
私が夫人に飛ばされるまでは、確かに無音だった。
私はまだ飛ばされたままで、この音は叩きつけられた攻撃の音...?!
「がッ...はぁッ!!」
夫人を認識し、飛ばされた...どうやったのかわからないが攻撃を、受けた...?と理解した瞬間に、痛みに仰け反る。
「さっちゃん!!」悲鳴にも似た声に自分が打撃を受け、チルドケースに激突していることを理解する。
全身がバラバラに成ったかと思うほどの痛みに呻くしかできずに、ようやく開けた瞳に映るのは、そそとした仕草で佇む夫人と、その手に握られた日本舞踊で使うような大きめな扇。
そしてゆきの恐怖と驚愕とに見開かれた目。
その背後に微笑んだ夫人が優雅な姿勢のまま、服の袖裾がヒラリと翻り、振りかぶるのが一瞬見えた。
ゆきちゃんが音もなくふっ飛ぶ。
そのあとに続く風を斬る音。
舞うレトルトの箱とその中に倒れるゆきちゃんの姿が、破壊音とともに頭に入ってきて、それが目の前で起こっている事実だと理解するまでにタイムラグが生じる。
「あ...っ...」
助けなきゃ...と伸ばした手を、夫人のたおやかな手に掴まれ、ギリギリと持ち上げられて吊らされて、静かな怒りに煌めく夫人にニッコリと微笑まれた。
「ねぇ?...わかる? わたくしの怒りと哀しみ。貴女たちの不甲斐なさにどれ程哀しんでいるか、わかる?」と。
然程高くない背の夫人に片手で吊り上げられながら、万力で絞められるような痛みを手首に、さっきの打撃の全身のギシギシと軋む痛みも感じながら、夫人が纏う憤怒のオーラとでも言えばいいのか、それにあてられながら『恐れ』に震える。
ただ見返すことすら、恐ろしい。
夫人の言葉に返すことがただ恐ろしくて何も言えない。
「貴女たち...主婦をなんだと思ってるのかしらね?...戦う旦那さまのために、学業という荒波に揉まれる子どもたちのために、エネルギーである食を提供する為に...闘うのが主婦...。
闘う手段がいつのまにこんな飛び道具頼りになってしまったのかしら...本当に不甲斐ない...。
女はね?おそそ締めてなんぼなんよ?
緩マンで男満足させられる?絞める事を満足にできもしねぇで...物に頼るなんざ甘いんだよ...てめえの体張って.........闘え」
ゆっくりと振りかぶる夫人の扇子。
もう、ダメだ...
そして
「おそそって...なんですか...?」
わからん...言葉...。さっきからお蝶夫人がいってる単語が意味不明すぎて。
ああもう。旦那様にもっと本読みなさいって、新聞読みなさいって言われてたのを今更後悔。
痛みにもがきながら、ポツリと零れた言葉に夫人がキョトン、と私を見返した。
夫人の憂いを含んだような、すこし濡れたような色っぽい瞳は、私を不思議なものを見るような見開かれている。
「は?そんな事も...今の子は知らんのん?」
ドサッと私が床に落ちる。
見上げるのも怖いけど、そっと伺い見るとお蝶夫人は、その美しい顔を青ざめさせながら、嘆き哀しんでいる。
「これだから!今時の子はすぐ老害だの毒母だの疎女だの!すぐ経験者を蔑む癖に学ぼうとしない!閨の知識もネットだけ?!信じられないドベっぷり!ただ寝てりゃ佳いならなんの苦労もないわ!貴女!閨の手管はどう学んだの?」
「ね...や??」
「いやぁぁぁっ!閨も知らんの?」
「えっと...なんか...すみません...?」
絶叫するお蝶夫人の剣幕にとりあえず、謝っとく...?
それにしても。
御年おいくつなのかも判らないけど、お蝶夫人はものすごーくネットスラングにお詳しいようだった。
そこから。
痛みに蠢く主婦達を叩き起こし、なぜか全員正座でお蝶夫人の主婦の嗜み講座(主に夜編)が熱く開かれる事となった。
巧みにほにゃららを絞める方法がダイエットにも一役も二役もたち。
この街の出生率が爆上がりしたとかしないとか。
浮気離婚も減ったそうだが、真相はどうなんだろう?
