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第二章
エピローグ
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無名が王城前に降り立つと疲弊した騎士達が俯きがちに地面へと座り込んでいる姿があった。
先程まで戦闘していた雰囲気だが、今は魔物の影すら無い。
「黒峰さん!」
見知った顔を見つけ無名が走り寄ると、黒峰は少し驚いた後口を開いた。
「来てくれた、か。ちょっと遅かったかもしれないな……」
「一体何があったんですか?」
黒峰から説明を受けた無名の表情は曇る。
無名やドレイクが離れた後を狙ったような二度目の襲撃。
襲撃が分かっていれば少なくともドレイクは残してきただろう。
そう考えると魔族の行動が腹立たしく感じていた。
「ランスロットさんも今は治療を受けている。莉奈も結界の維持で魔力を使い果たした。茜は……よく分からないが謎の男の手助けで生き残ってはいる」
「それほど凶悪な相手だったんですね」
「ああ……伯爵級に子爵級、男爵級とあとはそいつら全員が膝をつくような高位魔族が一体。俺なんか歯牙にも欠けなかったよ」
無名が戦った公爵級も強かったが、倒せたのは奇跡というほかない。
無名に劣る黒峰達では伯爵級魔族などに勝てるわけなどなく、こうなることは想像できていた。
「それに魔王とかいうやつも現れて、王女様が連れ去られた」
「連れ去られた?殺すのではなくですか?」
「ああ、ふざけた言葉を言い残してな。勇者らしく助けに来るといいとか言ってやがったよ」
助けに来させる理由が分からず無名も困惑した表情を浮かべる。
黒峰は疲れ切っているのかため息ばかりついていた。
「頼む無名。ラクティス王女を助けてほしい」
黒峰は縋るような眼で無名を見つめた。
無名は無言で首を横に振る。
「……そうだよな。無名にしてみれば王国にそこまで肩入れする義理なんてないよな」
「とにかく他の方の状態も見に行きます」
「ああ、俺はここにいるから」
黒峰から離れ今度は国王の姿を見つけそちらへと近づいていく。
近づくと近衛兵が国王を隠すように並ぶと剣の柄に手をかけた。
「無名です。先ほど戻ったのですが」
「し、失礼しました」
近衛兵は無名の顔を見てすぐに気づき左右へとズレた。
国王クライスは絶望したような表情で俯いている。
「国王陛下、ただいま戻りました。無名です」
「無名……か。君達が高位魔族を倒しに行ってすぐに魔族は襲撃してきた。恐らく狙っていたのだろうな」
「そうでしょう。僕とドレイクさんがこの場を離れれば王城を守る戦力は一気に低下しますから」
「ラクティスが攫われた」
「ええ、先程黒峰さんから聞きました」
国王は勢いよく顔を上げると、無名を真剣な表情で見た。
「無名、折り入って頼みがある。ラクティスを……連れ戻して欲しい」
声が大きかったからか周りにいた騎士達は静まり返った。
数秒の無言が続くと無名はようやく口を開く。
「できません」
想定していなかった言葉が返ってきたからか国王は目を見開く。
そんな国王の反応は無視して無名は話を続けた。
「最初に召喚された時、僕は言ったはずです。魔国を倒し元の世界に帰してもらう為に力を貸すと。王女の救出は魔国を倒す為に必要ではありません」
「馬鹿なことを申すな!ラクティスがいなければ君達を元の世界に帰す事もできんぞ!」
勇者召喚の魔法を行使できるのは王国ではラクティスだけ。
つまり彼女を助けなければ無名達も元の世界に帰ることはできないという事である。
「そもそも本当に僕らを元の世界に帰す魔法など存在するのですか?僕はこの世界に来てから様々な人と出会いました。悠久の魔女にエルフの長老、世界最強のレベル7冒険者。どの方もそんな魔法はないと言っておりましたが」
「疑っているのか?そやつらが知らんだけだろう。大体勇者召喚は王家の血筋でなければ行使できる魔法ではない」
疑いは元からあった。
呼び出すのは正直力さえあれば可能だろう。
どことも分からない世界から有能な人間を召喚するだけなのだから。
ただ、帰すとなれば座標の指定が必要となる。
当然時間軸もだ。
どこの世界から召喚したかも分からず、元の世界の時間軸も定まらないとなれば帰す事は容易ではない。
「正直に言いましょう。僕は貴方も含めた王国を助ける義理がない。今まで惰性で手を貸してはきましたが、愛想が尽きました」
