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24「ホットケーキ」
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「待たせたな!じゃーん!」
購買から戻ってきた俺は三ツ矢の前に買ってきた品物が入ったビニール袋を突き出した。
三ツ矢はソファから動いておらずずっとここに座って待っていたみたいで俺が差し出したビニールの袋をきょとんと見つめてきた。
「買ってきた」
「買ってきたってなにを…?」
覇気のない声で問うてくるがそれに答えずに三ツ矢の腕を掴んで歩き出す。
抵抗する様子はなく手を引かれるまま俺についてきているのでそのまま三ツ矢と連れ立って廊下を歩き、ホールを抜けて先ほど先輩たちに教えてもらった調理室へやってきた。
中には人はおらず使いたい放題だ。
調理室にはキッチンがいくつかあって複数人が同時に調理できるようになっているみたいだ。
そのうちの一つを借りることにしてガサリと買ってきたものをどんどん机の上に並べていく。
その様子を見ていた三ツ矢がひょこっと顔を出し俺の後ろから机を覗き込んだ。
「…ホットケーキ?」
「うん、購買行ったら売ってた。しかもチョコスプレーと生クリームもあった」
バター、卵と牛乳、ホットケーキミックスにチョコスプレー、すでに泡立ててあるタイプの生クリーム。
フルーツはバナナぐらいしかなかったのでバナナを、バナナと生クリームにぴったりなチョコソースまであったのでおもわず衝動買いしてしまった。
本当はベリー系とかもあったら良かったけど充分見ているだけでワクワクするラインナップだ。
購買に何故こんなものが売っているのか謎だが、おかげで俺はホットケーキパーティーができる。
「えーっと?これどうするの?」
「作るの」
「…作るの?」
「うん」
満足げな俺とは対照的に三ツ矢は困惑している。
いつも俺たちを振り回してくる三ツ矢の方が今日は戸惑って頭の上にはてなマークをいっぱい出している姿が可笑しくて思わず笑ってしまった。
そう、作るのだ。
二人で。
「ほら、三ツ矢も早く手洗って」
「えー…」
口では文句を言いながらも渋々といった感じで手を洗っている後ろ姿を見てから俺は調理道具を探していく。
ふむ、調理道具も棚に入っている。
泡だて器、ボウル、フライパン、これだけあれば作れるな。
よし!それじゃあさっそくホットケーキ作るぞ~!
「ん…っうわ、えっこれ、大丈夫かな?律ちゃん、ちょ、ヘルプっ」
「大丈夫だよ、いける!」
「ええーほんとかな?…よっ…と……あ、あは…いけた?…ちょっと形が歪だけど…ははっ」
「焼き色きれいだし、ばっちりだよ」
「えーそうかな?ありがとー」
最初は付き合わされてやっているという感じだった三ツ矢だったが自分でフライパンに生地を流し入れたそれを一生懸命ひっくり返してる様子に少しだけ安堵した。
良かったちょっとは元気出たかな。
今はそれなりに楽しんでくれているようだ。
「全部焼けたしおまちかねのトッピングしていこう」
ホットケーキをお皿に乗せて買ってきたトッピングたちを思い思いに乗せていく。
俺は甘いのもしょっぱいのもなんでも大好きだから、クリームはたんまりでもばっちこいなのでいっぱい絞ろうっと。
クリームを絞ってから色とりどりのカラースプレーをパラパラと振りかける。
チョコソースもあったんだった、バナナを添えてチョコソースを垂らして…。
ああ、おいしそう…。
チョコソースってなんでこんなにおいしそうに見えるんだろう。
完璧だ、頬が緩んでしまう。
ふと静かになった三ツ矢の方が気になり何気なく見てみると、普段とは違った柔らかい微笑でこちらを見ていた。
「え、な、なに?」
思わず狼狽えてしまって、声も上擦ってしまった。
いつものおちゃらけた三ツ矢とのギャップがすごい。
お前そんな顔できるの…?
