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その罪を許せるか許せないか
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東堂ホールディングスの環から誘われて、美紅は雰囲気の良いスペインバルに連れて来てもらった。
「じゃあ、乾杯。お疲れー」
「お疲れ様です」
サングリアで乾杯すると、ピンチョスを二人はつまみ始めた。
「久しぶりだけどなんか変わったねー。家庭と仕事の両立は大変?」
少しやつれた美紅を見て環は心配する。
「あ、いえ。家庭の方は、その」
離婚した事をどうやって説明しようかと美紅は悩んだ。
「実はね今日誘ったのは、美紅ちゃんに会いたかったのもあるけど、半分仕事のことなんだ」
「え?」
仕事の話と聞いて美紅は環を見る。
今の支店での仕事では、環と関わりを持つ事はないからだった。
「美紅ちゃんがまだ本社にいた時に手掛けていた仕事ね、すっごく好評なんだ。それで業務拡大しても良いんじゃないかってうちの法然も推してくれてね」
環の上司の法然部長の名前を聞いて美紅は驚く。
東堂ホールディングスでもやり手として有名で、若くして取締役でもある。
その法然の目にも留まったと知り、美紅は嬉しくて仕方ない。
「もし美紅ちゃんが良ければ、東堂に来ない?」
思いもしていない誘いに美紅は目を見開いて驚く。
「夫婦で同じ部署で働き辛いのは分かるけど、美紅ちゃんが支店で埋もれるのはやっぱり私も残念でね。もちろん、子供ができた時のことだって心配はないわ。その点は美紅ちゃんだってわかってるでしょ?」
東堂は日本でも屈指の大手企業で、福利厚生が充実しているのももちろん知っている。
「嬉しいです。そんなに環さんに買ってもらえて。それに子供ができた時の心配は、今は全くないんです」
「だって本当に美紅ちゃんは欲しい人材だもの。もっと早くに私が欲しかったけど、流石に私の一存では無理だったから。って言うか、まだ子供は作らないの?確かにまだ若いけど、全くないは言い過ぎじゃない?」
ニコニコしている環に美紅は首を振る。
「私たち、つい最近離婚したんです」
もう一気に言ってしまおうと美紅は思って口を開いた。
環は聞き間違いかと思いながらも美紅を見つめる。
「……千秋さんと、その、色々問題があって」
確か、もう直ぐ美紅達の結婚記念日だと環は記憶していた。
だからその前に会って、一周年のプレゼントを渡そうと思っていたのに、まさか離婚したとは思っていなかった。
「そうだったのね。びっくりしちゃった」
環は持ってきたプレゼントの入った紙袋をチラッと見た。
もちろん美紅は、環がプレゼントを用意してくれているとは気付いていない。
「そんな決断したなんて辛かったね」
環が優しい目で美紅を見る。
美紅は泣かないように無理に笑顔になって頷く。
「久しぶりに会ったのに、何も知らなかったとはいえ、仕事の話ばかりしてごめんね」
「いえ。環さんには今日ちゃんと言うつもりだったし、仕事の話を聞かせてもらってとても嬉しかったです。私も出来ることなら、前のような仕事をしたいと思っていたし」
美紅がしっかり応えてくれて環はホッとした。
「うん!そうだよ!美紅ちゃんはもっと活躍してほしい!美紅ちゃんと同じチームで私も働きたい。だから、もし美紅ちゃんの会社とうちの会社と折り合いがつけば、うちに移籍してほしい」
美紅はこれはチャンスだと思った。
自分がしたい仕事が出来るなら、東堂に移ってスキルアップしながら自立していけると思った。
「美紅ちゃんがうちを希望してるって法然に報告しても良い?移籍できるまで時間はかかるかもしれないけど信じて待ってて。それとこれは正式に決まるまで誰にも口外しないでね」
美紅のことだから分かっているとは思っていたが、一応お約束で環は美紅に念を押した。
「もちろん他言しません。よろしくお願いします!」
美紅の笑顔に環も微笑む。
「よし!じゃあ仕事の話はおしまい!美味しいものいっぱい食べて飲もう!」
