あなたの指先で触れられたい

五嶋樒榴

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俺と君

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朝になり、いつものように蓮見はキッチンを覗く。
真冬は鼻歌を歌って上機嫌で朝食の支度をしていた。
「お、おはよう」
上擦る声で蓮見は真冬に声をかけた。真冬はちょっとビクッとしたが、真っ赤な顔で蓮見を見る。
「おはよう。先生」
いつもと変わらない声だが、真っ赤になっていて可愛い。
おそらく昨日のキスのせいで真っ赤になっているんだと蓮見でも分かった。
「もう少し待ってね。ハムエッグ作れば終わるから」
蓮見は言い出せなかった。
どう謝って良いか分からなかった。
心のどこかで、このまま誤魔化そうと言う気持ちが芽生えた。

良いじゃん!
真冬も気にしてないようだしさ!

悪魔が囁く。

うーん、今回は難しいよね。
下手に蒸し返すのもね。
真冬も忘れたいのかも知れないし。

天使まで、誤魔化す事に賛成する。

そうだ。そうだ。
別に泣かれたわけじゃないじゃん!

悪魔が畳み掛けてくる。

真冬が何か言ってくるまで、様子見る?

素直に天使の言う事を聞く事にして、何食わぬ顔で蓮見はダイニングテーブルに着いた。
「先生。昨日のキスなんだけど」
真冬がハムエッグをテーブルに運びながら言う。
いきなりストレートパンチを食らわされたように、蓮見はダイニングテーブルに顔を落とした。

ですよねー。
誤魔化せないよねー。
あんな激しいキスして、酔ってたで誤魔化せないよねー。

蓮見は泣きたくなってきた。
今は機嫌が良さそうだが、真冬からなんて責められるのか予想がつかない。
蓮見は恐る恐る顔を上げた。
「うん、キスのことだよね」
蓮見は頭から血の気が引いて体温が奪われていく気がした。
「なんで、あんなキス、したの?」
モジモジしながら真冬が尋ねる。
「ごめん!ごめんなさい!本当にごめん!」
凄い勢いで蓮見はごめんを連呼する。
「真冬が、あまりにも可愛くて。我慢、できなくて。真冬が先に、俺にキスしたの覚えてる?」
蓮見に聞かれて真冬は真っ赤になって首を振る。
「ごめんなさい!僕が先にキスしたんだ!またやっちゃったんだ」
真冬は顔を下に向けて、両手で真っ赤な頬を隠す。

またやっちゃったんだ。

そのセリフに、蓮見はムッとした。
真冬にとってのキスは、酔っていれば誰でも良いのかと蓮見は思った。
昨日はたまたま蓮見だっただけで、もし星川が真冬を抱き上げて運んでいたら、星川とキスしてたのかと思うと腹が立って堪らない。
蓮見は不機嫌な顔で真冬から顔を背けた。
「ごめん。俺もまたやっちゃった。可愛い子見るとキスしたくなるんだよね」
蓮見は嘘を付いた。
蓮見の言葉に真冬は真っ青な顔で動けなかった。ショックだった。
「……あ、そう、だったんだ。だよね。僕、女の子みたいな顔だし、錯覚して、キス、したんだよね。きっと」
真冬はそう言うと、キッチンに入って行った。
「ご飯、先に食べて。僕、こっち先に片付ける」
真冬はそう言うと、シンクの中の物を洗い始めた。
蓮見は無言のままご飯を食べ始める。
大人気ないと思いながら、どうしても真冬の言葉が許せなかった。

俺は、錯覚じゃない。
真冬だからキスしたのに。
真冬にとって、俺って何?
………。
ん?
何って?
何ってナニ?
真冬にとって俺は、ただの同居人だよね。
俺、何期待してた?

箸が止まった。
せっかくのご飯がちっとも味がしない。
ただ口に運ぶ食物と言うだけで、食べていて喜びも楽しみもなかった。
蓮見は立ち上がるとキッチンに入った。
真冬が水を出しっぱなしで泣いている。
蓮見は無言で近付くと水を止めた。
「ごめん。嘘」
蓮見は真冬にポツリと言った。
「真冬が可愛かったからキスした」
蓮見はまだ真冬を見ない。
怖くて見れない。
真冬は声を殺して肩を震わせて泣いている。 
「真冬だから、キスした」
真冬は涙をぬぐいながら蓮見を見つめる。
「せんしぇい」
真冬は涙を堪えて蓮見を見る。
「真冬は酔うと誰にでもキスしちゃうのかも知れないけど、俺は違うから」
蓮見はそう言うとキッチンを出て洗面所に向かった。
「先生!待って!」
真冬が蓮見の背中に抱きつく。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
蓮見は振り返らない。
「もう、良いよ。俺が変にキスしたのが原因なんだから」
「だって、僕のせいでしょ?僕がこの家に居るから、先生は僕にキスしたいほど、好きになったんでしょう?」
真冬の言葉に蓮見は固まる。

あー、やっぱ、そう思うよね。
好きじゃなきゃ、あんなキスができないことぐらい、真冬だってわかってるよねー。
俺、真冬を舐めてたわ。

「うん。好き」
蓮見はもう観念した。
もう誤魔化せない。
真冬がギュッと蓮見に抱きつく。
「真冬が酔うと、誰とでもキスすると思って嫉妬して、真冬に意地悪を言った。もう、勘弁して。恥ずかしい」
真冬は抱きついたまま離れない。
「先生のキス、気持ちよかった。もっとして欲しかった。僕も先生のこと好きなのかな?」
疑問形で投げかけられ蓮見は苦笑した。
「答えが出るまで、これからもキスしてみる?」
蓮見が冗談半分に言う。真冬は蓮見の背中に顔を押し付ける。
「うん」
真冬の返事に蓮見は複雑だった。
またお預けが増えた気がした。
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