過去と未来と彼女

アア

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友達になるために part1

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 宮下さんと友達になると宣言して三日。僕はクラスの席にて頭を抱えていた。
 頭を抱えている理由としては、僕の今の行動が正しいのか疑問に思っているからだ。
 宮下さんと友達になるべく、努力はしている。
 できるだけ宮下さんが楽しくなるように雑談をしたりだとか、積極的にゲームに誘ったりだとかそんな風に。
 だけど、それだけでいいのかと考えてしまうのだ。
 だって、僕は中学時代のほとんどの時間を一人で過ごしてきた陰キャだから。
 未来から来た彼女の思いは無駄にしたくないし、なりより僕自身も宮下さんを救いたい。
 そのためならやれることはやるつもりだが、それが何かがいまいちわかっていないのが現状だった。
「う~ん」
 再度、頭を抱える。
 そうしてどうすればいいのか悩んでいると
「何悩んでるんだ?」
 と後ろから声をかけられた。
 声に反応して後ろを向くと、香島がいた。
「いや、まあ、ちょっとね……」
「ちょっとねってなんだよ、具体的に教えろよ」
 言われて、考える。
 香島に尋ねてみればいいのでないかと。
 入学式から一か月が経過しているが、香島はもうすでにクラスの中心人物になっていて、少なくとも両手で数えられない程度の友達がいる。
 そんな香島なら、何か友達になる秘訣みたいなものを知っているかもしれない。
 事情が事情であるためすべてを話すことはできないが、“そこそこに仲のいい人と友達になるにはどうしたらいいかな?”みたいな感じで聞けば教えてくれるだろう。そう考え、僕は香島に尋ねる。
「ちょっと、仲のいい人との関係について悩んでたんだ」
「ふ~ん」
「今、僕にはそこそこ仲のいい人がいるんだ。その人と僕は一緒に雑談したり、ゲームしたりはしてるんだけど友達ってわけじゃない。そんな人と友達になるためにはどうしたらいいと思う?」
「いや、それ普通に友達じゃね?」
 香島に尋ねると、香島はあっけらかんとした調子でそんなことを言った。
「え? そうかな?」
「いや、だってそうだろ。雑談だけなら友達じゃない奴ともするかもしれないけど、一緒にゲームは友達じゃないとしないだろ。ゲームする場所がゲーセンだとしてもどっちかの家だったとしてもさ」
「そんなもんかな?」
「そんなもんだろ」
 当たり前だろ。といった様子で香島は言う。
 そうか、一緒にゲームするのはもう友達か……それなら、もう作戦のための目標は達成できていると言えるだろう。
「ち・な・み・に、仲良くしてるやつって誰だよ。俺とすら一緒にゲームなんてしたことないのに、いつの間にそこまで仲いい奴できたんだよ?」
 まくし立てるように質問され、若干戸惑う。
 まあ、別に香島になら言ってしまっても構わないだろう。
「隣のクラスの女子だよ」
「隣のクラスの女子か……っていうことは文芸部の部員か?」
「なんでわかるの?」
 素の疑問が出る。
「普通に考えて入学して一か月の俊太が関係もっているであろう女子が部活関連だろうなって推測しただけだよ」
「なるほど……」
 僕が納得の声を上げると香島は
「それで、お前の悩みは今言ったことだけか?」
「いや、もう一つだけあるんだ。聞いてもらってもいいかな?」
「遠慮すんなって、友達だろ」
 恥ずかしげもなくそんなことを言う香島に僕は一言礼を告げてから
「友達としてさらに関係を深めるにはどうしたらいいと思う?」
 と聞いた。
「友達としてさらに関係を深める方法か……そうだな、俺がやってることでもいいか?」
「うん、もちろん」
「じゃあ、話すな。俺がやってるのはとにかく友達といる時間を長くするってことだな」
「友達といる時間を長くする?」
 香島の言葉を反芻する。
「そう、友達といる時間を長くする。例えば、学校内だったら友達と一緒に昼食をとるとか、休み時間に一緒に話すとかだな……学校以外だったら、放課後友達の家か、自分の家に招待するかして一緒に遊んだりとかだな。それこそ、俊太が自分の家で一緒にゲームしてるんだったらそんな感じで。後は互いの予定が合ったり、相手が了承した時に限るけど、休日にも一緒に遊ぶとかだな。休日に一緒に遊ぶことで一緒にいる時間が長くなって自然と仲良くなるしな」
「なるほど……」
 納得して呟く。
「まあ別に、今俺が言ったこと全部をしなきゃいけないってわけじゃないんだけどな」
「そうなの?」
「そうだな。相手との相性とかもあるし、出かけるとかにしたって相手がインドア派だったら楽しくない場合もあるしな」
「なるほど……」
 再度納得して呟く。
 そうか、相手のことを考えて状況に応じて使い分けることが大事なんだな。
「ありがとう、香島。参考になったよ」
「まあ、参考になったんなら良かったよ」
 僕らはそんなやり取りをして、その後他愛のない話を繰り返した。
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