あなたの指先で触れられたい

五嶋樒榴

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俺と君

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看護師達が、蓮見を心配するのは分かっていた。
もう気がつけば32歳とお年頃になっていた。
この医院の院長だった父と良妻賢母だった母は、蓮見が大学病院にいた頃に交通事故に遭い帰らぬ人となった。
そしてこの医院を存続させるために、蓮見は大学病院を辞め継いだのだった。
当時付き合っていた恋人は、大学病院を辞めると知ると離れて行った。
自分は大学病院の外科医と言う肩書きが無くなれば、価値も無いのだと思ってからは、この病院だけに心血を注いできた。 
そんな時に現れたのが真冬だった。
夜の街を当てもなくふらついていた時、女の子のように可愛らしい容姿が災いして、3人組のサラリーマンの酔っ払い達に絡まれたのだった。
「一緒に行こうよぉ。奢ってあげるからさぁ」
「いいです!辞めてください!僕、男ですから!」
真冬は酔っ払いの腕を振り払うと、酔っ払いは勝手によろついてその場に倒れた。
「あんだ、この野郎!どうせお前、オカマだろ!女みてぇなツラして、男漁ってんだろ!」
完璧に逆ギレする酔っ払い。
周りの通行人は逃げるように通り過ぎて行く。
真冬もその場から逃げようとしたが、別の酔っ払いに腕を掴まれ顔を殴られてしまう。
「何、逃げてんだよ!突き倒して、謝りもねぇのかよ!」
真冬は殴られて萎縮してしまった。
3人組の酔っ払いは、寄ってたかって真冬を囲って蹴りを入れる。
誰かが通報してくれたのか、2人の警察官が走り寄ってきた。
「何をしてる!」
警察官達が走り寄って来ても、興奮状態の酔っ払い達は真冬への暴行を辞めなかった。
「辞めろと言っているだろう!」
警察官達の怒号で暴行は止まった。そして酔っ払い達はその場で取り押さえられた。手錠をかけられ逃げられない。
「君!大丈夫か?」
1人の警察官が真冬の側に寄る。もう1人の警察官は応援にパトカーを呼んでいた。犯人達は、野次馬達に写メを撮られまくっている。
真冬は蹴られた腹部に手を当てていた。
恐怖で声も出ない。
警察官は、真冬が写メを撮られないように覆いかぶさり顔を隠す。
「おい、どうした!何があった?」
人をかき分けて警察官と真冬の前に現れたのが蓮見だった。
「蓮見先生!この青年が暴行を受けて怪我を」
蓮見と警察官達は、地元だったこともあり顔見知りだった。
「大丈夫か?」
蓮見が真冬の顔を見つめる。頬が赤く腫れていた。
「顔も殴られてるな。他はどこが痛むか?」
「お腹が。蹴られて」
蓮見が触診をする。
「肋は折れてないな。吐き気は?」
真冬は首を振る。
蓮見は真冬を支えて立たせると背中におぶった。小柄で軽いので背負っても楽だった。
「犯人は?」
「現行犯で逮捕してます。あそこで囲まれてます。あとで事情を伺いに行きますね」
「分かった」
蓮見は返事をすると、真冬に暴行した男達が、通行人達の写メの餌食になっている隙に真冬を自分の病院へ運んだ。
ひと段落したのか、警察官が蓮見の病院にやってきた。
不幸中の幸いで、真冬は大きな怪我はしていなくて、蓮見も警察官もホッとした。
「とりあえず、何か体調の変化があると困るから今夜は俺が預かるよ。家族に連絡もしないと。事情聴取は明日でも良い?」
待合室で蓮見がいうと、警察官は頷いた。
「よろしくお願いしますね」
警察官が帰って行くと、蓮見は真冬の上体をゆっくり起き上がらせる。
「すぐ裏が俺の家なんだ。診察台の上じゃ硬くて眠れないだろ。うちで休みなさい」
蓮見は真冬を支えながら家に連れて行くと客間に布団を敷いた。
「ありがとうございます。すごく怖かった」
真冬はホッとしたのかボロボロ泣き始めた。蓮見は濡れたタオルで殴られた顔を冷やす。
「怖かったね。大事にならなくて良かった。君、名前は?ご家族に連絡は自分でするかい?」
蓮見は真冬の背中を優しく撫でた。
「千藤真冬です。家族には心配かけたくないので、明日連絡します」
か細い声だった。とりあえず見た限りで急変もなさそうなので、家族への連絡は明日でも良いかと蓮見も思った。
「真冬君ね。もし気分が悪くなったり、どうしても眠れないなら、遠慮なく俺の部屋においで。我慢しちゃダメだよ」
蓮見はそういうと、真冬を布団に寝かせてタオルケットをかけた。
「電気、消さないでください。怖い」
「分かったよ。おやすみ」
蓮見はそう言うと静かに部屋の扉を閉めた。
それが蓮見と真冬の出会いだった。
そして次の日、真冬から蓮見は告白を受けた。
「僕、親に黙って他の大学に編入したんです。それがバレて喧嘩になって。何もかも嫌になって家出して。それであんなことに。親を泣かせた罰ですかね」
「帰る場所があるなら帰りなさい。未成年ではないの?」
「もうすぐ21です」
大学3年だと分かり、あと1年通えば卒業だったのに、なぜ?と蓮見は思った。
だが、それはまだ聞けなかった。
聞く前に、この家を出て行くと思っていた。
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