彼に勇者は似合わない!

プリン伯爵

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第三章

第16話 長期戦

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無名により放たれた魔法の数はちょうど百。
流星が水平に飛んでいくようにも見えるそれは全て邪龍に向かって放たれた。

「おおっ!すげぇ!」
「いけぇぇぇ!」
「落とせぇぇ!」

迫力ある光景に兵士たちからの声援が飛んでくる。
獣王国の城すらも一撃で落とせそうなその威力にガンツも顔が引き攣っていた。

『オオォォォォォッッッ!』
無名による雨あられと降り注ぐ魔法の直撃を受けた邪龍は雄叫びをあげた。

「やったか!?」
ガンツが防壁上の柵から身を乗り出して邪龍を凝視する。

『人間如きがァァァァッ!』
低い唸り声と共に怨嗟の言葉を放つ邪龍は鱗がいくつも剥がれ血を流していた。
それでもまだ翼は折れていない。
飛び続けている邪龍の姿に無名も渋い表情だった。


「くそっ!威力が足らなかった……」
「次は俺達の番だ!弩砲用意!」
無名が悔しそうにしていると地上から号令が聞こえ、バリスタの照準を調整する兵士たちの姿が目に入った。

「撃てぇぇぇッ!」
二百からなるバリスタの一斉射撃。
風切り音が連続で聞こえてくると人間の腕より太い矢が邪龍に向かって飛んでいく。

『小賢しいぞ!!』
邪龍の口には赤い炎が見えた。
ブレスを吐くつもりなのだと、無名はその口目掛けて魔法を発動する。

疾き氷の弾丸アイスバレット!」
龍の唯一の弱点はブレスを吐く瞬間に相反する水属性の魔法をぶつけられると、ブレスの炎は相殺されてしまうことだ。

『ウグゥッ!』
綺麗に口の中へと飛び込んでいった氷の弾丸は邪龍のブレスを相殺し、消滅させた。
類まれなる魔法操作技術があってこその結果だ。

まさか距離が離れているこの状況で確実に口の中へ魔法を飛ばしてくるとは思っておらず、邪龍も少し目を見開いて驚いていた。

『ウグググゥゥゥッ……』
飛んで向かってくる無数の矢を消し飛ばしてやろうとしていたブレスは消えてしまい、地上から放たれたバリスタの矢は殆ど直撃していた。

二度に渡る高火力の攻撃を受け、弱っていた鱗ではバリスタの矢すら弾けず邪龍は痛みに悶える。


「効いてるぞ!次弾装填!撃てぇッ!」
雨が石を穿つように何度も同じ箇所に矢を受け続ければ流石に邪龍といえども激痛であった。

『劣等種どもがぁぁぁッ!ガァァァァッッ!』
龍の得意とする戦法――咆哮を耳にした者は竦み上がりその場から動けなくなる。

「グッ……これが、龍の咆哮……」
「う、動ける者は……撃ち続けろぉッ!」
ガンツも片膝を突いて苦しそうな表情だ。
当然ながら立っていられる者などいない。

「まだ落ちぬか……ならばこれで!」
リヴァリアの準備が整い、また無名と入れ替わりで前に出る。

「いい加減落ちよ!龍王の息吹ドラゴンブレス!」
今度は邪龍の身体、ではなく翼目掛けてブレスを吐いた。

咆哮により動けなくなっているのは無名とリヴァリア以外だ。
当然無名も反撃に移る。

轟く雷は天をも穿つスカイボルテックス!」
正面からはブレス、上空からは雷が降り注ぎ邪龍は防ぎようがなく、翼に穴が空いた。

『この糞どもがァァァッ!!』
真っ逆さまに落ちていく邪龍を眺めながら、無名は更に追撃をいれる。

白亜の雷槍ボルトランス!」
無名の追撃により邪龍は凄い勢いで地面へと叩きつけられた。
ここまでくれば次のフェーズに移る。

「行くぞ!俺達の出番だ!」
カイトが仲間を率いて一気に攻勢へと出た。
体躯は十メートルを軽く超える邪龍といえども、何十人、何百人からなる波状攻撃は無視できないダメージである。

『ゴミ虫がァァァ!』
色とりどりの魔法や矢が無数に邪龍へとぶち当たる。
その度に吠える邪龍は苛立ちを募らせていく。

「全員、攻撃やめ!」
カイトの号令で"静かなる裁き"の面々は一斉に手を止めた。
それと同じくして獣王国の兵士たちも手を止める。

度重なる攻撃により衰弱したであろう邪龍の様子を伺うため、一旦攻撃を中止したのだがそれは悪手であった。

『貴様ら……獣人に亜人に人間風情が……俺の鱗に傷をつけたな?万事に値するぞ虫けらがァァァッ!』
地面に叩きつけられ、その後も相当な数の矢を受け魔法を受けたはずにも関わらず多少血を流す程度で、邪龍の目が光った。

