彼に勇者は似合わない!

プリン伯爵

文字の大きさ
94 / 109
第三章

第11話 勇者の本領

しおりを挟む
リヴァリアの腹からは剣の刃が突き出ていた。
背後からの一撃。
リヴァリアとて警戒を怠ったわけではない。
気づけば腹に鈍い痛みを感じだのだ。

「無名……どうやった?」
「そこはまあ……秘密ということでどうでしょう」
「ククク……万能の勇者の名は伊達ではなかったか!」
腹を貫かれ血が滲んでいるというのにリヴァリアは高らかに笑っていた。

「無名君……どうやってそんな場所に」
「カイトさん、これが勇者としての力です。レベル6の冒険者とも互角以上に戦える万能の勇者としての力なんです」
無名はいよいよリヴァリアのブレスに押し込まれるその瞬間、背中に浮かべていた魔法を発動した。
その魔法は朧げな現身アバター
限りなく実体に近しい分身をその場に残し、無名自身は稲妻よりも疾くクイックスパークを使い目にも留まらぬ速さでリヴァリアの背後を取った。

そしてカイルの技を見て盗んだ鉄剣生成ソードフォームでショートソードを創り出しリヴァリアの腹へと突き刺したのだ。

怒涛の魔法行使により無名の額には汗が浮かび、息も上がっていた。

「これほどの力を持つとは。これならば邪龍相手でも遅れは取らんかもしれぬ」
「そう言って頂けて感謝します」
「だがもう少し持久力が必要ではあるな。ちなみにだが龍王はこの程度の攻撃何の足しにもならん」
そう言うとリヴァリアは突き刺さった剣を片手で掴むと砕いた。

「無名、発想は良いぞ。しかしこれでは致命傷は与えられん」
「これ以上の力がいるのですか?」
「そうだな……さっきのブレスを十発至近距離でぶっ放せ。それなら邪龍といえども無傷では済まん」
リヴァリアはかなり無茶を言っていた。
上級魔法の二重詠唱ですら高難易度だというのにそれを十発放てと言うのだから。
それこそ悠久の魔女フランのような天性の才がなければ不可能だろう。
そもそも十発同時に放てるほどの魔力は無名にはない。

「勇者というのはやはり貴様のような力を持っているのか?」
「いえ……僕は恵まれているだけです。他の勇者は……正直言ってレベル5の冒険者にも達していません」
「ふむ……ならば無名の才能か。とにかくこれで勇者の実力が分かった。今のが本気であったのだろう?」
無名は無言で頷く。
紛うことなき本気だった。
それにも関わらずリヴァリアはピンピンしている。
力の差を見せつけられ無名は悔しそうに歯を食いしばっていた。

「それにしても妾に血を流させるとはのぅ……いつぶりか分からんぞ」
リヴァリアは腹から血を流しているのに何ともないのかケラケラと笑う。
次第に傷が塞がっていき何の傷も無かったかのように綺麗に治っていく。

「それが龍の自然治癒能力なんですか?」
「む?そうだな。だからこの程度では致命傷にならんのだ。妾はだいぶ力を失っていてこれだぞ。邪龍が妾以上に力を蓄えているのならもっと治癒は早い」
確実に致命傷を与えるのならば回復が追いつかない速度で連撃を加えるか、回復を大幅に上回るダメージをいれなければならない。

無名も魔力を全力で練れば高威力の魔法を放てるが、それには溜める時間が必要であった。


「無名君、やはり君は勇者だね。リヴァリア様に一撃でもいれられたのは称賛に値するよ!」
カイトは手放しで喜んでいた。
無名は本気だと言っていたがまだ隠し玉はあるだろうとカイトは考えている。
魔神が復活しても無名がいればなんとかなるのではないか、そう思えるほど期待に満ちた表情だった。


「せっかくの機会だ。邪龍がいかほどの力を持っているか見せてやろう」
リヴァリアが突然そんなことを言い出しその場にいる全員が固まる。

「まさか龍の姿に――」
無名が言い終わるより早くリヴァリアの身体が光り輝き訓練場の半分ほどの龍が出現した。

「今から龍の威圧を出してやる。この姿の威圧は並大抵の者では死に至る。無名、カイト、セニア以外の人間はこの場を立ち去れ」
巨大な龍にそんなことを言われればクランメンバーは我先にと訓練場を後にした。
残された三人は苦笑いを浮かべるしかない。

