優しいあなたは罪な人

真実の扉が開き始めた

14

美奈子はソファに横になると、こぼれ落ちる涙を拭わず天井を見つめた。
千秋を不幸にするつもりはなかった。
一度だけの関係だったとしても、美奈子の中に千秋は刻まれていた。
どうしてこんなことになったのか。
もう少し裕介を待っていれば、千秋の家庭を壊すこともなかった。
結局は全て後の祭り。

「……美奈子？美奈子」

裕介の声に美奈子はハッとして目を覚ました。
千秋のことを考えながら寝てしまっていたんだと思った。

「あ、ごめんなさい。私、寝てたのね」

美奈子は頬に伝い落ちる涙を拭いながら静かに起き上がった。

「怖い夢でも見てた？こんなに泣いて」

裕介はソファに座ると、優しく美奈子を抱きしめた。
その力が強くて美奈子はビクンと身を硬くする。

「ごめんなさい。大丈夫だから」

裕介の腕が更に強くなる。

「謝ってたよ、さっきも。僕が帰ってきて、美奈子が寝てたから、美奈子の涙を指で拭ってた時」

美奈子は裕介の腕の中で震える。
何を口走っていたのか不安になる。

「……私、謝ってた？やだ、変な夢、見てたのね」

誤魔化すように美奈子は裕介の腕の中で言うが、内心は裕介に何かバレたのではないかと胸が苦しくなる。

「うん。ごめんなさいって」

裕介は腕の力を緩めると美奈子を見つめる。

「どうして、夢の中で謝っていたの？」

「え？」

美奈子は裕介の言葉に固まる。
もう聞いても無駄かと、裕介は思うと立ち上がった。

「夕飯出来てないみたいだし、外に食べに行こう。支度して」

にっこり笑う裕介に、美奈子は胸がズキズキする。
一体自分は、寝ている間になぜ謝っていたのか。
他にどんな言葉を発していたのか不安でしかない。
美奈子は出かける支度をする為に立ち上がるとベッドルームに向かった。
その姿を見送りながら裕介はため息をつく。

「千秋って、誰？」

裕介はつぶやいて再びソファに腰掛けると、美奈子が戻るのを苛つきながら待った。