優しいあなたは罪な人

真実の扉が開き始めた

15

外食の間も、裕介は美奈子に何も話を振っては来なかった。
美奈子は頭の中で、裕介に尋ねられたらなんと答えようと、頭の中で返す言葉を考えていたがそれも無駄に終わった。

「夕飯の支度しないまま寝ててごめんね」

帰り道で美奈子が言うと、裕介は美奈子の手をギュッと握る。

「たまには仕方ないよ。美奈子は頑張り屋だから、また昼間に家のこと頑張りすぎたんじゃない？」

あくまでも優しい裕介に美奈子は癒される。
やっぱり、裕介だけを見なくてはと思う。

「それに外の方が冷静に聞けるかなって思ったんだ」

「何を？」

突然の裕介の意味不明な言葉に、美奈子は裕介を見つめた。

「さっき、言えなかったこと。家の中で話したくなかったんだ」

含みのある裕介の言葉に、美奈子はやっぱり何かうわ言を裕介に聞かれたんだと確信した。

「私、何か言ってたの？何か、裕介を傷付けたの？」

美奈子の胸の鼓動がドクドクドクと一気に激しくなる。

「傷付けたって言うか、千秋君、て誰？」

美奈子は裕介の手の温もりが、一気に冷たく感じた。

「千秋君、好きって言ってた」

もうダメだと、美奈子は血の気が引く。
まさかそんな事を口走っていたのかとゾッとした。

「……昔の夢、見てたのかな。小学生の、時の」

震える声で美奈子は言う。
裕介はフーッと大きく息を吐いた。

「そっか。良かった。美奈子に他に好きな男ができたのかと不安になった」

裕介は微笑むが目が笑っていなかった。その表情に美奈子は凍りつく。
全てを見透かされている気がした。


　千秋君！
　私のせいでごめんなさい！
　ごめんなさい！
　私、千秋君が好き。


裕介は美奈子が、私のせいでごめんなさい。と言ったうわ言が耳から離れない。
千秋という男と、なにがあったのかと疑心暗鬼になる。


　本当に小学生時代の夢を見ていたのか？


夜中に裕介はベッドルームから抜け出すと、本棚のあるリビングの隣の部屋に入った。
本棚から、美奈子の小学校の卒業アルバムを取って開く。
千秋という名前を探すと、美奈子と同じクラスに西川千秋と言う名前があって裕介は千秋の写真を見つめた。
小学生時代の同級生を、未だに夢に見て泣くものなのだろうかと裕介は不審に思う。
一緒に載っている真知子と、真知子の夫の岡崎の写真を見て裕介はハッとした。
もしかして、美奈子が千秋と今でも付き合いがあるのではないかと思った。