彼に勇者は似合わない!

プリン伯爵

文字の大きさ
93 / 109
第三章

第10話 隔絶した力

しおりを挟む
「セニアはまあ鍛えればそれなりに戦力となる。貴様はどうかな?」
「お手柔らかにお願いしますよリヴァリア様」
カイトの本気は無名も見たことがない。
仲間達も同様なのかセニアの時よりも真剣に見守る。

無名の側に戻ってきたセニアはたった一瞬の攻防だったにも関わらず汗びっしょりで顔は強張っていた。

「お疲れ様ですセニアさん」
「ええ……」
「相当疲れてますね」
「あれが龍の威圧……殺されたかと思いました」
よほど恐ろしかったのかセニアはその言葉を最後に口を噤んだ。
無名も一度リヴァリアと戦ってはいるが、先程のような龍の威圧は受けなかった。
あの時は恐らく殺意をそれほど抱いていなかったのだろうと考え、カイトの後自分も受けてみたいと思っていた。


「貴様は先程のセニアよりも強そうではないか」
「そう言って頂けるととても嬉しいものですね」
「ふむ、ではくるがいい」
カイトが両手に広げてゆっくりとリヴァリアの方へと向ける。

「ほう……魔法、か?」
「それはどうでしょう?」
不敵な笑みを浮かべるカイトの周りには徐々に魔力が集約されていく。

リヴァリアも口角が上がり、カイトを面白ものでも見つけたと言わんばかりに見つめる。

「ククク……人間のくせになかなかの魔力量ではないか」
「そうですか?褒め言葉と受け取っておきます。破滅の雷光ライトニングルイン!」
強烈な光と共に雷光が音を置き去りに放たれる。
雷属性上級魔法だがこのくらいなら無名も扱えるものだ。
クランリーダーであるカイトがこの程度で終わりなはずがない、無名がそう身構えたと同時にカイトの姿が掻き消えた。

「どこにいったんだ!?」
「マスターどっか消えたわよ!?」
「消えたんじゃない!移動したんだ!」
仲間達もカイトの姿を見失ったのかみな目線を彷徨わせている。
無名は辛うじて目で追えていたが、セニアもギリギリ捉えていたようで無名と同じ方向を見ていた。

「上級魔法程度で妾をどうにかできると思うたか?」
「いえ、思っていませんよ。なのでこちらが本命です!」
リヴァリアの背後へと移動したカイトは両手を前に突き出し魔法を発動させる。

氷嵐の双撃デュアルアイストーム!」
カイトの両手から放たれた二つの暴風は渦となり氷の礫を纏ってリヴァリアを飲み込んだ。

不意を突かれたリヴァリアは振り返るのも間に合わずカイトの魔法をその身に受けた。
普通の人間であれば身体はズタズタになり死に至る魔法だが、カイトはそれを全力で放った。
そうでもしなければ龍王の身体に傷をつけるなど不可能だと考えたのだ。

「なかなか面白いぞ人間。だがちと威力が足らんかったな!」
「ッッ!」
攻撃は確実に命中した。
それは見ている者たちでもわかった。
しかしリヴァリアは無傷で立っておりセニアの時と同じく腕を振るう。

「龍の威圧ッッ!」
カイトが即座に後方へ跳び距離を取ったが龍の威圧に距離は関係がない。

動けなくなるほどの威圧にカイトの額から大粒の汗が流れ落ちる。

「ほう……貴様も耐えたか」
「耐え……るだけ、では終わりませんよ……」
カイトは足に力をいれ、一気に前へと飛び出した。
手にはショートソードを握り、その勢いでリヴァリアへと突き刺す。

「むっ」
リヴァリアも驚いたのか目を少しだけ見開き、突き出された剣先を指で摘んで受け止める。

「ほう!すばらしいぞ!人間も捨てたものではないな!」
なんとカイトは龍の威圧にも負けずリヴァリアへと追撃を繰り出したのだ。
流石にそれは予想していなかったのかリヴァリアは喜ぶ。

「ふむふむ、これならば邪龍相手でもそう簡単にくたばらんだろう」
「あ、ありがとう……ございました」
カイトの全力をもってしてもやはりリヴァリアに傷一つつけられず、あまりに隔絶した力の差にクランメンバーは青い顔であった。

