彼に勇者は似合わない!

プリン伯爵

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第二章

第41話 王都防衛戦③

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王女が連れ去られ呆然と立ち竦む国王を守るようにして近衛兵が取り囲んだ。
ランスロットは未だに目を覚ましておらず、医療班が手当てを行っていた。

「この数は……抑えきれない!」
黒峰も限界だった。
他の騎士達も連戦に次ぐ連戦で疲労はピークに達していた。

「手を貸そうかい?」
そんな彼らにフードを被った男が声を掛けた。
横には茜もおり、どうやら味方のような雰囲気だった。

「君が誰かは分からないが手を貸してくれるとありがたい」
「いいよ。じゃあ今の間に休んでおきなよ。あの魔物は僕が相手をしよう」
男はそう言うと背中から二本の剣を取りだす。
立ち振る舞いが強者のそれであった。

黒峰は不信感を覚えたが、今は猫の手も借りたいほど。
素性の分からない者を仲間に引き入れるには抵抗があったが、今はやむなしと仕方なく彼に頼むことにした。

「じゃあ蹂躙の始まりだ!」
男は双剣を巧みに操り迫りくる魔物を斬って伏せた。
まるで剣舞のような動きで次々と魔物を屠っていく。

「茜ちゃん、あれは一体誰なんだ?」
「分かんないんです。ただ、アタシもあの人に助けられて」
黒峰は既に王国で一年近く生活をしているが、あのような男は見たことがない。
あれほどの実力を持つ者ならば多少は聞いたことくらいあってもいいが、それすらなかった。


「誰だあいつ?」
「勇者様じゃないのか?」
「ああ、あの万能の勇者か?いや、あんな武器を持っていたのは見たことがないぞ」
兵士は口々に謎の人物が誰なのか興味津々といった様子で声にする。


「不味い!高位魔族が来るぞ!に、二体来る!」
誰かの声が木霊するとその場に緊張感が走る。

高位魔族と戦える者は少なく、ランスロットは意識を失ったまま。
黒峰ら勇者も限界が近い。
フリアーレはまだ余裕があったが、魔法主軸である以上魔力が尽きれば終わり。

謎の男が高位魔族と渡り合える力を持っていたとしても、二人の高位魔族を同時に相手取るには些か厳しいだろう。

「クソックソッ!本気でこの国を滅ぼすつもりか!」
黒峰の言葉を耳にした魔族は鼻で笑う。

「貴様らに勝機はない。人間がどう足掻いても魔族に勝てる道理などないのだ!」
声を大にしていたのは男爵位を持つカイムだった。
グラシャラボラスの側近だった彼は、法国に攻め込んだ際に主人を失い路頭に迷っていたところ別の魔族に拾い上げられたのだった。

「カイム、黙っていろ」
「伯爵!?し、失礼しましたッ!」
カイムの背後からスッと現れた魔族は明らかに彼よりも格上。
纏うオーラが強者のそれであった。

「名乗ろう、私はアンドロマリウス。伯爵位を持つ魔族である。カイムの言葉をなぞるわけではないが、君達人間に勝ち目はない。今すぐ投降したまえ」
長剣を手に黒峰達の前に現れた魔族は真っ白のマントを羽織っており、魔族らしくない騎士のような出で立ちだった。

王国軍の前には今や魔物だけでなく男爵級と伯爵級がいる。
投降すれば命は助かるかもしれない、そう考えた騎士の一人が前に出ると剣を捨てた。


「と、投降します!だ、だから俺は助けて貰えますか!」
騎士ではあるまじき行為に同僚の騎士は命乞いする彼をにらんでいた。

アンドロマリウスは命乞いする男に近寄ると首に剣を添わせた。

「ふむ……貴殿のその言葉、相違ないか?」
「は、はい!な、なんなら貴方の下僕になります!助けてください!」
あろうことかその騎士は魔族につくと口にした。
流石に黙ってみているわけにいかぬと数人の騎士が剣を構えその男に怒声を浴びせた。

「貴様!それでも王国騎士団の一員か!」
「生かしてはおけん!」
「魔族に魂を売ったか!」

そんな声など聞こえていないフリをしてアンドロマリウスをジッと見つめる。
やがてアンドロマリウスが剣を持ち上げると口を開いた。

「騎士とは思えぬ愚行。騎士と名乗る事すらおこがましい。愚物はここで死ね」
その言葉と共にアンドロマリウスの剣が振り下ろされる。
命乞いをしていた騎士の首が飛び、地面に転がるとそれを踏み潰した。

