彼に勇者は似合わない!

プリン伯爵

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第二章

第20話 二つの場所で

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「目を狙う!」
レインが叫び矢を番える。
矢じりが光を帯び、一直線に放たれた。

「動きを封じます!泥沼の汚濁スローアクション!」
アウルベアの足元がぬかるむと動きを止める。
そこにレインの矢が直撃すると痛みからかアウルベアは暴れ狂った。

ガァァァッッッ!

アウルベアは激しく暴れ周辺の木々がなぎ倒されていく。
余波に当たるだけでも大怪我で済まない威力に無名は息を飲んだ。

「チッ……俺の矢では大したダメージにはなっていないな」
レインが呟く通り、アウルベアは少し掠り傷を負った程度だった。
巨体である故に矢程度の攻撃では致命傷は作れないと判断し、レインは弓を背負い剣を構える。

「二方向から同時に攻撃する。やれるか無名」
「もちろんです」
お互い目線で合図を送りながら定位置へとつくと、アウルベアの隙を伺う。
アウルベアは視界の端と端に移動した餌を見て唸りを上げた。

ウウウウゥ

どちらに攻撃しようか迷いが出たタイミングで、無名とレインが同時に駆けた。

刃の旋風タイフーンエッジ!」
空間を裂く一閃ギガスラッシュ!」
二人の斬撃がアウルベアを襲う。
それと同時にアウルベアは前脚を大きく上げると全体重を乗せた反撃に出た。

「グアッ!」
「クッ――」
斬撃はアウルベアから放たれた攻撃の余波によってかき消され、そのまま無名とレインも吹き飛ばした。

アウルベアは吹き飛んだ無名に狙いをつけたのか、駆け出し突進を繰り出す。
反撃に出る無名だが、一番得意とする雷魔法は使えない。
こんな森の中で大規模な雷魔法を使えば、火が燃え広がる事が明白であるからだ。
そこで選んだ魔法は地属性。
大質量による攻撃ならば効くだろうと判断した無名は魔法名を口にする。

落ちる隕石は破滅を呼ぶメテオストライク!」
無名の頭上に浮かび上がる巨大な魔法陣から凄まじい速さで隕石が飛び出す。

突進を始めたアウルベアもそれに気づいたが、今更止まることなどできず目を見開きながら無名へと迫る。

高速で迫りくるアウルベアと隕石がぶつかると轟音と共に周囲を吹き飛ばす勢いで破砕した岩石の破片が辺りへと散らばっていく。

その一つ一つが弾丸並みの速度で無名とレインにも降り注いだ。

「レイン!木の陰に!」
「分かっている!」
言われなくても、とレインはすぐに大きな木の陰へと避難していた。
しかし反撃した無名は無防備に破片をその身で受けた。

「クソッ!自分で放った魔法で怪我するなんて……まだまだ未熟ってことか」
小さく呟く無名の身体は石の破片が掠り、服は裂け所々に血が滲んでいた。

グ……グァァァ……
掠れたアウルベアの声がその威力を物語っていた。
大質量の隕石と高速で動く大きな物体がぶつかれば、どれ程の威力になるか。

アウルベアの一本角は砕け頭部も一部抉れていた。
身体全体にも余波を受けたようで、アウルベアの身体は血にまみれていた。


「後は俺に任せておけ」
レインがアウルベアの背後に回り込み、飛び上がると剣先を首元へと向けた。

風刃斬撃エアリアルストライク
風の刃を纏ったレインが目にも止まらぬ速度でアウルベアの首元を剣で貫いた。

オオオオオオォォォォッッ!

アウルベアは断末魔を上げ、そのまま地面へと倒れ込んだ。
巨体が倒れる様は圧巻の一言に尽きる。
地面が少し揺れる程の衝撃が無名の足元にも伝わった。


「死んだようですね」
「ふぅ……お前がいてくれて助かった」
これだけの力を持つ魔物をレイン一人では倒しきれなかった。
無名がいたからこそほぼ無傷で討伐できたと言える。

「なんだあの魔法は。普通の上級魔法なんかより遥かに威力が大きかったぞ」
「まあ、ありったけの魔力を込めましたから」
無名が魔力を波々注いだせいで地属性上級魔法は破格の威力を蓄えていた。
その威力は頑丈な皮に守られる巨体のアウルベアを半殺しにするほど。

