彼に勇者は似合わない!

プリン伯爵

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第三章

第18話 力の代償

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百もの魔法陣が回転を始め、膨大な魔力の波動を生み出す。
それは見ている者でも理解できるほど、凶悪な魔力を帯びていた。

「誰か止めるられる者は……いないか」
カイトが周りを見回してみても強烈な魔力に当てられて、みな足が竦んでいた。

「無名!それはマズイぞ!魔法を使えねぇ俺でも分かる!」
ガンツが叫ぶが無名の背後には徐々に魔法陣が浮かんでいく。

無名は邪龍の魔法を迎え撃つつもりだった。
正直もう限界が近い無名だったが、ここで弱音を吐けば邪龍はこの国を滅ぼす。
絶対にそれだけは避けなければならない。
たとえ、自分の寿命を削ったとしても。

「無名さん!引きなさい!それ以上は危険です!」
セニアの叫びも虚しく無名の魔法陣は徐々に増えていく。
聞こえてはいたが、その言葉に頷くわけにはいかなかった。

既に精神力、体力共に底をつき、いよいよ生命力まで魔力へと変換していた。

それだけしなければ対等に渡り合うことのできない龍王の力にゾッとするが、見ている側からすれば無名の方が化け物であった。

誰が見ても邪龍の魔力量は格が違う。
そんな邪龍と対等に渡り合うなど意味が分からない。
そんな表情で兵士たちは一人と一体の攻防を見守る。

「ギラドラス!もうよいだろう!貴様の力は理解した!負けを認めよう!」
『黙っていろリヴァリア!これは俺と勇者の戦いだ!口を挟むんじゃねぇ!』
「クッ……妾では奴を止められんか」

リヴァリアももう少しだけ力があればと歯を食いしばる。

『さぁ準備は整ったぞ勇者ッ!これを防げたのなら俺の負けだ!ああ、潔く負けを認めてやろう!』
「それが本当の全力……なんですね?」
『そうだ!百の上級魔法、その身に受けるがいい!』
無名はもうこれ以上魔力への変換を続けると意識が飛びそうになるのを堪え、全力で魔法陣へと魔力を流し込んだ。

『ど、どうなってやがる!?貴様の魔力量は人間じゃねぇ!俺と……俺と同等だと!?』
「同等?いえ、少し違いますよ。これが僕の全力です!」
遂に無名は百の上級魔法を展開してみせた。
これで邪龍と同等。
それでもまだ無名は魔力を流し込む。

「百一の魔法。これで貴方を超えましたよ」
『ば、馬鹿な……百一の上級魔法など聞いたことがねぇ!』
たった一つ。
されど一つ。
展開した魔法陣の数を上回られたギラドラスは驚愕よりも恐怖の感情が渦巻いていた。

『くそがァァァァッッッ!』
ギラドラスの魔法陣が光を放つと無名の魔法陣も光を帯びる。

同時に上級魔法を発動させると、空が割れた。

強大な魔力がぶつかり合い次元に裂け目ができるほどであった。

雨のように直線的に飛んでいく色とりどりの光線がぶつかっては消えていく。
威力は同等。

瞬きする度に消えていく光線が遂に終焉を迎えた。

『ウグゥアッッッ!』
最後の一つ、上級魔法がギラドラスの心臓を穿つ。
激しい痛みと共に血を吐き、ギラドラスはその場に蹲る。

数で上回った無名は当然無傷だった。

上から見下ろすその姿はまるで神が降り立ったかのようにも見える。

「僕の……勝ち、です」
『勇者……これほどの力を……どうやって手に入れ、やがった……』
「この世界に来てから……です」
『クックック……この俺が……這いつくばるなど、考えもしなかったぞ』
ギラドラスは満身創痍で、無名はまだ余裕がありそうな表情を浮かべていた。

『てめぇはまだ……戦えるってのか……?』
「貴方が……まだやるというのなら」
『チッ……』
ギラドラスも全ての力を出し切り、初級魔法一つ撃つことができなかった。
無名もまた、余裕そうな表情を浮かべてはいるが今にも意識を失いそうで限界ギリギリである。


『満身創痍は……お互い様、ってか?俺は……邪龍ギラドラス。この世に邪気をばら撒く者。てめぇは悪を討つ勇者。クックック……覚悟は決まったぜ』
ギラドラスの目がギラつき、雰囲気が変わった。
無名がその異変に気づいた時にはギラドラスが立ち上がり勢いよく自分へと飛び込んでくるのが目に入った。

