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84「メロメロパニック11」
しおりを挟む「…さて、そろそろ寝ようか」
時計を確認してからテレビを切ると、寝支度を終えた藤堂先生が机の上を片付けていた。
俺は歯磨きをするように言われて洗面台を借りて戻って来たところだ。
「ベッド使っていいよ、先生はソファで寝るから」
「…え…」
「え?…いや、…え?」
あからさまにショックを受けている俺を見て先生が目を丸くする。
俺の言わんとすることがわかったのか、ギクリと肩が揺れていた。
「…そうだね…不安な気持ちがなくなるまでって言ったのは先生だもんね?」
すこし考えた素振りをした後うん、と頷くと手を差し出した。
「一緒に寝ようか、眠くなるまでお話しよう」
…なんだか今日の先生は、自分の部屋にいるからなのか雰囲気がいつもよりも柔らかくて、優しくて。
ちょっと甘さを含んだ声色でベットへ誘われると、寝られるか心配になってくる。
眠くなるまでお話してくれるなんて…そんな嬉しい事を言われて、俺がこのまま眠れなかったら先生とずっとお話出来るかもなんて我ながら馬鹿な事を考えてしまう。
差し出された手を取って、引かれるままベッドに潜り込んだ。
布団に潜り込むとふわっと香る、藤堂先生の匂い。
隣には先生の体温も感じる。
ドキドキして落ち着かなくて布団の端っこをぎゅっと両手で握ったままじっと動かずに天井を見る。
何か喋るべきだと思うのに。
言葉は出て来なくて、ただあわあわと口を閉じたり開いたりするだけだった。
だめだ、このまま黙ったまま寝ることに集中するべきかもしれない…。
でも、…まだ眠れそうにもないし……寝たくないし…。
脳内は慌ただしくどうするか考えたまま、落ち着かない身体がころんと寝返りをうつ。
「………!」
常夜灯が付いた室内は薄暗いが人の顔は見えるくらいの明るさで。
寝返りの先にいた藤堂先生はこちらを見ていた。
じっと、見つめる瞳はいつもの優し気な瞳だったけどこんな状況で先生と見つめ合うのは俺の思考を吹っ飛ばすには十分の破壊力だった。
「…ふ、ふふっ……わかりやすいね、夏目は…」
慌てっぷりにクスクスと笑われてしまい、顔が熱くなる。
モゾ、と布団が揺れて手が頭に触れた。
ゆっくりと髪を梳くように撫でられる。
撫でる優しい感触に目を細める。
…、…んん…なんか…もう…色々…忙しい…。
感情も、思考も、触れるぬくもりも…匂いも…全部、藤堂先生でいっぱいで…。
「…大丈夫だよ、ちゃんと落ち着くまで一緒にいるから…不安な気持ちが、なくなるまで……」
やさしく、やさしく頭を撫でながら落ち着かせようとしてくれるのは分かる。
で、でも。
俺は先生の事が好きなんだよ?
こんなの落ち着くどころか、もっと触れてもっとしてほしいって思ってしまうじゃないか。
わざとじゃないんだろうけど…指先が時々耳に触れると、ぞわぞわするし…。
堪らない気持ちになってしまう。
「…っ………ん……」
鼻から甘い息が漏れて小さく呻く。
じわじわ溜まっていく熱。
あれ…?
