彼に勇者は似合わない!

プリン伯爵

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第一章

第17話 平和の終わり

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無名達がこの世界に召喚されて5ヶ月が経った。
ずっと平和だと思われた王国は突如として瓦解した。

――リンネ教の反乱。

突如各地で猛威を振るいだしたリンネ教は、国を滅ぼす勢いで暴れ回った。
不意を突かれた王国側は甚大な被害を被り、騎士団のおよそ3割が死んだ。
アルトバイゼン王は立ち上がり、リンネ教を撲滅する為各地へと騎士団や魔法師団を派遣した。

当然冒険者ギルドにも王から依頼が入った。
レベル3以上の冒険者は全て駆り出す程の王命依頼。
リンネ教を撲滅するにはそのくらいしなければ、難しいと考えた結果であった。


「おいおい、突然だなリンネ教とやらは」
黒峰達勇者は王城で話を聞いた。
誰もが顔を顰め険しい表情を作る。

死者は千人以上にものぼり、建国以来の非常事態であった。

「リンネ教ってほんと意味分からない宗教じゃん!」
茜も怒りを露わにし、拳を握り締める。
何の罪もない王国民が無惨に殺されていくのは聞いているだけでも腹が立ったのだ。

「俺達の出番だ。そうですよね、ランスロットさん」
勇者に現状を伝えたランスロットは黒峰の言葉に首を振った。

「駄目だ。君達はまだここで戦う必要はない」
「で、でも!」
「君達は魔国を打ち倒す為召喚されたのだ。万が一にもこの程度の相手に傷でも負うような事があれば目も当てられない」
ランスロットとしては勇者達を動かすつもりはなかった。
既に彼らは一流と言えるだけの実力を兼ね備えている。
しかしリンネ教は女子供関係なく殺害している。
人の生死を目の当たりにすれば、平和な世界から来た彼らの精神が病んでしまうかもしれないとランスロットは危惧していた。

それにまだ勇者達は黒峰以外人を殺していない。
魔国を相手にするのであれば敵は魔族だが、リンネ教と敵対する場合は敵は全て人間。
まだ成人すらしていない勇者もおり、そんな彼らを人殺しに慣れさせたくはなかった。

「ランスロットさん、今動かないと被害は大きくなります。俺はもう騎士団の方とも互角、いえそれ以上に戦えます」
黒峰は剣帝の勇者としての実力を開花させていた。
彼ならば確かに万が一はないかもしれない。
しかしランスロットは渋い表情だった。
ランスロットは知っている。
リンネ教の中にも幹部クラスともなればレベル5の冒険者と同等の力を持つという事を。

いくら黒峰の実力が騎士を上回る程でも、レベル5の冒険者は伊達ではない。
それに黒峰にはあまりにも実戦経験が少なすぎるのだ。

この世界に来てたった5ヶ月。
それだけの経験しか積めておらず、何年も実戦を経験してきたリンネ教と矛を交わすのは無理があった。

「そうだ!オレだってガイラさんにあれだけ手ほどきを受けたんだ!だからリンネ教とかいうクソッタレを倒せる!」
「アタシももう自由自在に空を飛び回れるし!ランスロットさん!お願いします!」
茜と大輝の目は真剣だった。
彼らの気持ちは痛いほど分かる。
罪なき民が無為に死んでいくのをただ見ているだけなのは耐えられないのだろう。

「ランスロットさん、私が皆を守ります。どうかお願いします!」
一番の常識人ともいえる莉奈もランスロットへと頭を下げた。

「……分かった。ただし、私の指示には必ず従ってもらう。私が退却を命じた場合は即座に下がってもらうぞ」
「ありがとうございます!!」
ランスロットは渋々ながら彼らの同行を許す事にした。
一番危惧しているのは彼らをおびき出す為に暴れているのではないかという事だ。
可能性としては高い。
リンネ教が何を考えて各地で暴れ始めたのかは分からないが、魔神を信仰する彼らにとって勇者は邪魔な存在であるはず。
ゆえに勇者を亡き者にしようと画策している可能性があったのだ。

