優しいあなたは罪な人

五嶋樒榴

文字の大きさ
26 / 195
再会は嘘の始まり

12

しおりを挟む
【近いうち、病院行くって言って、もう2週間経っちゃった。私が思ってるより、裕介は私を愛してないのかも。私の辛さとか、分かってる風で何も分かってないのかも】

美奈子のLINを読んで、相当追い詰められていると千秋は思った。

【あのさ、いつもLINだけじゃん。今度気晴らしに会わないか?食事しながら話を聞くよ】

千秋の返事に美奈子は嬉しくて、目がじわっと熱くなって泣きそうになる。
こんな風に気にかけてくれる人が近くにいて、それだけで心が軽くなる。

【でも、奥さんに悪くない?2人で会ったら、やっぱり良くないでしょ?】

【大丈夫だよ。絶対妻にはバレないようにするから。って食事するだけじゃん。気にしすぎだよ】

千秋の誘いが嬉しくて仕方ない。
小学生の時と違って、大人になった千秋に男としてときめいてしまった。

【今度の金曜日どう?無理なら仕方ないけど】

【大丈夫!友達とは今でもたまにご飯してるから、裕介も変に思わないから】

千秋と美奈子は、ただ2人で食事をするだけでドキドキする。
誰かに見られたら、確かに不倫をしているように見られるだろうが、それでも千秋は美奈子に会いたかった。
美奈子のストレスを解消させたかった。

「友達と飲み会?」

その日の夜に、美奈子は裕介にお伺いを立てる。
裕介はジャケットを脱ぎながらキッチンを見る。

「うん。相手も結婚してる子だから、遅くなることはないから」

キッチンで夕飯を温め直しながら美奈子は言う。
裕介は専業主婦の美奈子が、たまに外で息抜きをするのも寛容だった。
今回は特に、病院にも行っていない後ろめたさもあり、美奈子の気持ちを少しでも楽にさせてあげたかった。

「大丈夫だよ。行っておいで。夕飯も自分でなんとかするし。ゆっくりしてきていいよ」

裕介の優しい言葉に、美奈子は嘘をつく罪悪感から素直に笑顔になれない。作り笑顔を向けてしまった。

「ありがとう」

「どういたしまして。手を洗ってくるね」

洗面所に消えていく裕介。
美奈子は握り拳を胸に当ててため息をついた。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

処理中です...