「なかなか良い。貴様の名は?」
「カイト、と申します」
「ふむ。セニアにカイトか。覚えたぞ!よし、次は貴様だ無名」
唐突に名前を呼ばれ無名の肩が跳ねた。

「え?僕もやるんですか?」
「妾は不完全燃焼だ。貴様ならそれなりに戦えるだろう?」
「あの時は手を抜いていてくれたからですよ。本気でこられたら僕も歯が立ちません」
「ククク……謙遜するな。いいからさっさとこい」
リヴァリアの有無を言わせぬ圧に無名は仕方なくカイトと入れ替わりに訓練場の真ん中へと立った。

「龍の威圧はとんでもないよ。無名君、本気の君を見てみたい。俺達も楽しみにしているよ」
カイトからそんな言葉を投げかけられ無名は苦笑いを浮かべた。

「さっきの二人とは訳が違うのでな。貴様は妾と共に邪龍と真っ向から戦う必要がある。だからまずは小手調べといこうか」
急激にリヴァリアを覆っていた魔力が爆発的に増えると、凶悪なまでの殺意を飛ばした。

龍の威圧を正面から受けた無名は自分を覆う結界で辛うじて防ぐ。
カイトとセニアにぶつけた威圧とは訳が違うほどの強烈な圧。
結界越しでも感じられる明確な殺意。
邪龍から放たれる圧はこれほどのものかと無名も顔を歪める。

「流石にこれは耐えたか。では次だ。ある程度手は抜いてやるが死ぬ気で防げ。でなければ消し炭になるぞ」
「え?ちょ、ちょっと待って――」
「待たん。龍王の息吹ドラゴンブレス
口からではなくリヴァリアの手から放たれたそれは、上級魔法を軽く上回る火力で無名も全力で魔法を展開する。

氷河の絶壁アイシクルウォール!」
「そんなチンケな魔法では防げんぞ無名!」
リヴァリアはチンケな魔法、と言ったが氷河の絶壁アイシクルウォールは水属性上級魔法だ。
決してチンケな魔法ではない。

しかしその言葉通り分厚い氷の壁はみるみる溶かされていく。

「早く次の手を打たんと消し飛ぶぞ」
「ぐっ……金剛の盾アダマンタイトシールド!」
今度は強固な盾を生み出しリヴァリアのブレスを防ぐ。
既に氷の壁は穴が空き残るは盾のみ。
それでも一向に威力が落ちることがなかった。

「ほれほれ、魔力はまだまだあるぞ。何としてでも防いでみよ」
龍王の息吹ドラゴンブレス!」
防御系では防ぎきれないと判断した無名はリヴァリアと全く同じ魔法を放った。

「妾と同じ魔法をいとも簡単に使ってみせるか。流石は勇者といえる。しかしオリジナルに勝てると思うなよ無名!」
「当然理解していますよ!だから僕は!龍王の息吹ドラゴンブレス!」
無名はもう片方の手でもう一つブレスを放つ。
上級魔法の二重詠唱だ。
これにはリヴァリアも驚きを隠せない。

「ほう!一つで無理なら二つでか!良いぞ!さぁ、妾の魔法を相殺してみせよ!」
それでもリヴァリアのブレスはなかなか威力が衰えなかった。
既に上級魔法を二つ突破し今では上級魔法の二重詠唱という離れ業まで使っているのにも関わらず微塵も衰える様子がないのだ。


「ほれほれ、徐々に押されておるぞ?」
リヴァリアはニヤニヤ笑みを浮かべながら無名を煽る。
魔力量も圧倒的なまでに多いリヴァリアの魔法を相殺するなど常人ではまず無理である。
無名は険しい表情で全力で二つの魔法を放ち続けている。
それも時間の問題。
いずれ力尽きるのは確実に無名だ。
ならばと別の魔法をリヴァリアに見えないよう背中で展開し魔力を少しずつ流していく。

拮抗しているように見える龍王の息吹ドラゴンブレスのぶつかり合いもいよいよ無名の目前まで迫ったその時、無名がフッと笑みを浮かべた。

「むっ」
リヴァリアも何かに気づいたのか流し込む魔力の量を増やす。

「無名君!」
カイトの叫びが木霊した時には、無名のいた場所がリヴァリアの魔法により大きく抉られていた。

「ふむ……避けたか」
リヴァリアは消し炭になったかとも思ったが不敵に笑った無名の顔がちらつき警戒を解こうとはしない。

「無名君!どこだ!リヴァリア様!まさか殺してしまったのですか!?」
カイトは焦った様子でリヴァリアに言葉を投げかける。
しかしリヴァリアは首を横に振る。


「無名……やはり勇者足り得る力は持ち合わせていた、か」
リヴァリアが小さく零す。
ゆっくり目線を下げると剣がリヴァリアの腹を貫いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...