因みに。
おそそっていうのは、うちのばあちゃんが言ってた『あんちょ』のことで、まぁ方言の1つらしい。
ぶっちゃけると女性器のことだそうだ。
とりあえず、この日は私がMVPで、ちゃんと目的の豚ヒレブロックをゲットできたのは、言うまでもない。
あ、夜に旦那様と仲良ししたのも、報告しときます(*ノ▽ノ)。
その後、定期的にお蝶夫人講座が開かれ、ニクの日は『ナイトファイト講座』の日、となった。
【おまけ】
「なんか...最近おまえ綺麗になったな...。毎日俺が励んでるからかな♡前より甘えてくるから...沢山...したくなる。」
なんて!!髪を撫でて貰いながら囁かれたら、大好き!ってなるから、沢山言葉にしておねだりしちゃう。
前は終わると直ぐ旦那様はお手洗いに行ってしまって、シャワーされちゃってたから...。一人でぽつん、とお布団にくるまってたけど。
いっぱい言葉にしておねだりするのをナイトファイト講座で習ったおかげ、かもしれない。
事後って、大事だけど、最中はもっと大事なんだなって勉強になった。
主婦にとって一番の戦場は【閨事】なのかもしれないね☆
【おわり】
中でも取り分けていいのが11/29。
そう、《いい肉の日》。
そんな最上級の日付に、先程お弁当持たせて、バス停まで見送ったはずの旦那様からラインが届いた。
洗濯を廻して、お皿洗って、掃除機かけて。
さてのんびりしよう、お茶でもいれようかしら?なんて羽を伸ばそうとしていたのがバレたかと、一瞬ギギギッと動きが鈍くなる。
スマホの画面をみて拍子抜けと共に、この二日ほど魚が続いた事への嫌味か?と訝しく思うのは、仕方ない。
《今日はいい肉の日だって。あれこれ安いんじゃない?》
青白く光を放つスマホが憎い。
うちの給料日は月末なんだよ旦那様!
財布の中はスカンピンに近いっつーの。
それに知らないのか?
スーパーマーケットっていうのは
【 女・の・戦・場・ 】なのだ。
思い付きでホイホイと出掛けてはならない場所なのだ。
それでも女は、愛した男の願いは叶えてやりたいものだ。
私はエプロンを脱ぎ捨て、戦闘装備を整えだす。
旦那様が可愛いって言うから、ベットの上で弄ぶのがお好きだからと、長く伸ばした髪を邪魔にならないようにきつめのフィッシュボーンへと編む。
眉を整え、軽く下地を塗ったらファンデーションとチーク、アイライン、アイブロウ、グロス...と慣れた手順で軽めにメイクアップ。
去年辛くも卒論通って卒業したばかりの頃よりは大人っぽくなっただろうか...。鏡に映る自分を見詰める。
毎晩のあれこれで少しはささやかな部分は大きくなったか?...あ、幻想だっこれ。チッパイのままの現実に朝から項垂れる。
それでも多少は女らしく張ったヒップラインと腰のくびれは、旦那様にもたらされた物だと思う。
そんな私の愛する旦那様の願いを叶えるべく、私は今日の戦場に見合うワードローブをシュミレーションする。
獰猛なベテラン主婦軍勢に抗うには、動きやすいのが一番だ。
クローゼットを開け、棚板を外し、奥に隠したもうひとつのクローゼットに仕舞ったバトルスーツを眺める。
今日はご近所の...そうね、お肉に定評のあるスーパーへいこう。
カーキのストレッチが利いたコンバットパンツに黒T。その上からこの前超天セールで買ったコルセットリグを絞め、マガジンポーチを装着。
キッチンへ戻り、食器棚を床からスライドさせ、奥の隠し小部屋であるウォークインクローゼットに入る。
連射できるAK47を手に取り、銃の確認。メンテナンスは先週しているから大丈夫だ。
予備のバッテリーをウエストポーチへと装着し、ついでに勝利のお守りであるお気に入りのグロック18Cも用意して、サングラスを胸元に差し込む。お財布は最終ラインでしか出さないのでポーチの奥へ忍ばせた。