「騎士道のかけらもないゴミめ。戦って死ぬか、潔く白旗を上げるか。命乞いをするなど……万死に値するぞ!」
アンドロマリウスは魔族では珍しい騎士道を持ち合わせていた。
相手が人間であろうが同族であろうが、騎士道の欠片もない者は許せない精神の持ち主だ。

「もう一度問おう。君達に勝ち目はない。投降する事をおすすめする」
「ま、まだだ!俺が生きてる限り……何度でも立ち上がってやる!」
誰もが反応できず声を上げる事すらできなかったが、黒峰だけは唯一アンドロマリウスの前へと剣を構え立ち塞がった。
アンドロマリウスはそんな黒峰を嬉しそうな表情で見つめると、口を開いた。

「いるではないか、気概のある人間が。そうこなくてはな」
「俺は黒峰拓斗、剣帝の勇者だ!簡単に殺れると思うなよ」
「ほう、貴殿が勇者か。面白い、その力存分に見せよ!」
黒峰は剣を上段に構え、アンドロマリウスは剣先を突き出すようにして剣を構えた。

「伯爵、その相手は吾輩に任せて頂けませんかねぇ?」
どちらが先に動くか、緊張感走る空間にしゃがれた声が響く。
その場に現れたのはカラスのような顔をした一人の高位魔族だった。

「マルファス、邪魔をするな。これは騎士としての決闘である」
「伯爵、相手は勇者です。いくら疲弊しているとはいえ、伯爵自ら剣を交えるのは得策ではございませんぞ?」
「分かっている。だから私が相手をするのだ」
「いえいえ違います。吾輩が先に奴と戦えば手の内が分かるでしょう?」
「貴様も頭の中が腐っているな。黙って下がっていろ」
騎士道の欠片もないマルファスの発言にアンドロマリウスは苛立ちを露わにする。
爵位が下であるマルファスはその言葉に渋々従い、後ろへと下がった。


「これで邪魔する者はおらん。一対一の決闘だ黒峰」
「それは願ってもいない事だな……こっちはもうまともに戦える奴が残っていないんだ」
黒峰が繰り出せる技はあと一回が限界だった。
対するアンドロマリウスは一度も戦闘しておらず万全の状態。
どう考えても勝ち目は薄かった。


いよいよ黒峰が動こうとしたその時、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「団長ー!お、お逃げください!奴は、奴の強さは次元が違い――」
その声は途中で不自然に消え、何事かと黒峰は視線を彷徨わせた。

「弱い!弱すぎるぞニンゲン!!!」
突如火の手が上がり、中から狼の顔をした魔族がヌッと現れた。

その様子にアンドロマリウスは即座に剣を仕舞い、片膝をつく。
カイムとマルファスも同様に片膝をついていた。

「これはアモン様、こちらにおいでになっていたのですか」
「アンドロマリウス、何をやっている。また決闘ごっこか?」
「はい」
「貴様も物好きだな。こんな雑魚を相手にして何が楽しいのか分からんぞ」
火を纏って現れたアモンと呼ばれた魔族は片手に掴んでいる人間をそこらに投げ捨てた。
その人間は騎士の格好を身に纏っており、黒峰も見たことがある顔をしていた。

「トロンさん……」
焼け爛れた顔は黒峰のよく知る最上級騎士トロンであった。

トロンはランスロットの指示で魔物を召喚している魔族を探しに行ったはずだったが、連れ帰ってきたのはどう考えてもこの場で一番強大な力を持つであろう高位魔族であった。

「この程度の雑魚と戯れている時間はないぞ。バアル様はどこに行った」
「バアル様はこの国の王女を攫い、自領へと帰還いたしました」
「なんだと?俺は何も聞いていないぞ」
アモンは首を傾げ考えるそぶりを見せると、召喚していた魔物を全て消し去った。


「撤退するぞ。バアル様のお考えは分からんが王女を連れ去ったのであればここで此奴らを始末する必要はないのだろう」
残った魔族達は続々と王城から離れ去っていく。
アモンは黒峰を一目見てすぐに目を逸らした。

「興味が失せたわ。勇者もこの程度では、な」
その言葉を最後にアモンも配下の魔族を引き連れて踵を返した。
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