な、なんか調子が狂うな…。
「んーん…ありがとね、律ちゃん」
「べ、別に…俺は…ただホットケーキが食べたかっただけだし…」
「あはは、ツンデレだ」
ツンデレじゃないし、コホンと咳払いして息をついた。
「…ホットケーキ、子供の頃親と一緒に作った事を思い出してさ。こうやってトッピングして、母さんもにこにこしてそんな俺のこと見て、俺も俺でそんな母さん見て嬉しくなって…なんかホットケーキって幸せの象徴って感じだなって思って。…だから、三ツ矢も一緒にしたら楽しくなるかなーと思って………」
そんな思い出話をしながら懐かしい気持ちに浸っていたが、これは俺がされて嬉しい事だと気付く。
三ツ矢はいきなり調理室連れて来られて、ホットケーキ作らされただけだ。
男二人でホットケーキ…。
「…でも俺は今猛烈に反省しています…」
「えっなんで?」
「急にホットケーキ作ろって言われて、元気出るのかな…?俺励まし方間違えた気がする…」
普通にお菓子とか買ってこればよかったかもしれない。
というか当初はそのつもりだったはずなのに…。
さっきまで楽しかった気持ちが萎んでしまった。
三ツ矢は楽しそうにしてくれたけど思い付きでやりすぎた。先走るのは俺の悪癖だ。
「っふ、あははっ!…確かに、いきなりホットケーキ作らされたもんね」
吹き出したように笑って、三ツ矢が俺の方をからかうように見つめてきた。
ああ、ごめんってば。
「…でもさ、楽しかったし、律ちゃんが元気づけようとしてくれたのちゃんと伝わったから。間違えてないよ。ありがと」
「!…そ、それなら、良かった!」
「…ふふっ、ホットケーキかあ…、律ちゃんって作るものまでかわいいんだね」
「は、はあ!?」
「俺もクリーム絞りたいな、かーしーて」
なにか馬鹿にされたような気がしたので反論したかったが俺の言葉を遮るようににっこり笑って手を差し出してきたので渋々クリームの絞り袋を手渡した。
可愛くデコレーションしたホットケーキを二人で食べる。
甘いクリームに、チョコソース。
歪な形をしたホットケーキ。
クリームだってうまく絞れなかったけどホットケーキってやっぱり幸せの味がする。
購買から戻ってきた俺は三ツ矢の前に買ってきた品物が入ったビニール袋を突き出した。
三ツ矢はソファから動いておらずずっとここに座って待っていたみたいで俺が差し出したビニールの袋をきょとんと見つめてきた。
「買ってきた」
「買ってきたってなにを…?」
覇気のない声で問うてくるがそれに答えずに三ツ矢の腕を掴んで歩き出す。
抵抗する様子はなく手を引かれるまま俺についてきているのでそのまま三ツ矢と連れ立って廊下を歩き、ホールを抜けて先ほど先輩たちに教えてもらった調理室へやってきた。
中には人はおらず使いたい放題だ。
調理室にはキッチンがいくつかあって複数人が同時に調理できるようになっているみたいだ。
そのうちの一つを借りることにしてガサリと買ってきたものをどんどん机の上に並べていく。
その様子を見ていた三ツ矢がひょこっと顔を出し俺の後ろから机を覗き込んだ。
「…ホットケーキ?」
「うん、購買行ったら売ってた。しかもチョコスプレーと生クリームもあった」
バター、卵と牛乳、ホットケーキミックスにチョコスプレー、すでに泡立ててあるタイプの生クリーム。
フルーツはバナナぐらいしかなかったのでバナナを、バナナと生クリームにぴったりなチョコソースまであったのでおもわず衝動買いしてしまった。
本当はベリー系とかもあったら良かったけど充分見ているだけでワクワクするラインナップだ。
購買に何故こんなものが売っているのか謎だが、おかげで俺はホットケーキパーティーができる。
「えーっと?これどうするの?」
「作るの」
「…作るの?」
「うん」
満足げな俺とは対照的に三ツ矢は困惑している。
いつも俺たちを振り回してくる三ツ矢の方が今日は戸惑って頭の上にはてなマークをいっぱい出している姿が可笑しくて思わず笑ってしまった。
そう、作るのだ。
二人で。
「ほら、三ツ矢も早く手洗って」
「えー…」
口では文句を言いながらも渋々といった感じで手を洗っている後ろ姿を見てから俺は調理道具を探していく。
ふむ、調理道具も棚に入っている。
泡だて器、ボウル、フライパン、これだけあれば作れるな。
よし!それじゃあさっそくホットケーキ作るぞ~!