そのまま玄関へ向かい、コンバットシューズの紐をぎゅっと編み上げ、シューズボックスの上にある結婚式の時のシルバーグレイのタキシードを着た旦那様の写真へ最敬礼をして、アパートの玄関を出る。
最近お腹回りが某イギリス児童書のコートを着たクマさんみたいに成ってきた旦那様の為には、お野菜沢山のお料理がいいのだろうけれど、彼はお肉が出ていない食卓は目に見えてガッカリしてしまうので、ついつい甘やかしてしまう。
糖質制限もガンとして認めてくれないので、最近はカロリーダウンのお米を用意しているんだけど、多分気がついてはいない。味覚がお子ちゃまなのだ。
そんな可愛くも愛する旦那様の為に、今日はできたら豚ヒレブロックをゲットしたい。
赤ワインとデミグラスソースで柔らかく煮て、茹でたジャガイモやブロッコリー、玉ねぎを添えて見た目ゴージャス!でも本当は節約料理!キャハッ♪と、差し上げたいものだわ。
チリワインも添えて、ガーリックライスで夜の活力源もプラスして、彼のも連射してもらえたら...と考えてしまい、一人鏡の前でイヤンッと赤面する。
とにかく私は気合いをいれて、そんな大人の夜の野望を抱いたまま、愛車であるママチャリに跨がった。ちなみに、電動ではない。電動欲しい。
うちのアパートの前の坂道を下り、目当てのスーパーへ。
ちょうどタイムセールが始まるところのようで、店長さんが『並んでくださーい!押さないで!並んで~ッ』と猛獣の群れである主婦軍勢を涙目で押し止めているのが目に入った。
「あら!さっちゃん!来たのね」
駐輪場に投げ捨てるように...でもちゃんと白線の中にママチャリを停めて、走りだそうとする私の背後から声がかかる。
「ゆきちゃん、あなたも来たのね...」
ポニーテールの茶色い髪を靡かせながら同じアパートの主婦歴4年の先輩、雪恵ちゃんがニヒルに笑いながら立っていた。肩には89式小銃。華奢な彼女に似合う銃だ。
彼女の使い込まれた銃身が昼の太陽を鈍く光らせている。
「そうよ。今日こそあの獰猛な主婦歴10年越えのババアどもに一泡ふかせてやろうと思ってね。どう?組まない?私は100グラム68円の豚バラブロック1キロと98円赤玉子狙い。さっちゃんは?」
「私は100グラム80円の豚ヒレブロック、500はほしいの。」
お互いに睨むように見合いながら、沈黙する。
胆力で負けたらこの戦場では生き残れない。
お互いに一歩も退かない睨み合いの果てに、ふっとゆきちゃんが微笑んだ。
「今日こそ、勝ちましょう!」
グローブをぎゅっと鳴らしながら絞め、その手を握りあう。
「...行こう!ゆきちゃん!」
ベテラン主婦...それは常に若手を潰さんと、精神からもマウントを取ってくるそら恐ろしい生き物だ。
大体が8年から30年越えをベテラン勢、それ以上をレジェンドと呼ぶ。
レジェンドまでの道のりは、酸いも甘いもどころか、辛酸を舐め泥水を啜り、血の涙を乗り越えた果てにある遠き道のりだと言われている。
この主婦ランクは同居か別居か、はたまた介護ありかと、事細に細分化されているようだが、大まかに年越えランクが勝敗を分けるとも言われ、私はまだ駆け出しどころか新婚6ヶ月のぺーぺーだ。
うっかりと何も知らずに昼間のスーパーへと入ったのは、まだ新婚旅行から帰って二日目の時の事だった。
件のタイムセールと知らず、自動ドアをくぐった瞬間に私はベテラン主婦の洗礼を受ける事になった。
炸裂する閃光弾に視界を奪われ、慌ててその場で踞る私に、あっという間もなく縄が掛けられ転がされる。
「得物も持たずに...これだから素人は...」と蔑んだ視線を肉団子よりも肉肉しい三重顎の主婦から投げつけられ、ひたすらタイムセールが終わるのを、ただ震えて待つしかなかったものだ。
あれから6ヶ月。
私は学んだ。