翼には穴が空き、空を飛べるような状態ではなかったが、立ち上がると十メートルを超える大きさで辺りに散らばる獣王国の兵士と冒険者たちを見下ろす。

その目は吊り上がっており、怒りを含んでいるのがよく分かる。

『それに貴様……何故人間の味方をする。昔からそうだ。いつも俺の邪魔ばかり……答えろリヴァリア!』
「そうは言われてもな。妾は妾のやりたいようにする。貴様もそうであろう?ギラドラス」
『古龍だからと調子に乗るなよ。邪龍こそが最強にして頂点だッ!』
「ふん。邪龍如きが何を言うか。貴様より白龍の方が強いではないか」
『黙れッッッ!俺の力は生者に苦痛を与えれば与えるほど増大する!さっき滅ぼしてきた国は存外悪くなかったぞ。そのお陰で見ろッ!もう既に鱗が修復されてきているッ!』
邪龍ギラドラスの身体は紫色のオーラが覆っており、徐々にだが無名や獣王国からの総攻撃で受けた傷が治ってきていた。

「チッ……面倒なやつめ。無名!さっきの魔法をもう一度やれ!」
「無茶を言わないでくださいリヴァリア様。あれは僕の中でも切り札です。そう何度も使えるものではありませんよ」
リヴァリアの無茶ぶりに無名は呆れた表情でため息をついた。
しかし悠長にしてはいられない。
邪龍ギラドラスの身体はこの間にも治ってきているのだ。

『そこの人間……勇者か?』
突然ギラドラスの目が無名を捉えた。
咄嗟に防御障壁を展開した無名だったが、それは最良の選択だったといえる。

『死ねッ!ゴミがッ!』
無名が答えるよりも速く、ギラドラスのブレスが無名を包み込む。
障壁がなければ瞬時に灰となっていたことだろう。

「むっ!ギラドラス!妾を忘れるでないぞ!」
『黙ってろ老いぼれがぁ!俺は一番勇者とかいう存在が大嫌いなんだよ!人間如きが人外の領域に踏み込んでくるんじゃねぇぇッッッ!』
再びブレスを吐くと今度はリヴァリアも同じくブレスを吐いた。

邪龍と古龍のブレスが交差すると力の差が歴然とする。

リヴァリアが少し押されていたのだ。
純粋な力比べではリヴァリアが劣っている。

「おい!邪龍ギラドラスとやら!俺を忘れんなよ!」
邪龍はブレスを吐きながら視線を声にする方へと向ける。

「獣王ガンツ・ヴォルフシュテン、推して参るぜ!」
ガンツの身体が誇大化し身長は三メートルを超え、鋭利な牙をギラつかせながら唸りを上げる。

ブレスを一旦止めると邪龍はガンツへと向き直った。

『今代の獣王か?それなりに力は蓄えているようだが、そこの勇者と比べりゃ雑魚にしか過ぎん』
「おいおい、俺を化け物と一緒にされちゃあ困るぜ?まあとりあえず食らってくれや!獣王爆絶爪牙ァッ!」
ガンツによる最高火力の一撃が邪龍の鱗を削り取る。

まだ完治していない状態で追撃を食らったせいで邪龍は痛みに悶えた。

『ググッ……クソがッ!』
尻尾を振り回しガンツはそれを紙一重で避けた。

「おっと!動きは鈍重だな!攻撃力だけは脅威だがその動きなら躱すのは容易いぜ!」
『愚かな……俺が遊んでやっているだけだと理解しろ!』
今度は極太のブレスを吐き、ガンツは急いでその場を離脱する。

邪龍のブレスはドス黒い炎だ。
当たれば肌は焦げ尽きぬことのない痛みに苛まれながら死んでいく。

当たれば、の話だが。

『ちょこまかと動きやがって!』
邪龍からしてみれば三メートルのガンツなど小さい者だ。
当然攻撃を当てるのが難しくなる。

「奴に回復させる時間を与えるな!俺達もやるぞ!」
ガンツが翻弄している間にカイトとセニアは魔法を放つ。

『貴様らァァァッ!!!この国ごと滅ぼしてくれるわァァァッ!』
いよいよ怒りが頂点に達した邪龍は咆哮し眼下で動き回る人間と獣王国の兵士たちに照準を合わせた。

『灰となれ!龍王の息吹ドラゴンブレス!』
リヴァリアをも超える威力のブレスは獣王国の兵士たちを飲み込んだ。
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