「ん…っうわ、えっこれ、大丈夫かな?律ちゃん、ちょ、ヘルプっ」
「大丈夫だよ、いける!」
「ええーほんとかな?…よっ…と……あ、あは…いけた?…ちょっと形が歪だけど…ははっ」
「焼き色きれいだし、ばっちりだよ」
「えーそうかな?ありがとー」
最初は付き合わされてやっているという感じだった三ツ矢だったが自分でフライパンに生地を流し入れたそれを一生懸命ひっくり返してる様子に少しだけ安堵した。
良かったちょっとは元気出たかな。
今はそれなりに楽しんでくれているようだ。
「全部焼けたしおまちかねのトッピングしていこう」
ホットケーキをお皿に乗せて買ってきたトッピングたちを思い思いに乗せていく。
俺は甘いのもしょっぱいのもなんでも大好きだから、クリームはたんまりでもばっちこいなのでいっぱい絞ろうっと。
クリームを絞ってから色とりどりのカラースプレーをパラパラと振りかける。
チョコソースもあったんだった、バナナを添えてチョコソースを垂らして…。
ああ、おいしそう…。
チョコソースってなんでこんなにおいしそうに見えるんだろう。
完璧だ、頬が緩んでしまう。
ふと静かになった三ツ矢の方が気になり何気なく見てみると、普段とは違った柔らかい微笑でこちらを見ていた。
「え、な、なに?」
思わず狼狽えてしまって、声も上擦ってしまった。
いつものおちゃらけた三ツ矢とのギャップがすごい。
お前そんな顔できるの…?
な、なんか調子が狂うな…。
「んーん…ありがとね、律ちゃん」
「べ、別に…俺は…ただホットケーキが食べたかっただけだし…」
「あはは、ツンデレだ」
ツンデレじゃないし、コホンと咳払いして息をついた。
「…ホットケーキ、子供の頃親と一緒に作った事を思い出してさ。こうやってトッピングして、母さんもにこにこしてそんな俺のこと見て、俺も俺でそんな母さん見て嬉しくなって…なんかホットケーキって幸せの象徴って感じだなって思って。…だから、三ツ矢も一緒にしたら楽しくなるかなーと思って………」
そんな思い出話をしながら懐かしい気持ちに浸っていたが、これは俺がされて嬉しい事だと気付く。
三ツ矢はいきなり調理室連れて来られて、ホットケーキ作らされただけだ。
男二人でホットケーキ…。
「…でも俺は今猛烈に反省しています…」
「えっなんで?」
「急にホットケーキ作ろって言われて、元気出るのかな…?俺励まし方間違えた気がする…」
普通にお菓子とか買ってこればよかったかもしれない。
というか当初はそのつもりだったはずなのに…。
さっきまで楽しかった気持ちが萎んでしまった。
三ツ矢は楽しそうにしてくれたけど思い付きでやりすぎた。先走るのは俺の悪癖だ。
「っふ、あははっ!…確かに、いきなりホットケーキ作らされたもんね」
吹き出したように笑って、三ツ矢が俺の方をからかうように見つめてきた。
ああ、ごめんってば。
「…でもさ、楽しかったし、律ちゃんが元気づけようとしてくれたのちゃんと伝わったから。間違えてないよ。ありがと」
「!…そ、それなら、良かった!」
「…ふふっ、ホットケーキかあ…、律ちゃんって作るものまでかわいいんだね」
「は、はあ!?」
「俺もクリーム絞りたいな、かーしーて」
なにか馬鹿にされたような気がしたので反論したかったが俺の言葉を遮るようににっこり笑って手を差し出してきたので渋々クリームの絞り袋を手渡した。
可愛くデコレーションしたホットケーキを二人で食べる。
甘いクリームに、チョコソース。
歪な形をしたホットケーキ。
クリームだってうまく絞れなかったけどホットケーキってやっぱり幸せの味がする。
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