繰り出される攻撃から身を交わす技も、重火力の中に飛び込む勇気も、何もかもを。
タイムセールの列に、なんとかゆきちゃんと紛れ込む。
店長フラッグが振られ、店内カートを掴むまでは睨み合う事しかできないのも、ルールだから仕方がない。
「あらぁ、貴女この前は美味しい地鳥モモ肉、譲ってくださった方ねぇ?」
ねっとりとした視線で絡んでくるのは、かごに入れる瞬間にタックルしてきた、鶏ガラのような細身からは想像できない腰力の持ち主、12年のベテラン主婦のハイエナのタキだ。
「くっ...その節はどうも!」
「今日もいいのがあったら譲ってくださいねぇ」
チラリ、と脇差しにしたベレッタM92を見せつけながら厭らしく嗤ってくるのだから腹がたつ。
「さっちゃん...あの女...この前の...?」
私は無言で頷くしかない。
今日は私の雪辱戦にもなるのか...気合いを入れ直す。
「まだなの?!早くしなさいよ!」
列の何処かでイライラとした感情を隠さずに誰かが叫んだ。
それがトリガーとなり、列の全体が閧の声を上げだす。
『『『『『『開・け・ろ! 開・け・ろ! 開・け・ろ! 開・け・ろ! 開・け・ろ! 』』』』』』
「押さないで!...押さないで!...カウントダウン行きます!!」
店長さんが青ざめた顔のまま、大きな声を張り上げた。
静かに波が引くように、主婦たちの怒号が収まる。
タイムセールの列の先頭にテープを張った男性店員さんが二人。
遠目から見ても分かるほどガタガタ震えているようだ。
店長さんは青を通り越して真っ白な顔でカウントダウンを始める。
彼が高く掲げた旗が、振り落とされた瞬間が勝負だ。
「10!...9!...8!...7!654!!...GOーーーーーッ」
バッ!と振り落とされた旗、飛び退く店員たち。
開け放たれたドア。
走り出す。
【ドドドドドドっ】
地鳴りでスーパーが揺れる。
それに構わず私とゆきちゃんは、かごとカートを引っ掴んだ。
まっすぐの青果コーナーを駆け抜ける。
バリケードに、南の島の天然水がうず高く積まれている。あの角を曲がれば鮮魚コーナー!!
横の通路からリンゴが転がり出てくる。
必死にカートを操作して交わす!
私の後ろでリンゴを避けきれなかった主婦たち数人が「道連れだ!」と叫び、パイナップルの栓を引き抜いた。
「ちッ!」
思わず舌打ちしながらも、菓子パンの棚に駆け寄って耳と目を塞いでしゃがみながら避けた。
【ドウッ!】
閃光一喝。
爆風でカートが吹っ飛んでいくのが見えた。
大丈夫、私のカートは無事だ。
カートを握りしめ、爆煙のなかを這い出る。
【タタタタタタタタッ】
這い出た私の目の前の床が狙撃され、慌ててローリングして避ける。
豆腐のチルド棚から黒光りする銃口がチラリと見えた。
AK47を構えながらカートを走らせる。
走りながら乳製品の棚に背中を預け、撃つ。
「豆腐の角にど頭たまぶつけておけ!」
【ダララララララララッ!】
連射の威力を遺憾なく発揮し掃射する。
豆腐のチルド棚に潜んでいた主婦が叫びながら倒れた。
勢いのまま、特設鍋コーナーを駆け抜ける。
「お待ちなさい!沙知代さん勝負よ!」
ハイエナのタキだ。
キムチ鍋の素の山の影から、スッと立ち塞がる。
「はっ!ベレッタでタイマンが勝てるとでも?」
「新婚風情が生意気なのよ。デカイ得物ばかりがいいってもんじゃない事を教えて上げるわ!」
「タイマンよ!道を開けな!」
三重顎の肉だるま、タンクの小夏が私とタキの状況を見て、大声をあげた。
タキが冷ややかな眼差しで私を見ている。
ここで引いたらそれは敗けを指してしまう。
「フィールドは?」
汗が額から、つ...と顎まで滴り落ちる。
対峙するタキに対する緊張から来る冷や汗なのだろうか。
「特設コーナーから調味料棚までの2ブロック。3分勝負よ。」