「な、なにを……」
「僕は王国軍の兵士を殺しています。それがきっかけでフラン師匠と出会える事になりましたが。あの時僕が味方もろとも魔法を使っていなければ多数の死傷者を出していたでしょう。今回もそうです。厚意で助けに来るといきなり公爵級という僕ですら勝てるか分からない相手をさせられる始末。そして今度は王女の救出?勇者に頼り切るようでは国としての体裁は終わりですよクライス国王」
無名の中にあった燻りを全て吐き出した。
初めて彼の本音を聞いたクライスは黙って俯く。
本来国の危機には国で対処するべきだ。
無名は暗にそう言っていた。
「しかし……今はもう君にしか頼めんのだ。ランスロットは未だ目を覚まさない。他の勇者も限界が近い。ドレイクもまだ戻ってきておらん。君しかおらんのだ」
「フリアーレ魔法師団長がいるでしょう」
「彼女にはこの王城を守ってもらわねばならん」
「ではロルフさんは」
「彼では魔王に勝てん」
「言っておきますが僕も魔王相手となると勝てる可能性は限りなく低いですよ」
魔王がどれほどの力を持つのかは分からないが少なくとも公爵級よりも力は上だろう。
アガレスに勝てたのも殆ど奇跡のようなものなのだ。
「僕はこの国を去ります。契約は破棄して頂いて結構です」
「元の世界に帰れなくなるぞ!」
「自分で探しますよ。帰る方法を」
「王族の血筋でなければ――」
「ならば他国の王家を頼るだけです」
クライスは言葉を失った。
無名ほどの勇者が他国に移ればどうなるかなど想像に容易い。
魔国との戦いの前に王国は他国に侵略されるだろう。
「ま、待て!誰でもいい!彼を止めよ!」
クライスの言葉を聞き誰かが動くような事はなかった。
誰しもが理解しているのだ。
無名という男は止められないと。
「ちょっと!!何考えてるのよ!」
無名が立ち去ろうとした時、甲高い声がその場に響き渡る。
「また貴女ですか……」
声の主は茜であった。
彼女は目を吊り上がらせ無名を睨みつけている。
「アンタ勇者でしょうが!王女様の救助くらいやってあげたらいいでしょ!」
「そう仰るならご自身が動けばよいのでは?」
「アタシじゃ無理だから言ってんのよ!」
茜は苛立ちを露わにし無名へと詰め寄った。
今までそりが合わない事もあり、感情が爆発したようであった。
「僕にはラクティス王女に対して義理感情を持ち合わせていません。まあこの世界に召喚された恨みだけはありますが」
「なんでよ!異世界じゃない!魔法だってあるし勇者としての力を得たのも召喚されたからでしょ!」
「価値観の違いですね。誰しもが異世界に召喚されて喜びを感じると思うな」
無名が初めて怒りを露わにし剣を茜の首に沿わせた。
「僕は異世界に召喚されたのを恨んでいる。僕には元の世界で目的があったんだ。それが道半ばでこんな世界に放りだされてしまった。……僕の気持ちを理解できるのか?できないでしょうね!貴女のような脳みそも詰まっていない劣等種では!」
「な、なんですって?」
「僕は王国など滅んでも構わないとすら思っています。この国にはほとほと愛想が尽きました。勇者召喚とは名ばかりの拉致行為。斎藤大輝もこの世界に召喚されなければ死ぬこともなかった……勇者らしくないと罵ってくれても構いません。僕は僕のやり方で元の世界に帰って見せる」
首に沿わせていた剣を鞘に仕舞うと無名は踵を返し王城から離れていく。
茜は何も言えず無名の背中をジッと見つめていた。
「おい、無名!」
そんな無名に声を掛けたのは黒峰だった。
「行くのか?」
「ええ、王女を救い出せるかは分かりませんが、僕の行く歩む人生という道に王女を救い出せる可能性があるのなら、多少は抗ってみます」
「……そうか。俺も一緒に行ってもいいか?」
「黒峰さんは彼らを引っ張っていく必要があるでしょう。それに……」
「ああ、最後まで言わなくてもいい。足手まといってんだろ?すまないな……俺にもっと力があれば」
「いえ、黒峰さんはよくやっていると思いますよ。ヒステリックな女に未成年のお手本となるように行動しなければならないんですから」
「ハハッヒステリック……茜の事か。……無名、俺はこの国を中から変えて見せる。俺も俺のやり方で元の世界に帰る方法を探すよ」
「遠い場所に貴方の武功が届くのを楽しみにしていますよ黒峰さん」
黒峰が片手を差し出すと無名は黙ってその手を取った。
固く握手を交わすと、無名は黙って歩いていく。
誰かがそんな無名の後ろ姿に言葉を投げかけた。