いつか環の下で働けると思っただけで、美紅は心強くなった。
楽しい夜に美紅はずっと笑顔になれた。
「じゃあ、乾杯。お疲れー」
「お疲れ様です」
サングリアで乾杯すると、ピンチョスを二人はつまみ始めた。
「久しぶりだけどなんか変わったねー。家庭と仕事の両立は大変?」
少しやつれた美紅を見て環は心配する。
「あ、いえ。家庭の方は、その」
離婚した事をどうやって説明しようかと美紅は悩んだ。
「実はね今日誘ったのは、美紅ちゃんに会いたかったのもあるけど、半分仕事のことなんだ」
「え?」
仕事の話と聞いて美紅は環を見る。
今の支店での仕事では、環と関わりを持つ事はないからだった。
「美紅ちゃんがまだ本社にいた時に手掛けていた仕事ね、すっごく好評なんだ。それで業務拡大しても良いんじゃないかってうちの法然も推してくれてね」
環の上司の法然部長の名前を聞いて美紅は驚く。
東堂ホールディングスでもやり手として有名で、若くして取締役でもある。
その法然の目にも留まったと知り、美紅は嬉しくて仕方ない。
「もし美紅ちゃんが良ければ、東堂に来ない?」
思いもしていない誘いに美紅は目を見開いて驚く。
「夫婦で同じ部署で働き辛いのは分かるけど、美紅ちゃんが支店で埋もれるのはやっぱり私も残念でね。もちろん、子供ができた時のことだって心配はないわ。その点は美紅ちゃんだってわかってるでしょ?」
東堂は日本でも屈指の大手企業で、福利厚生が充実しているのももちろん知っている。
「嬉しいです。そんなに環さんに買ってもらえて。それに子供ができた時の心配は、今は全くないんです」
「だって本当に美紅ちゃんは欲しい人材だもの。もっと早くに私が欲しかったけど、流石に私の一存では無理だったから。って言うか、まだ子供は作らないの?確かにまだ若いけど、全くないは言い過ぎじゃない?」
ニコニコしている環に美紅は首を振る。
「私たち、つい最近離婚したんです」
もう一気に言ってしまおうと美紅は思って口を開いた。
環は聞き間違いかと思いながらも美紅を見つめる。
「……千秋さんと、その、色々問題があって」
確か、もう直ぐ美紅達の結婚記念日だと環は記憶していた。
だからその前に会って、一周年のプレゼントを渡そうと思っていたのに、まさか離婚したとは思っていなかった。
「そうだったのね。びっくりしちゃった」
環は持ってきたプレゼントの入った紙袋をチラッと見た。
もちろん美紅は、環がプレゼントを用意してくれているとは気付いていない。
「そんな決断したなんて辛かったね」
環が優しい目で美紅を見る。
美紅は泣かないように無理に笑顔になって頷く。
「久しぶりに会ったのに、何も知らなかったとはいえ、仕事の話ばかりしてごめんね」
「いえ。環さんには今日ちゃんと言うつもりだったし、仕事の話を聞かせてもらってとても嬉しかったです。私も出来ることなら、前のような仕事をしたいと思っていたし」
美紅がしっかり応えてくれて環はホッとした。
「うん!そうだよ!美紅ちゃんはもっと活躍してほしい!美紅ちゃんと同じチームで私も働きたい。だから、もし美紅ちゃんの会社とうちの会社と折り合いがつけば、うちに移籍してほしい」
美紅はこれはチャンスだと思った。
自分がしたい仕事が出来るなら、東堂に移ってスキルアップしながら自立していけると思った。
「美紅ちゃんがうちを希望してるって法然に報告しても良い?移籍できるまで時間はかかるかもしれないけど信じて待ってて。それとこれは正式に決まるまで誰にも口外しないでね」
美紅のことだから分かっているとは思っていたが、一応お約束で環は美紅に念を押した。
「もちろん他言しません。よろしくお願いします!」
美紅の笑顔に環も微笑む。
「よし!じゃあ仕事の話はおしまい!美味しいものいっぱい食べて飲もう!」
いつか環の下で働けると思っただけで、美紅は心強くなった。
楽しい夜に美紅はずっと笑顔になれた。
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