憧れの悪役令嬢に転生したからと言って、悪役令嬢になれる訳では無い!!

来実

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25.デート

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「じゃ。行こっか?」
馬車を降りると、人通りの多い街のど真ん中に降り立った。

市場のような出店が道端にずらりと並んでいて、まるでお祭りみたい。
屋台の明かりに照らされた通りには、甘い焼き菓子の香りや人々の笑い声が溢れている。

「はぐれないようにね?」
ラルフは、私に手を差し出す。

「大丈夫……だと思います。」
手を繋いで歩くとか、逆に緊張する気がする。

「……?そぅ?」
ラルフはクスッと笑ってゆっくりと歩き出した
私は、少し距離をとりながらその背中を追いかけた。

でも、人が多すぎて上手く歩けない。
バタバタと人にぶつかりまくって、すみませんと謝り、そうこうしているうちに、気づいたらラルフの姿が見えなくなってしまった。

あーーーー。やってしまった……。
どこからこんなに人が湧いてくるんだろぅ。
人に飲まれそうになりながら通りを歩く。

知らない場所……。
私は、辺りを見渡しても知ってるものなんてひとつもなくて、どんどん不安になってくる。

早くラルフを探さないと…。

人波に流されながら辺りを見渡すけど、知らない顔ばかり。

どうしよう……。

人混みに揉まれながら足元を見ずに歩いていたせいで、足元の溝につまずいて――

「あっ!!」

次の瞬間、目の前の人を押し倒してして私は壮大に転んだ。

「痛っ!!何するんだ!!」
「すすすすっ!!すみませんっ!!!」

男の人を押し倒すように倒れて、状況も気まずい。
慌てて立ち上がろうとして、自分のスカートの裾を踏み、さらにバランスを崩して倒れそうになった瞬間

「危ないよ?」

背中を支える腕。
耳に届く、低くて落ち着いた声。
振り返ると、そこにはラルフがいた。

心臓はバクバク言ってるけど、その声にホッとしている自分がいる。

「なんだお前?!」
「あぁ。連れがすまないねぇ」

とラルフは穏やかに返した。

「すまないじゃねぇんだよ!!」
「?ん? こんなにか弱い女の子1人支えられないで倒れてしまうくらいのヤワな男って、どうなのかな?」

ラルフは、男性の隣にいる連れの女性にちらっと目線を送って、再度男性を見下ろした。

「……っ!!」
男性は何か言いたげにした言葉を飲み込んでラルフが差し出した手を取って立ち上がる。

「あなたのおかげで、彼女が怪我をせずにすんだことに感謝する。」
と、ラルフは胸元に手を当てて挨拶すると、男性は

「……レディに怪我がなくて何よりだ。」
と言って女性を連れて、去っていった。

そして、ラルフは私に向き直る
「ご……ゴメンなさい…。」
私は、色々な申し訳なさに謝罪した。

すると、ラルフは、
「やはり街中は人が多すぎたね?」
と言って、私に手を差し出した。

私は緊張しながらも、その暖かい手に触れる。
ラルフは、私の手をそのままグッと引き寄せると
「今度はぐれたら、抱き上げて歩くけど、いい?」
と、からかうように耳元で囁いた。

「よ、良くないですっ……!」
声が裏返るのを自分でも止められなかった。

私は耳元のくすぐったさと、手を繋いでる緊張で、歩き方までもぎこちなくなる。

手を繋いでるだけなのに、なぜこんなに緊張するんだろう……。
ラルフの顔を見上げられない。

ラルフ私の頭をポンポンと撫でると、
「大丈夫?」
と、声をかける。

大丈夫だけど大丈夫ではありませんっ!
いろいろと!!

ラルフはしばらくすると、ゆっくり歩き出した。
あまり人の居ない道を選んでくれて、市場やお店を見て回った。

色とりどりの屋台、楽しげな音、何もかもが初めてで、見るものは全て新鮮だ。

ボタン屋さんを見つけた時、思わず声を上げて駆け出した。

アンティーク調の宝飾品までいかないにしても、なんて可愛いボタンなんだろう……
貝殻を削って作ったものや、動物の角や、革を使ったものなど、たくさんのボタンがあって、私は何もかもを忘れて、ただ趣味の世界に浸った。

街ゆく人の服装や、アクセサリーも、見ていて飽きない。
 
そんな私を、ラルフはニコやかに見守ってくれていた。


そして、最後に、ドレス屋さんに連れていかれた。
メジャーをまわされ、あちこちを採寸される。
なんだか不思議な気持ち。
いつもは私がそちら側で仕事をしていた。
そんな日常だったものが今では遠くに感じられる。

「僕の好みで選んでいい?」

と言われてコクリと頷くと、パパッと店員にあらこれ指示してお店を出た。

ラルフの…好み……。
どんなものだろぅ。とか意識してしまうと、顔が赤くなってしまいそうで--
心が落ち着かない。

馬車に乗ると、疲れがどっとのしかかる。ウトウトしてラルフの肩にそっともたれかかってしまう。
揺れるたびに、安心と眠気が混ざって溶けていく。
「眠ってていいよ」
そう言う声が、やさしくて。
そのまま、私は彼の温もりに包まれながら目を閉じた。







「日も暮れて来たし、そろそろ帰る?」
ラルフがそんな提案する頃には、歩き回って、もぅクタクタだったので、コクリと頷いて、馬車に乗りこんだ。

コトコト馬車に揺られていると、フワフワと眠りに落ちそうになる。

すると、ラルフは私を引き寄せ、
「沢山歩いて疲れたんじゃない?眠ってていいよ?」と、肩にもたれさせる

なんだろう。この安心感。
私はその腕に身を委ね、ちょっと眠気に抗ってみたけど、心地よい揺れには叶わない。
ここは素直に眠気に従う事にして、大人しく意識を手放した。
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