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第二章
第11話 喪失感と真実
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レイオールを土に埋め、ログハウスに戻ってきた無名は喪失感で何もやる気が起きなかった。
この世界にきて初めて同じ境遇である友人ができたと思った途端に失ってしまった悲しみは何とも言い難い気分であった。
味方の軍ごと魔物を葬り去った時、騎士達はこんな気分だったのだろうかと陰鬱な気持ちで窓の外を眺める。
カイルが間に合わなければ自分も死んでいたと思うと、後少し早く来てくれていればレイオールも死ななかったのではないか、そんな感情が渦巻いていた。
他者を頼った結果がこれ。
やはり信じられるのは自分のみなのではないかとまで思うようになってきていた。
陰鬱とした気持ちでボーっと窓の外を眺めていると、人の気配を感じ無名は椅子から立ち上がる。
ソッと玄関から外を覗くとエルフが数人武器を手に持ちウロウロしているのが見えた。
その中に見覚えのある女性が見え無名はログハウスの外へと出た。
「む?お前は……」
すぐに気付いたのか女性が近付いてくる。
「マリアさんこんなところで何をしてるんですか?」
「お前こそなぜこんな辺鄙な場所に……いや、それよりもこの辺りで邪悪な魔力を感じたのだ。何か知らんか?」
昨日の事を言っているのだろうと察し、無名は事の顛末を語った。
黙って聞いていたマリアだったが、レイオールが死んだ事を伝えると一瞬悲しそうな顔を見せた。
「レイオールが死んだのか……」
「良き友人でした」
「友人、か。アイツに友と呼べる奴がいたとはな」
マリアの話によるとレイオールはエルフの集落でも指折りの魔法使いだったそうだ。
欠点があるとすれば魔力量が大きすぎてコントロールができないところであった。
「しかしレイオールが死ぬなど考えられんな。実力こそ私に劣るが魔力量だけなら同格だった。それ程までに強力な魔族だったのだな」
「ええ、あれは僕も死んだと思いました」
「そこにカイルが助けに来た、というわけか」
マリアは腕を組み少し考える素振りを見せると口を開いた。
「そのカイルはどこにいる」
「分かりません。何処かへと去って行ったのですが戻ってきてはいませんね」
「ふむ……ロイ!カイルの行方を探れ」
「ハッ!」
ロイと呼ばれたエルフが元気よく返事をすると弓を担いで木々に登ると枝を足場にして身軽にその場から姿を消した。
「カイルさんを探すんですか?」
「ああ。お前は言ったな?魔族は伯爵級を名乗っていたと」
それがどうしたのかと無名が首を傾げるがマリアはそのまま話を続ける。
「カイルの強さは理解している。しかし相手は伯爵級だぞ?無事で済むはずがない。もしも無傷であるのなら談合の可能性がある」
「待って下さい、カイルさんは僕とレイオールを助けてくれました」
「それが事前に打ち合わせていた内容だったとしたら?」
考えたくない想像に無名は目を逸らす。
しかしマリアの話は終わらない。
「カイルがいくら強かろうが伯爵級魔族ともなればその力は絶大だ。レベル7の冒険者であっても多少負傷していなくては信じられん」
「でもそれだけの強さをカイルさんから感じました」
「勇者のヒヨッコ如きが奴の全貌を知った気になるなよ。奴の過去を知らんからそんな事が言えるのだ」
マリアの言う過去というのが良く分からず不思議そうな顔をする無名。
そんな彼にマリアは真実を告げる。
「カイルは過去に禁忌の魔法に手を出した。死んだ妻を生き返らせる為にな」
「禁忌の魔法……師匠からも聞いたことがありますがそれがどれほど不味い行為なのか分かっていません」
「禁忌の魔法に触れた者は心を壊す。結局妻を生き返らせる事は出来ず片腕を失った。だが奴はまだ諦めてはいない。現にここエルフの森を拠点にしているのが証拠だ」
「証拠というのは?」
エルフの森を拠点にしているのが、どう証拠に繋がるのか気になった無名は更に質問を投げかけた。
「エルフの身体は人間に比べて圧倒的に魔力量が多い。つまり、禁忌の魔法の代償にするには丁度いい生贄ということだ」
「そんなバカな……あの人がそんな事をするはずがありません!」
語尾が強くなる無名だったが、マリアは冷静に話を続けた。
「カイルは既に禁忌の魔法を二度も行使している。一度目は蘇生。そして二度目は不死の命だ。奴の年齢を聞いていないのか?」
「錬金術でそれなりの寿命を得ているだろうというのは分かっていましたが……」
「奴の年齢は長老に匹敵する。お前にも分かるように教えてやろう。カイルの年齢は千歳を超えていると言うことだ」
どこからどう見ても四十代のカイルが千年も生きていると聞き無名の目は見開かれた。
逆にそこまで長生きする事に拘る理由が分からなかった。