ここに他の勇者がいれば、対艦ミサイルでも撃ち込んだのかと呟いていたかもしれない。


「倒せたから良かったものの……こんな化け物が本隊を襲い掛かれば」
「想像したくはありませんね」
しかし、悪い事というのは続くものだ。
彼らが小さな悲鳴を聞いたのはその後すぐであった。


――――――
近付いてくる脅威を払う為レインと無名が残った後、他のエルフ達は歩みを止めず目的地へと急いでいた。

途中咆哮が聞こえてくると子供達は肩を震わせながら、身を寄せ合う。
大人でも恐ろしく感じる咆哮であり、マリアと長老は眉を顰めた。

「何が起きているのだこの森で」
「分からん……ただ、無名殿とレインの無事を祈るしかあるまい」
「仕方ない、彼らが無事に戻る事を祈り全員新たな地へと急ぐぞ」
今更助けに戻った所であまり意味はないだろう。
そう判断しマリアは前進を提案した。
どちらにせよマリアが本隊から離れれば守りは手薄となる。
長老がいるとはいえ、多勢に無勢となると一人では全員を守りきれない。


「ん?少し待って下さい。何か様子が変です」
ロイが足を止め周囲を警戒する。
マリアも彼の言葉に足を止め索敵に集中し始めた。

ロイは戦闘能力こそあまり高くはないが、索敵能力だけはエルフでもトップクラス。
だからこそ彼の態度で何らかの異常があるのだと、他のエルフ達も顔を強張らせた。


「何かが近付いてきています」
「方向は?」
「こちらです」
ロイが指差す方向はこれから向かおうとする目的地がある方であった。
可能性として一番高いのは仲間のエルフが迎えに来てくれている事だが、それであればロイの反応はおかしい。

ロイは仲間の魔力が判別できない程愚かではない。
険しい表情でジッと見つめるロイのこめかみに一筋の汗が流れ落ちた。

「魔物……いえ、魔族です!」
「本当かロイ!」
「はい!この魔力は……魔物ではありません!」
マリアは歯軋りをして長老へと目を向けた。
長老も杖を構えて魔族との遭遇に備えていた。

魔族が相手となるとエルフ総出で戦わなければならない。
子供達には馬車から顔を出さない伝え、男のエルフは剣と弓を、女のエルフは杖を片手に戦闘態勢をとった。

「ミンフ、お前も馬車に入っておけ!」
「は、はいぃぃぃ!」
ミンフはこの中で唯一の医者である。
彼女が大怪我を負えば誰も救えないのだ。
長老にしてみればこの中で最優先で守らなければならないのはミンフだった。

「陣形を崩すな!おおとりの陣を敷け!」
マリアの合図にエルフ達は一斉に武器を構え定位置へとつく。

後はロイの反応次第だが、少しずつ彼の顔色が悪くなっていった。

「どうしたロイ。それほど不味い相手が来ているのか?」
「……はい。恐らく爵位級です。それも高位の」
「クソッ……無名とレインが戻るまで何としても時間を稼ぐ」
レベル6のマリアでも高位魔族と戦えば無事ではすまない。
それどころか他のエルフを守りながらなど、かなり厳しい戦いを強いられる。


エルフ達が今か今かと待っていた時、草木をかき分けて遂にその姿を見せたのは、醜悪なキメラだった。

「なんだあれ」
「気持ち悪い!」
「ば、化け物ぉ!」
エルフ達は口々に罵り嫌そうな表情を浮かべる。
キメラの姿は複数体の魔族を掛け合わせ、そこにゴブリンなどの魔物を混ぜたような、まるで地獄からやって来た悪魔のような姿だった。

「総員警戒!魔力量は……伯爵級に匹敵するぞ!」
マリアが即座に矢を番えキメラの身体を射抜いた。

ギィ……

動物を縊り殺した時に出るような声。
全身が総毛立ち、エルフ達は後ずさる。

「なんなんだあれは。私にも分からん化け物だ」
長老は興味深そうに見つめるが、どれだけ記憶を辿ってもその姿を見た覚えはなかった。

「何でも良い。全力で排除するだけだ。光芒一閃の矢ビームアロー
無名の結界を突破したマリアの得意魔法が放たれると、キメラは微動だにせずその身体へと吸い込まれるように矢は貫通する。

しかし、キメラには大したダメージは入っていないのか首らしき頭部を傾けてギチギチと歯軋り音を立てた。

「矢が効かないだと?伯爵級かと思っていたが……これは厄介な相手かもしれん」
マリアが忌々しそうに呟くと、キメラは大口を開けて笑った。
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