「もう十分邪龍の強さは理解できましたが……」
「まあいっぺん味わっておけ。貴様らなら死にはせん」
死ななくとも恐ろしい思いなどしたくはないのだ。
リヴァリアには逆らえず無名達は顔を見合わせ嫌々ながら構えを取った。

「ではゆくぞ?」
リヴァリアが咆哮すると空気が震え大地が揺れた。
龍の威圧ではなくもはや龍の咆哮ではないかと無名は結界で自身を覆いながらため息をつく。

数十秒にもわたる強烈な威圧にカイトとセニアは膝をついた。
案の定立っていられたのは無名だけであった。


「ふむ……こんなところか」
満足したのかリヴァリアはまた発光し人間の姿へと戻る。
カイトとセニアは過呼吸のような症状で荒い息を吐いていた。
無名は立っていられたがそれでも若干膝が震えている。

「これが本物の龍の威圧だ。これに耐えれねば即座に死ぬぞ」
「これが……本気の龍の威圧、ですか。邪龍と対峙するのが恐ろしいですね」
カイトの言葉にセニアも頷く。
そもそも人間と龍とでは存在感が違う。
人間の数百倍という年月を生き、体躯も数十倍に及ぶ。
生き物としての格が違うのだから当然の結果といえた。


「妾はこれでも龍王の中で最古参だ。邪龍はどちらかといえば若い。まだまだ力は有り余っておる。この国を守ってやるつもりではおるが、妾だけでは止められんと心得よ」
「わかりました。少なくとも今の威圧で臆するな、ということですね」
「うむ。そうだ!良いことを考えたぞ」
リヴァリアの良いことというのが、不安でならない三人は少し後ずさる。

「なんだ、どこへ行こうというのだ?」
「いえ、その……」
「遠慮しているのか?クックック……妾は寛大なのだぞ?そう遠慮せずとも良い」
「は、はい……」
「良し!今日から一週間妾が面倒見てやろう!貴様らも邪龍討伐の戦力になりたいであろう?」

やっぱりな、そう顔に書いてある無名。
愕然とした表情のカイト。
セニアに至っては顔が青くなっていた。

リヴァリアほどの相手と訓練するなど命がいくつあっても足りない。
できることならこのまま逃げ去りたかったがリヴァリアの無言の圧が足を動かせずにいた。

「無名君は是非とも受けたほうがいい。俺達はほら、足手まといになっても申し訳――」
「安心せよ。たかが一週間で劇的に変わることもあるまい。ただ邪龍を前にした時怯えずとも済むようになるだけだ」
カイトの言葉は途中で遮られ最後まで言わせてもらえなかった。

「では明日から始めるとしよう。今日のうちは身体を休めておけ。休養も大事だというだろう?特に人間は脆弱な生き物だからな」
その脆弱な生き物相手に訓練をつけてやると言っている龍王リヴァリア。
もはや何も言うまいと無名は無言で頷いた。


リヴァリアが先に屋敷へ帰ると訓練場を後にするとカイトとセニアは神妙な顔つきで唸りを上げる。

「どうしようか……正直一週間も龍の威圧を受ければ精神がもたないんじゃないかい?」
「トラウマになりそうです……」
「無名君は平気そうだからいいとしても俺達はただのレベル5だ。人外と一緒にされちゃあ困るね」
シレッと無名を人外扱いしているカイトだが、セニアもおもむろに頷く。
二人も十分強者の部類だが無名はそのまた上をいく。
リヴァリアはもっと高みにいるのだ。

「一応人間ですよ僕は」
「人間?本当かどうかも怪しく感じられるよ。だってさっきの龍の威圧、とんでもなかったよ?よく平気でいられるね」
「結界のおかげですよ」
「俺も結界を薄く張ってたんだけどなぁ」
カイトとセニアなら秒殺される。
それだけリヴァリアと力の差を感じられたのだ。
しかし無名ならば数分とまではいかずとも数十秒は戦えそうであった。

「はぁ……とにかく明日から頑張ろう。龍王様に訓練をつけてもらえるなんて普通できないからね」

それもそうだと半ば無理やり納得してその日は解散となった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...