ちらり、と確認する限り、いつも通りの並び。
鍋の特設コーナーを棚エンドに、醤油、みりん、味噌等の和調味からお酢の棚、その対面棚は中華素材やカレー、シチュー等のレトルトパウチや、ルーの箱が並ぶ。
さらに反対側の棚はイタリアンフェアの特設コーナー。
いつも通りならトマト缶やパスタのソース類、パスタやマカロニ、スパイスも棚に並んでいるはず。
イタリアンの対面棚はたしかコーヒーや、紅茶、お茶、製菓の材料、あとなぜかお餅だったはずだ。
頭のなかで瞬時にシュミレーションする。
タイマンに場所的な不都合はないはずだ。
「わかった。」
ゆきちゃんをセコンドに指名して、カートを預ける。タイムセールにはこのカートがないと参加できなくなるのだ。
ハイエナのタキも、潜伏のおキクという有名なベテランにカートを預けていた。セコンドはタイマンのときは正式に中立という立場になる。
中立のセコンドを後ろから撃つような真似はしてはならないし、セコンドも、タイマン中は攻撃もできなくなる。信頼がなければ成り立たない重要な役目だ。
「さっちゃん...頑張って!」
「もちろんだよ、負けたくない...あの女だけには!」
気合いを入れ直し、通路の反対側にいるタキと向き合うようにスタート位置につく。
スーパーの何処かで銃撃戦が繰り広げられているのは、耳が拾っている。
それでも、私の周りの空気はシン...と静まり返っている。
いや、どッどッどッど...と心臓の音が痛いほど耳に響いている。
私とタキはお互いの視線を外さないまま、距離を取る。
まだ銃弾はある...筈だ。
私は私のAK47愛機を信じる...しかない。
ゴクリ、と喉が鳴った。
タンクの小夏の両腕がいやにゆっくりと上がる。
「 ファイッッ!!! 」
掛け声と同時に小夏の丸太の様な腕が交差。
同時に私は醤油のダンボールの影に滑り込んだ。
【タンッ!タタタタタンッ!!】
ダンボールの角が吹っ飛んでいく。蜂の巣よりも激しく孔が開いて行くのを視界に留めながら、横っ飛びに飛び退く。
ハイエナのタキのコートの裾が翻る。
あっちはベレッタ二挺。
リロードのタイムラグは必須。ならば...弾数で勝負だ!
【タタタタタンッ!】
耳の横を弾がヒュンッと通り抜ける。
空圧で髪が数本宙に舞った。
数秒間の静寂。空気の振動が無くなる。
...来た!
タキはタクティクスリロードと呼ばれている弾が残った状態での交換をしてくるはず。
今しかない!
スパイスの小瓶が並ぶ横を駆け抜ける。
角をコートの裾がチラリ、と見えた。
曲がりながら掃射で決まる!
イタリアンフェアの棚エンドを靴底で滑るように、AK47を構えながら曲がる。
私は唇のはしが上がるのを止められない。
今、さっきの屈辱を晴らして、この前のセールの雪辱を果たす!
トリガーに掛けた指が、視界に照準を合わさずに流行る気持ちでコーナーを曲がった瞬間に掃射。
【ダラララララララララ!!!...ダラララララララララ!!!】
気持ちいい程の連射音に、うっかり『KA・I・KA・N...♡』って大昔の某邦画の女優になりきる。殺った。絶対殺った!
小夏のコールが響いたら私の勝ちだ!!!
「ンフッ...勝ち誇ったいい顔ね...おバカさん」
爆煙けぶる床...浮かび上がったシルエットは、トマト缶を積み上げた土豪から...コート姿のタキがゆっくりと出て...。
ガジャンッ...と床に転がったのは二つのマガジンではなくて。
ベレッタが二挺、タキの手からゆっくりと落ちる。
すかさず腰の後ろに廻したその手に、再び二挺のベレッタ...?!
「狙いもしないで数打ちゃ当たる?...だからど素人って言われちゃうのよ?」
クフフフと含み笑いのタキがコートの両端を開いた...!
コートの裏地、内側に沢山のベレッタ...!!