「あんな奴が勇者だなんて……世も末だよ」
先程まで戦闘していた雰囲気だが、今は魔物の影すら無い。
「黒峰さん!」
見知った顔を見つけ無名が走り寄ると、黒峰は少し驚いた後口を開いた。
「来てくれた、か。ちょっと遅かったかもしれないな……」
「一体何があったんですか?」
黒峰から説明を受けた無名の表情は曇る。
無名やドレイクが離れた後を狙ったような二度目の襲撃。
襲撃が分かっていれば少なくともドレイクは残してきただろう。
そう考えると魔族の行動が腹立たしく感じていた。
「ランスロットさんも今は治療を受けている。莉奈も結界の維持で魔力を使い果たした。茜は……よく分からないが謎の男の手助けで生き残ってはいる」
「それほど凶悪な相手だったんですね」
「ああ……伯爵級に子爵級、男爵級とあとはそいつら全員が膝をつくような高位魔族が一体。俺なんか歯牙にも欠けなかったよ」
無名が戦った公爵級も強かったが、倒せたのは奇跡というほかない。
無名に劣る黒峰達では伯爵級魔族などに勝てるわけなどなく、こうなることは想像できていた。
「それに魔王とかいうやつも現れて、王女様が連れ去られた」
「連れ去られた?殺すのではなくですか?」
「ああ、ふざけた言葉を言い残してな。勇者らしく助けに来るといいとか言ってやがったよ」
助けに来させる理由が分からず無名も困惑した表情を浮かべる。
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「頼む無名。ラクティス王女を助けてほしい」
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無名は無言で首を横に振る。
「……そうだよな。無名にしてみれば王国にそこまで肩入れする義理なんてないよな」
「とにかく他の方の状態も見に行きます」
「ああ、俺はここにいるから」
黒峰から離れ今度は国王の姿を見つけそちらへと近づいていく。
近づくと近衛兵が国王を隠すように並ぶと剣の柄に手をかけた。
「無名です。先ほど戻ったのですが」
「し、失礼しました」
近衛兵は無名の顔を見てすぐに気づき左右へとズレた。
国王クライスは絶望したような表情で俯いている。
「国王陛下、ただいま戻りました。無名です」
「無名……か。君達が高位魔族を倒しに行ってすぐに魔族は襲撃してきた。恐らく狙っていたのだろうな」
「そうでしょう。僕とドレイクさんがこの場を離れれば王城を守る戦力は一気に低下しますから」
「ラクティスが攫われた」
「ええ、先程黒峰さんから聞きました」
国王は勢いよく顔を上げると、無名を真剣な表情で見た。
「無名、折り入って頼みがある。ラクティスを……連れ戻して欲しい」
声が大きかったからか周りにいた騎士達は静まり返った。
数秒の無言が続くと無名はようやく口を開く。
「できません」
想定していなかった言葉が返ってきたからか国王は目を見開く。
そんな国王の反応は無視して無名は話を続けた。
「最初に召喚された時、僕は言ったはずです。魔国を倒し元の世界に帰してもらう為に力を貸すと。王女の救出は魔国を倒す為に必要ではありません」
「馬鹿なことを申すな!ラクティスがいなければ君達を元の世界に帰す事もできんぞ!」
勇者召喚の魔法を行使できるのは王国ではラクティスだけ。
つまり彼女を助けなければ無名達も元の世界に帰ることはできないという事である。
「そもそも本当に僕らを元の世界に帰す魔法など存在するのですか?僕はこの世界に来てから様々な人と出会いました。悠久の魔女にエルフの長老、世界最強のレベル7冒険者。どの方もそんな魔法はないと言っておりましたが」
「疑っているのか?そやつらが知らんだけだろう。大体勇者召喚は王家の血筋でなければ行使できる魔法ではない」
疑いは元からあった。
呼び出すのは正直力さえあれば可能だろう。
どことも分からない世界から有能な人間を召喚するだけなのだから。
ただ、帰すとなれば座標の指定が必要となる。
当然時間軸もだ。
どこの世界から召喚したかも分からず、元の世界の時間軸も定まらないとなれば帰す事は容易ではない。
「正直に言いましょう。僕は貴方も含めた王国を助ける義理がない。今まで惰性で手を貸してはきましたが、愛想が尽きました」
「な、なにを……」