出来れば安全な王城に籠もっていて欲しかったが、これだけ必死に頼み込んでくる彼らを無下にはできなかった。


ランスロットは4人の勇者と共に馬車へ乗り込んだ。
一番被害が大きいのは神殿付近。
既に多数の犠牲者が出ており、騎士団が神殿を中心とした陣を敷いている程である。
近くの住民は避難しているが、逃げ遅れた者も少なくない。

「全員、敵はリンネ教の者達だ。命のやり取りになる、殺さず生け捕りなどという甘えた考えは捨てるといい」
「はい、重々承知しています」
馬車の中は空気が張り詰めていた。
これから行われるのは明確な殺人。
日本で過ごしてきた彼らにとってソレは重くのしかかっていた。

「それと無茶な行動は厳禁だ。いくら他の騎士や兵士が殺されそうになっていたとしても私が撤退と叫べば何よりも優先してもらう。それが出来ないというのならここで待っていてもらおう」
「大丈夫です。ランスロットさんの命令には必ず従います。みんな、頼むぞ。特に大輝。勝手な行動はしないでくれよ?」
「だ、大丈夫っすよ!オレだってそれくらい弁えてるっす!」
ランスロットも黒峰と同じ意見だった。
唯一大輝だけは考えるより先に体が動くタイプであり、命令違反があるとすれば彼だけだった。

ガイラによる厳しい訓練で大輝もそれなりに戦える実力を身に着けはしたが、所詮は付け焼き刃。
手練れが多いリンネ教を相手取るには厳しいだろう。



馬車を降りた一行が目にしたのは、窓ガラスは割られ女神像などは根元から折られている光景であった。
辺りには血の臭いが充満しており、欠けた剣や半ばで折れた槍が落ちている。
激戦だったであろう事はすぐに分かった。

「酷い……」
茜が口元を押さえ呟く。
黒峰も目を覆いたくなる光景に苛立ちが募る。

「こんな事をする理由が分からない……。リンネ教ってのは殺人集団なのか?」
黒峰の疑問は最もであった。
しかしランスロットもそれには答えられない。
実際のところリンネ教の目的など、敵に聞かない限り分からなかった。

「騎士団長!」
ランスロット達が神殿へと近付くと怪我人の介抱をしていた一人の騎士が走り寄ってきた。
鎧は他の騎士に比べ少し豪華な装飾がされており、隊長格である事を示していた。

「トロンか。状況は?」
「ハッ!被害は騎士団と魔法師団合わせて20人が負傷。5名が亡くなりました。民間人への被害は現在確認中です」
トロンと呼ばれた現場指揮官はツラツラと状況を説明していく。
そこに感情が乗っていないかと問われると否だが、ハキハキと聞き取りやすい声量で伝えてくれた。

「リンネ教の方はどうなった」
「3名を殺害しましたが、残りの数名は現在逃走中です。ただ腑に落ちないのは奴らが簡単に身を引いた事です」
「どういう意味だ?」
「いえ、リンネ教の奴らは全部で20人近い数がいたにも関わらずある程度交戦するとすぐに逃げて行ったのです」
トロンは不思議そうに首を傾げた。
20人もの戦力があればもっと大きな被害を出せていただろう。
しかしそうはせず、逃げたとトロンは言う。
腑に落ちない状況にランスロットも眉を顰めた。

「ん?そちらの方々はもしや……」
トロンは黒峰達に視線を向けるとランスロットに問い掛けた。

「ああ、紹介しておこう。彼らは今代の勇者だ。私としてはあまり気が進まなかったがどうしても現状を知りたいと言うので連れてきた」
「なるほど……私は最上級騎士トロンと申します。主に現場の指揮を担当しておりますので今後顔を合わせる機会が多いかと思われます」
トロンと名乗った騎士は黒峰達に綺麗な一礼をする。
肩書きからして相当上の位である事は理解できた黒峰も足を揃え見様見真似で一礼をした。

「剣帝の勇者、黒峰と申します。沢山の方が亡くなったと聞きました。お悔やみ申し上げます」
「空の勇者、茜です!よろしくお願いします!」
「最優の勇者、朝日莉奈です。よろしくお願いいたします」
「爆炎の勇者、大輝っす!よろしくお願いしまっす!」
個性の強い一礼にトロンは苦笑する。



――挨拶もそこそこに、突如神殿の壁が崩れた。
ランスロットの目に入ったのは、遠くから射られた火矢であった。
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