「今時の若い娘さんは知らないかしらん?ニューヨークリロード。...踊れ!」
容赦ない銃弾の嵐に右に左にと必死に交わし、イタリアンフェアの棚エンドまで戻る。
「くそっ!あんなの反則だよ!」
慌てて後退し銃を構え、装填のためにポーチを漁る。
暴れまわる心臓の音と荒れる呼吸にポーチが開けにくい。
ひっ掴んでマガジンを片手で外して脇に銃身を絞めながら装着
しようとしたのに
焦る手が、指が、予備弾を握り損ねて。
ジャジャッ...!!
マガジンが床を転がって行く。
フロアに滑りながら転がって、拾おうとする私の上半身がタキの射程内に入った。
ヤバイ、負ける!
スローモーションに、タキがニヤッと嗤って
あいつの二挺の銃口が私を向いて
引き金が絞られ、放たれる弾丸
倒れながら、お守りをカーゴポケットのフラップから私の左手に転がり落とし、すかさず握りしめる。
「御守り!!お願い!」
祈りを込めるように倒れながら両手に構え、セーフティーを解除するのと標準を合わせるのと、引き金を弾くのまでがまるでコマ撮り画像の様に鮮明に脳裏に映り、私の弾丸がタキの脇を引き裂いた!!!
と同時にタキの弾丸が、私のサングラスをぶっ飛ばした。
右側のレンズがビシッとひび割れ、床に落ちていくまでがスローモーションで視認でき、勢いを肩で殺すようにして回転軸にした。一回転半で踞る。
もう一度しっかりとタキの方を見ると、悔しげに睨み付けられた。
「負けた...わね。小娘にしてやられたわ。」
そう言った。
はっきり
負けたって
言った...!
「やった...やった勝った!ゆきちゃん勝ったよ!」
小夏のコールが、店内に響くのをまるでファンファーレの如く耳にする。
「勝者!沙知代!」
ギャラリーは無いけど、店内のそこかしこで祝いのクラッカーのように銃の発射音が鳴る。
ゆきちゃんの側に駆け寄り、お互いにハンズアップして、言葉少なに勝利を祝う。
改めてカートを握りしめながら、再び戦利品を得る為に走りだす。
「頑張んなさいよ、新妻!」
微笑むタキと小夏にすれ違い様に背中を叩かれる。
小さく頷いて、私とゆきちゃんは最後の戦場に走り込む。
精肉売り場は屍が累々とうめき声を上げながら横たわって、まさに凄惨の一言だった。
新妻同盟のえなちゃんや、林檎幼稚園のリーダーのりえかママ...あっちにはベテラン主婦たち...。
チルド商品棚のウインナーやハムのケース下にも、有名なベテラン勢が倒れている。
何があったの...?
ゆきちゃんとナゲットの昇り旗の下に伏せながら様子を探るように睥睨する。
タイムセールのコーナーは金の綺羅びやかなモールに彩られながら、そこにはたった一人の影しかみえない。
赤いプラスティックの牛乳ケースをひっくり返し、まるで戦国時代の武将が座る《床几》のようにしながら座ってるのは
「あれ...レジェンド...まさか長煙管ながキセルのお蝶さまじゃない?!」
小さくゆきちゃんが呟くその名は、この町の頂点《長煙管のお蝶》と呼ばれる生きる伝説...!
曰く大戦時は花魁であった、とか。
曰く身分を偽った御公家様の末裔である、とか。
曰く歴史的大人物をも調教した元女王様であらせられる、とか。
曰く日本経済の急成長発展は彼女が調教の片手間で命じたプレイの一環だ、とか。
曰く歴史の影にはお蝶夫人あり、とか。
花魁女王様、だなんて二つ名もある。
御歳を召されない吸血鬼姫の末裔だ、なんて一部では囁かれてもいるほどの、謎多きレジェンド主婦である。
「貴女達...隠れてないでお顔をお見せなさいな」
鈴を転がすような清廉な声は、まるで少女のようだが、声の深さとでいうのか...耳から侵入されてしまえば絶対に逆らえない恐怖がそこにあった。
私はトリガーに指を掛けたまま、ゆきちゃんは構えをそのままにした方がいいのか、それとも解除すべきか逡巡しつつも、二人でお蝶様の前におずおずと進み出る。
我々主婦に於ける最高位のレジェンド。
そのなかにあって孤高の永遠のトップ オブ トップと言われるレジェンドのなかのレジェンド【お蝶】。
悠然と微笑む彼女は、白髪を一部の隙もないほどに綺麗に夜会巻きに結い上げ、ひらりとしたシフォンの重なった七分丈のワンピース姿は低めの詰襟が喉元を彩り、前身頃を小さなボタンが1列に並んでいる。まるで修道服のような清廉な美しさで、羨ましいほどに均整の取れた出すぎず、引っ込みすぎずの美しいボディラインを覆って。
『これから雅叙園のティールームでお茶会ですの』とでも典雅に微笑まれたら、『そうですの?楽しんできてくださいませ』なんて返してしまいそうな程、スーパーマーケットのタイムセールという我々の戦場には似つかわしくない優美さで、艶然と微笑む夫人。
こんなペーペーの駆け出し主婦が話し掛けていい御方ではない。ドキドキと跳ね回る心臓が口から飛び出しそうな程、緊張の度合いが上がっていく。
「...貴女達もなの? 嘆かわしいわねぇ...」
頬にそっと手を当てながら、小首を傾げる姿は本当に美しく、まるで妖精のようだ。御歳不明のレジェンドは伊達じゃない。
「ぅ...ぁの...?」
彼女の憂い顔は何を言わんとしているのだろう?