「僕は王国軍の兵士を殺しています。それがきっかけでフラン師匠と出会える事になりましたが。あの時僕が味方もろとも魔法を使っていなければ多数の死傷者を出していたでしょう。今回もそうです。厚意で助けに来るといきなり公爵級という僕ですら勝てるか分からない相手をさせられる始末。そして今度は王女の救出?勇者に頼り切るようでは国としての体裁は終わりですよクライス国王」
無名の中にあった燻りを全て吐き出した。
初めて彼の本音を聞いたクライスは黙って俯く。
本来国の危機には国で対処するべきだ。
無名は暗にそう言っていた。
「しかし……今はもう君にしか頼めんのだ。ランスロットは未だ目を覚まさない。他の勇者も限界が近い。ドレイクもまだ戻ってきておらん。君しかおらんのだ」
「フリアーレ魔法師団長がいるでしょう」
「彼女にはこの王城を守ってもらわねばならん」
「ではロルフさんは」
「彼では魔王に勝てん」
「言っておきますが僕も魔王相手となると勝てる可能性は限りなく低いですよ」
魔王がどれほどの力を持つのかは分からないが少なくとも公爵級よりも力は上だろう。
アガレスに勝てたのも殆ど奇跡のようなものなのだ。
「僕はこの国を去ります。契約は破棄して頂いて結構です」
「元の世界に帰れなくなるぞ!」
「自分で探しますよ。帰る方法を」
「王族の血筋でなければ――」
「ならば他国の王家を頼るだけです」
クライスは言葉を失った。
無名ほどの勇者が他国に移ればどうなるかなど想像に容易い。
魔国との戦いの前に王国は他国に侵略されるだろう。
「ま、待て!誰でもいい!彼を止めよ!」
クライスの言葉を聞き誰かが動くような事はなかった。
誰しもが理解しているのだ。
無名という男は止められないと。
「ちょっと!!何考えてるのよ!」
無名が立ち去ろうとした時、甲高い声がその場に響き渡る。
「また貴女ですか……」
声の主は茜であった。
彼女は目を吊り上がらせ無名を睨みつけている。
「アンタ勇者でしょうが!王女様の救助くらいやってあげたらいいでしょ!」
「そう仰るならご自身が動けばよいのでは?」
「アタシじゃ無理だから言ってんのよ!」
茜は苛立ちを露わにし無名へと詰め寄った。
今までそりが合わない事もあり、感情が爆発したようであった。
「僕にはラクティス王女に対して義理感情を持ち合わせていません。まあこの世界に召喚された恨みだけはありますが」
「なんでよ!異世界じゃない!魔法だってあるし勇者としての力を得たのも召喚されたからでしょ!」
「価値観の違いですね。誰しもが異世界に召喚されて喜びを感じると思うな」
無名が初めて怒りを露わにし剣を茜の首に沿わせた。
「僕は異世界に召喚されたのを恨んでいる。僕には元の世界で目的があったんだ。それが道半ばでこんな世界に放りだされてしまった。……僕の気持ちを理解できるのか?できないでしょうね!貴女のような脳みそも詰まっていない劣等種では!」
「な、なんですって?」
「僕は王国など滅んでも構わないとすら思っています。この国にはほとほと愛想が尽きました。勇者召喚とは名ばかりの拉致行為。斎藤大輝もこの世界に召喚されなければ死ぬこともなかった……勇者らしくないと罵ってくれても構いません。僕は僕のやり方で元の世界に帰って見せる」
首に沿わせていた剣を鞘に仕舞うと無名は踵を返し王城から離れていく。
茜は何も言えず無名の背中をジッと見つめていた。
「おい、無名!」
そんな無名に声を掛けたのは黒峰だった。
「行くのか?」
「ええ、王女を救い出せるかは分かりませんが、僕の行く歩む人生という道に王女を救い出せる可能性があるのなら、多少は抗ってみます」
「……そうか。俺も一緒に行ってもいいか?」
「黒峰さんは彼らを引っ張っていく必要があるでしょう。それに……」
「ああ、最後まで言わなくてもいい。足手まといってんだろ?すまないな……俺にもっと力があれば」
「いえ、黒峰さんはよくやっていると思いますよ。ヒステリックな女に未成年のお手本となるように行動しなければならないんですから」
「ハハッヒステリック……茜の事か。……無名、俺はこの国を中から変えて見せる。俺も俺のやり方で元の世界に帰る方法を探すよ」
「遠い場所に貴方の武功が届くのを楽しみにしていますよ黒峰さん」
黒峰が片手を差し出すと無名は黙ってその手を取った。
固く握手を交わすと、無名は黙って歩いていく。
誰かがそんな無名の後ろ姿に言葉を投げかけた。
「あんな奴が勇者だなんて……世も末だよ」
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