なんか…これ、まずいかも…。
「…っ…はあ…」
「…夏目?…大丈夫…?」
顔が熱い、心拍が上がって全身がドクドクしている。
顔を覗き込んできた心配する瞳が近く、まるでこのままキスされてしまうんじゃないかと勝手に勘違いしてしまいそうになる。
起き上がるように促されてベッドの上で身体を起こす、その時に支えるように背中に回った先生の掌のぬくもりにぞわりと背中が震えた。
先生の指先を意識するともう駄目だった。
この指で…触られたいと思ってしまう。
「…せ、せんせ…おれ…♡」
「夏目……落ち着いて…大丈夫だから…深呼吸してみよう」
「…んんっ…すぅ……はぁ……」
背中を大きな掌で撫でられるとそれだけでじんじんしてくる。
深呼吸なんて、全然意味なかった。
「…っ…あっ‥‥…♡」
ぶるっと震えて、頭が下がると髪がふさっと視界を覆った。
浅く呼吸を繰り返しながら自分の身体の変化に気付く。
「……藤堂先生…」
未だに聞きなれない高い声が自分の口から出る。
視線を下げると藤堂先生の腕がびっくりしたように強張って慌てて離れていってしまった。
…先生になら触られてもいいのに…ぬくもりが消えてしまった事の方が寂しく感じてしまう。
「…体質が、出ちゃいました……」
「…うん、そうみたいだね………ちょ、ちょっと待ってね……考えてるから…」
はふはふと肩を揺らしながら呟くと驚きに目を泳がせながらも先生らしく言葉を繋いでいく。
不謹慎にも可愛く見えてしまった。
「佐々木先生…いたかな…、司波先生にも連絡して…」
「ま、待って……待ってください…!」
ベッドから身を乗り出し、スマホを取りに行こうとした腕を掴んで止める。
「俺じゃ、わからないから来てもらわないと…ね?…い、一応…先生も聞いてはいたんだよ。体質の事も…対処の仕方も……万が一の場合に備えて……でも、やっぱり詳しい人に来てもらった方が…」
先ほどよりも強張った声で諭すように話しかけてくるが、俺は体質の事や対処の仕方も聞いているというところに引っ掛かって顔を上げた。
…それってつまり、先生と…。
バクバクうるさい心臓を抑えながら戸惑う先生の顔を見詰めた。
「…知ってるなら…藤堂先生がしてください…」
「…っ…!…や、それは……夏目、落ち着いて…」
今にも迫りそうな俺の肩をぐっと抑えると慌てた様子の藤堂先生が何度も、落ち着いて…と繰り返す。
まるで自分自身にも言い聞かせるように囁いているようだった。
でも、俺はもう身体中の熱がぐるぐるし始めてて。
「…キスするって…知ってるんですよね?…俺、先生がいいです…」
「……ぶはっ……」
吹き出すように顔を背けて、暫く固まったあとすうーっと息を吸いながら目を瞑って動かなくなってしまった。
焦れったくなって身体を寄せると、瞬発的な速さの腕に阻まれる。
「…ほんと、待って…!…夏目…っ!一回…落ち着こう…!…夏目、なんてことを言うの…、だめだよ、そんなこと軽々しく言ったら……」
何度目かわからない言葉を口にし、目が回りそうな程慌てた藤堂先生の頬が赤く染まっているのが暗がりでもわかる。
その表情を見た俺までキュンと心臓が締め付けられるみたいに甘く痛んだ。
身体にも直結する、疼くお腹の下。
このままくっついて、キスしてほしい。
でも先生が落ち着いてと言うので…渋々動きを止めるがもじもじと揺れる足は止められなかった。
「…確かに、聞いてはいたけど…待って、待ってくれ…これは…」
小さな声で、ばあちゃん…俺どうしたら…と半泣きになって呟く藤堂先生。
「軽々しくなんて言ってないのに…」
「そうじゃなくてもだめ。…とにかく、俺じゃなくて佐々木先生に戻してもらえるようにお願いしに行こう…」
スマホを取ると連絡先を探す指先、その手を慌てて静止すると意外にもあっさりと藤堂先生の指はピタッと止まった。
俺の指が先生の手に絡む、先生の手はさっきよりも熱く感じた。
「……藤堂先生じゃだめなんですか…?」
視線が揺らいだ気がして、俺の目にも少しだけ希望が宿る。
「先生がいい……せんせいじゃないと………やだあ………」
べそっと泣きながら絡めた指に力を籠める。
先生と一緒にいると泣いてばっかりで呆れられてしまうんじゃないかと思うが感情が制御できず涙が勝手に出てきてしまう。
それが余計に子供っぽくて恥ずかしいのに。
藤堂先生に呆れられてしまうのは嫌だけどこのまま佐々木先生の元に行ったら…いけないような気がする…なんだかそんな予感がして必死だった。
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