恐る恐るではあるが、声を絞り出す。
「それよ、そぉれ...。銃だなんて...美しくないわ。一体いつからそんな腑抜けた物でタマのやり取りするようになったのかしら、と思って。本当に嘆かわしいわ。」
ユラリ、とお蝶夫人が立ち上がる。
「女はね...おそそを上げて手前てめぇの胆田引き締めてなんぼのもんよ。
それをあんた達は得物にばかり頼って...情けないったらねぇ。
わっちらの時代にゃぁね?己の技で勝負が当然だったもんだよ」
【パンッ】
乾いた音がお蝶夫人の手元で鳴る。
女性には少し大きめに見える扇が握られていた。
片手でゆっくりとそれを開くと、夫人は目を弓形に細め、扇の影に隠れる様に《見えなくなる》?!
たった一振りの鉄扇の影に夫人が見えなくなった...?!
すぅ...と消えたのは気配なのか?
夫人そのものが消えたのか...戸惑う私とゆきちゃんは、自然にお互いの背中を合わせた。
警戒。
毛穴という毛穴が、ぶあっと開いて得体の知れない恐怖に歯が鳴るという経験を、初めて体感している。
全身がまるでレーダーにでもなったかのように、ひたすら私たち以外の存在を探る。
二人の呼吸すら煩らわしい雑音に感じる位、恐怖で叫びそうなのを無理矢理押し留めながら、いきなり私の横っ面が吹っ飛んだ。
空中に足が浮く。そのまま体がくの字に曲がったまま、床を滑らずに空中を飛ばされていく。
あ!
っと知覚した瞬間に、痛みと驚きとがぶわぁっと私を襲う。
【 ドォンッ!! 】と響く衝撃音。
にこっ、と夫人が畳んだ扇をつき出し微笑んでいる。
私が夫人に飛ばされるまでは、確かに無音だった。
私はまだ飛ばされたままで、この音は叩きつけられた攻撃の音...?!
「がッ...はぁッ!!」
夫人を認識し、飛ばされた...どうやったのかわからないが攻撃を、受けた...?と理解した瞬間に、痛みに仰け反る。
「さっちゃん!!」悲鳴にも似た声に自分が打撃を受け、チルドケースに激突していることを理解する。
全身がバラバラに成ったかと思うほどの痛みに呻くしかできずに、ようやく開けた瞳に映るのは、そそとした仕草で佇む夫人と、その手に握られた日本舞踊で使うような大きめな扇。
そしてゆきの恐怖と驚愕とに見開かれた目。
その背後に微笑んだ夫人が優雅な姿勢のまま、服の袖裾がヒラリと翻り、振りかぶるのが一瞬見えた。
ゆきちゃんが音もなくふっ飛ぶ。
そのあとに続く風を斬る音。
舞うレトルトの箱とその中に倒れるゆきちゃんの姿が、破壊音とともに頭に入ってきて、それが目の前で起こっている事実だと理解するまでにタイムラグが生じる。
「あ...っ...」
助けなきゃ...と伸ばした手を、夫人のたおやかな手に掴まれ、ギリギリと持ち上げられて吊らされて、静かな怒りに煌めく夫人にニッコリと微笑まれた。
「ねぇ?...わかる? わたくしの怒りと哀しみ。貴女たちの不甲斐なさにどれ程哀しんでいるか、わかる?」と。
然程高くない背の夫人に片手で吊り上げられながら、万力で絞められるような痛みを手首に、さっきの打撃の全身のギシギシと軋む痛みも感じながら、夫人が纏う憤怒のオーラとでも言えばいいのか、それにあてられながら『恐れ』に震える。
ただ見返すことすら、恐ろしい。
夫人の言葉に返すことがただ恐ろしくて何も言えない。
「貴女たち...主婦をなんだと思ってるのかしらね?...戦う旦那さまのために、学業という荒波に揉まれる子どもたちのために、エネルギーである食を提供する為に...闘うのが主婦...。
闘う手段がいつのまにこんな飛び道具頼りになってしまったのかしら...本当に不甲斐ない...。
女はね?おそそ締めてなんぼなんよ?