「ふん、そんなもの決まっている。長い年月をかけてでも死んだ妻を生き返らせたいのだろう。出来る限り奴には近づかないよう他のエルフには伝えていたのだがお前には言っていなかったな。奴はそういう男だ。永遠の命を得てでも蘇らせたいというわけだ」
「ですが……僕に命の重みを知れと言ってくれました」
「まあ確かに経験からくる言葉だろうさ。実際に身近な者を亡くしているのだからな。だが奴の言葉を全て鵜呑みにはするな。奴は手段の為ならなんだってやる男だという事を今一度覚えておけ」
カイルは尊敬できる師だと思っていた無名はもう何を信じていいか分からず頭を抱えた。
マリアの言葉を信じるのならレイオールを見殺しにしたのも自分に命の重みを理解させる為だったのではないかと信憑性が出てきてしまった。
「僕はどうすれば……」
「奴から技術だけを盗め。間違ってもカイルを師と仰ぐような真似はするなよ」
マリアはそれ以上語らずその場から去ろうと踵を返す。
「おっと、言い忘れていた。エルフの森に火を放ったのはお前ではないな?」
「もちろん違いますよ!僕がそんな事をすると?」
「いや……集落では最近来たばかりのお前が怪しまれているからな。ただ魔力の質が邪悪に染まっていないしそれはないと私が否定しておいた」
「ありがとうございます」
「とにかく、レイオールの死がお前にどう作用するかは知らんが邪道に走るような真似はせんでくれ。もし堕ちるのであれば……私自ら引導を渡してやる」
マリアの目は真剣そのものだった。
マリア達が去った後無名はログハウスに戻りソファに腰掛け天井を見上げた。
フランと違い近接戦闘の師になってくれると思っていた人物が想像を遥かに超える壊れた人間だったのだ。
次に顔を合わせるのが気まずく思い何とも言えない表情で溜め息をつく。
ただ一人を蘇らせる為だけに永遠の命を得て、片腕も無くしている。
闇が深いといえばそれまでだが、無名はカイルの願いを叶えてやりたいとそう思えてきた。
守るべきものがない無名には到底考えられない願いだ。
ただ、レイオールには死んでほしくなかった。
もしもカイルの掌の上で転がされた結果だというのなら……と無名は拳を握り締める。
命の重みを学ぶと共に殺意も芽生えた無名は、今日の夜が来るまでソファの上で過ごした。
――迎えた一回目の指南。
無名は湖のほとりに立ち目を閉じてカイルが来るのをジッと待つ。
やがて足音が聞こえいつもと変わらぬ抑揚でカイルの声が耳に入る。
「やあ、待たせたかな?」
「……いえ、先ほど来たばかりです」
目を開けると朗らかに微笑むカイルの姿があった。
言わないでおくべきか直前まで悩んだが、意を決し無名は彼へと問い掛ける。
「カイルさん、どうしてレイオールを見殺しにしたんですか?」
この世界にきて初めて同じ境遇である友人ができたと思った途端に失ってしまった悲しみは何とも言い難い気分であった。
味方の軍ごと魔物を葬り去った時、騎士達はこんな気分だったのだろうかと陰鬱な気持ちで窓の外を眺める。
カイルが間に合わなければ自分も死んでいたと思うと、後少し早く来てくれていればレイオールも死ななかったのではないか、そんな感情が渦巻いていた。
他者を頼った結果がこれ。
やはり信じられるのは自分のみなのではないかとまで思うようになってきていた。
陰鬱とした気持ちでボーっと窓の外を眺めていると、人の気配を感じ無名は椅子から立ち上がる。
ソッと玄関から外を覗くとエルフが数人武器を手に持ちウロウロしているのが見えた。
その中に見覚えのある女性が見え無名はログハウスの外へと出た。
「む?お前は……」
すぐに気付いたのか女性が近付いてくる。
「マリアさんこんなところで何をしてるんですか?」
「お前こそなぜこんな辺鄙な場所に……いや、それよりもこの辺りで邪悪な魔力を感じたのだ。何か知らんか?」
昨日の事を言っているのだろうと察し、無名は事の顛末を語った。
黙って聞いていたマリアだったが、レイオールが死んだ事を伝えると一瞬悲しそうな顔を見せた。
「レイオールが死んだのか……」
「良き友人でした」
「友人、か。アイツに友と呼べる奴がいたとはな」
マリアの話によるとレイオールはエルフの集落でも指折りの魔法使いだったそうだ。
欠点があるとすれば魔力量が大きすぎてコントロールができないところであった。
「しかしレイオールが死ぬなど考えられんな。実力こそ私に劣るが魔力量だけなら同格だった。それ程までに強力な魔族だったのだな」
「ええ、あれは僕も死んだと思いました」
「そこにカイルが助けに来た、というわけか」
マリアは腕を組み少し考える素振りを見せると口を開いた。
「そのカイルはどこにいる」
「分かりません。何処かへと去って行ったのですが戻ってきてはいませんね」
「ふむ……ロイ!カイルの行方を探れ」
「ハッ!」
ロイと呼ばれたエルフが元気よく返事をすると弓を担いで木々に登ると枝を足場にして身軽にその場から姿を消した。
「カイルさんを探すんですか?」