『やはり満身創痍だなァッ勇者!ここで終わるのは俺だけじゃねぇ!貴様も道連れだァァァァッ!』
巨大な口を開け無名を飲み込まんと牙を無名へと突き立てる瞬間、何かに阻まれ激しい衝撃がギラドラスの顎に走る。

『ガァッ!?』
ギラドラスは何が起きたか分からず目を白黒させる。

「ふむ……何とか間に合ったようじゃのぅ。ほれ、我らが種族の本領発揮じゃぞ!気張れぃ!」
無名を守ったのは半透明の結界。
それを発動したのは大亀族族長であるゾロゥだった。

空に浮いている無名の真下には大亀族がワラワラと集まり、結界を展開していた。

「ゾロゥ来てくれたか!おせぇぞ!」
「すまんのガンツよ。儂らは足も遅けりゃ魔法の発動も遅いんじゃ」
ゾロゥは大亀族らしく鈍足である。
無名たちが戦闘を始めた頃には魔法の展開を始めていたが、ようやく今になって大結界が完成したのであった。

ゾロゥたちの得意とするのは最硬の結界魔法。
発動までに時間はかかるが一度展開してしまえば、ちょっとやそっとの攻撃ではヒビすら入らない強固な結界ができあがる。

「悪いがこの人間はやらせんぞ。命を懸けてまでこの国を守ろうとする英雄を儂らは絶対に死なせはせん!」
ゾロゥたちの結界が無名を完全に包み込むとギラドラスはようやく理解したのか、ゾロゥを睨みつけた。

『邪魔をするな亀ごときが!』
「その亀ごときに攻撃を防がれては威厳もクソもないのぉ」
『殺す……』
今度はギラドラスがゾロゥ目掛けて襲い掛かった。
しかし残念ながらゾロゥたちにも結界が施されており、またも鋭利な牙は半透明な壁に阻まれた。

『鬱陶しい!クソどもがッ!』
「ホッホッホ!破れるもんならやぶってみぃ龍よ」
ゾロゥの煽りがギラドラスを更に苛立たせる。
とはいえゾロゥの結界を破るには相応の火力が必要になる。
今のギラドラスには噛み付く程度が精一杯だった。

何度目かの噛みつき攻撃で結界が簡単に破れないことが分かると、ギラドラスは最後の手段に出た。

「おい、ゾロゥとやら!結界を強めよ!」
「なに?リヴァリア殿、儂らの結界はビクともしておりませんぞ?」
「違う!我々龍王には奥の手があるのだ!奴はそれを使うつもりだぞ!」
龍王の奥の手――それはつまり自身の死を代償にして莫大な魔力を一時的に得る諸刃の剣。
邪龍ギラドラスの身体にドス黒いオーラが立ち込める。

「ムッ!あれは……いかんな。者共、結界を更に強化せよ!あれは流石に防ぎきれん!」
邪龍の魔力が急激に上昇したことを確認したゾロゥは同族たちに警告を発する。

半透明の結界は徐々に白く濁っていき、外がギリギリ見えるか否かというほどまで分厚くなっていく。

「これが今できる最硬の結界じゃ!なんとかもってくれぃ」
ゾロゥが小さく呟くと、ギラドラスが吠えた。

『オオオオオォォォッッ!』
全盛期と同じ、強大な魔力を身に纏い結界に覆われている無名に全神経を集中させていく。
一時的とは莫大な魔力を得たギラドラスの口元がニィと薄く開いた。

『貴様らもろとも消し飛ばしてくれるわッッ!』
「全員ゾロゥ殿の結界に魔力を送りこめ!少しでも結界の強度を高めるんだ!」
カイトが仲間に呼びかけ、数十人の冒険者が結界へと魔力を流し込む。

龍王の息吹ドラゴンブレスですら結界にヒビも入れられないほどに硬く頑丈な結界へと強化されるが、それでもギラドラスの笑みは崩れなかった。

『貴様らがどれだけ努力しようと……俺の前では全てが無意味。全盛期の力を一時的とはいえ取り戻した俺がその程度の結界を破れねぇ訳がねぇだろうが!』

ギラドラスがのけ反り、口腔内に魔法陣を出現させる。

破滅の一撃ギガブレス!』

強烈な光が無名の視界を奪った。
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