緩マンで男満足させられる?絞める事を満足にできもしねぇで...物に頼るなんざ甘いんだよ...てめえの体張って.........闘え」
ゆっくりと振りかぶる夫人の扇子。
もう、ダメだ...
そして
「おそそって...なんですか...?」
わからん...言葉...。さっきからお蝶夫人がいってる単語が意味不明すぎて。
ああもう。旦那様にもっと本読みなさいって、新聞読みなさいって言われてたのを今更後悔。
痛みにもがきながら、ポツリと零れた言葉に夫人がキョトン、と私を見返した。
夫人の憂いを含んだような、すこし濡れたような色っぽい瞳は、私を不思議なものを見るような見開かれている。
「は?そんな事も...今の子は知らんのん?」
ドサッと私が床に落ちる。
見上げるのも怖いけど、そっと伺い見るとお蝶夫人は、その美しい顔を青ざめさせながら、嘆き哀しんでいる。
「これだから!今時の子はすぐ老害だの毒母だの疎女だの!すぐ経験者を蔑む癖に学ぼうとしない!閨の知識もネットだけ?!信じられないドベっぷり!ただ寝てりゃ佳いならなんの苦労もないわ!貴女!閨の手管はどう学んだの?」
「ね...や??」
「いやぁぁぁっ!閨も知らんの?」
「えっと...なんか...すみません...?」
絶叫するお蝶夫人の剣幕にとりあえず、謝っとく...?
それにしても。
御年おいくつなのかも判らないけど、お蝶夫人はものすごーくネットスラングにお詳しいようだった。
そこから。
痛みに蠢く主婦達を叩き起こし、なぜか全員正座でお蝶夫人の主婦の嗜み講座(主に夜編)が熱く開かれる事となった。
巧みにほにゃららを絞める方法がダイエットにも一役も二役もたち。
この街の出生率が爆上がりしたとかしないとか。
浮気離婚も減ったそうだが、真相はどうなんだろう?
因みに。
おそそっていうのは、うちのばあちゃんが言ってた『あんちょ』のことで、まぁ方言の1つらしい。
ぶっちゃけると女性器のことだそうだ。
とりあえず、この日は私がMVPで、ちゃんと目的の豚ヒレブロックをゲットできたのは、言うまでもない。
あ、夜に旦那様と仲良ししたのも、報告しときます(*ノ▽ノ)。
その後、定期的にお蝶夫人講座が開かれ、ニクの日は『ナイトファイト講座』の日、となった。
【おまけ】
「なんか...最近おまえ綺麗になったな...。毎日俺が励んでるからかな♡前より甘えてくるから...沢山...したくなる。」
なんて!!髪を撫でて貰いながら囁かれたら、大好き!ってなるから、沢山言葉にしておねだりしちゃう。
前は終わると直ぐ旦那様はお手洗いに行ってしまって、シャワーされちゃってたから...。一人でぽつん、とお布団にくるまってたけど。
いっぱい言葉にしておねだりするのをナイトファイト講座で習ったおかげ、かもしれない。
事後って、大事だけど、最中はもっと大事なんだなって勉強になった。
主婦にとって一番の戦場は【閨事】なのかもしれないね☆
【おわり】
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