「ああ。お前は言ったな?魔族は伯爵級を名乗っていたと」
それがどうしたのかと無名が首を傾げるがマリアはそのまま話を続ける。
「カイルの強さは理解している。しかし相手は伯爵級だぞ?無事で済むはずがない。もしも無傷であるのなら談合の可能性がある」
「待って下さい、カイルさんは僕とレイオールを助けてくれました」
「それが事前に打ち合わせていた内容だったとしたら?」
考えたくない想像に無名は目を逸らす。
しかしマリアの話は終わらない。
「カイルがいくら強かろうが伯爵級魔族ともなればその力は絶大だ。レベル7の冒険者であっても多少負傷していなくては信じられん」
「でもそれだけの強さをカイルさんから感じました」
「勇者のヒヨッコ如きが奴の全貌を知った気になるなよ。奴の過去を知らんからそんな事が言えるのだ」
マリアの言う過去というのが良く分からず不思議そうな顔をする無名。
そんな彼にマリアは真実を告げる。
「カイルは過去に禁忌の魔法に手を出した。死んだ妻を生き返らせる為にな」
「禁忌の魔法……師匠からも聞いたことがありますがそれがどれほど不味い行為なのか分かっていません」
「禁忌の魔法に触れた者は心を壊す。結局妻を生き返らせる事は出来ず片腕を失った。だが奴はまだ諦めてはいない。現にここエルフの森を拠点にしているのが証拠だ」
「証拠というのは?」
エルフの森を拠点にしているのが、どう証拠に繋がるのか気になった無名は更に質問を投げかけた。
「エルフの身体は人間に比べて圧倒的に魔力量が多い。つまり、禁忌の魔法の代償にするには丁度いい生贄ということだ」
「そんなバカな……あの人がそんな事をするはずがありません!」
語尾が強くなる無名だったが、マリアは冷静に話を続けた。
「カイルは既に禁忌の魔法を二度も行使している。一度目は蘇生。そして二度目は不死の命だ。奴の年齢を聞いていないのか?」
「錬金術でそれなりの寿命を得ているだろうというのは分かっていましたが……」
「奴の年齢は長老に匹敵する。お前にも分かるように教えてやろう。カイルの年齢は千歳を超えていると言うことだ」
どこからどう見ても四十代のカイルが千年も生きていると聞き無名の目は見開かれた。
逆にそこまで長生きする事に拘る理由が分からなかった。
「ふん、そんなもの決まっている。長い年月をかけてでも死んだ妻を生き返らせたいのだろう。出来る限り奴には近づかないよう他のエルフには伝えていたのだがお前には言っていなかったな。奴はそういう男だ。永遠の命を得てでも蘇らせたいというわけだ」
「ですが……僕に命の重みを知れと言ってくれました」
「まあ確かに経験からくる言葉だろうさ。実際に身近な者を亡くしているのだからな。だが奴の言葉を全て鵜呑みにはするな。奴は手段の為ならなんだってやる男だという事を今一度覚えておけ」
カイルは尊敬できる師だと思っていた無名はもう何を信じていいか分からず頭を抱えた。
マリアの言葉を信じるのならレイオールを見殺しにしたのも自分に命の重みを理解させる為だったのではないかと信憑性が出てきてしまった。
「僕はどうすれば……」
「奴から技術だけを盗め。間違ってもカイルを師と仰ぐような真似はするなよ」
マリアはそれ以上語らずその場から去ろうと踵を返す。
「おっと、言い忘れていた。エルフの森に火を放ったのはお前ではないな?」
「もちろん違いますよ!僕がそんな事をすると?」
「いや……集落では最近来たばかりのお前が怪しまれているからな。ただ魔力の質が邪悪に染まっていないしそれはないと私が否定しておいた」
「ありがとうございます」
「とにかく、レイオールの死がお前にどう作用するかは知らんが邪道に走るような真似はせんでくれ。もし堕ちるのであれば……私自ら引導を渡してやる」
マリアの目は真剣そのものだった。
マリア達が去った後無名はログハウスに戻りソファに腰掛け天井を見上げた。
フランと違い近接戦闘の師になってくれると思っていた人物が想像を遥かに超える壊れた人間だったのだ。
次に顔を合わせるのが気まずく思い何とも言えない表情で溜め息をつく。
ただ一人を蘇らせる為だけに永遠の命を得て、片腕も無くしている。
闇が深いといえばそれまでだが、無名はカイルの願いを叶えてやりたいとそう思えてきた。
守るべきものがない無名には到底考えられない願いだ。
ただ、レイオールには死んでほしくなかった。
もしもカイルの掌の上で転がされた結果だというのなら……と無名は拳を握り締める。
命の重みを学ぶと共に殺意も芽生えた無名は、今日の夜が来るまでソファの上で過ごした。
――迎えた一回目の指南。
無名は湖のほとりに立ち目を閉じてカイルが来るのをジッと待つ。
やがて足音が聞こえいつもと変わらぬ抑揚でカイルの声が耳に入る。
「やあ、待たせたかな?」
「……いえ、先ほど来たばかりです」
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