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優しいあなたは……
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美紅は自分を見つめ直すためにも、もう龍彦に助けてもらってばかりではダメだと思った。
優しくしてくれる龍彦の存在が、美紅の中で大きくなっていたのが怖くなっている。
それに気付いてしまった美紅は、龍彦と距離を置く事を決め、仕事の後に龍彦を飲みに誘った。
「へぇ。こういう店に来てるんだ。なかなかお洒落じゃね」
龍彦は頬杖をついて、本格的なタイ料理の店のメニューを面白がって見ている。
「ここのお料理美味しいんだよ。辛い物とか大丈夫だった?あ、辛く無いのもあるよ」
「原田ってホント辛い物好きだよなぁ。前に作ってくれたカレーもマジ辛かったし」
美紅が作ってくれたカレーを思い出して龍彦は笑う。
「だから言ったじゃん。激辛カレー作ってあげるってッ!」
美紅がムキになって言い返す。
「あれ、マジで作ると思ってなかったから油断した。沙優とか平気で食うから、やっぱり女子の方が辛いの強いんかなー」
沙優の名前が出て美紅はズキッとする。
油断している時に沙優の名前を聞くのは辛かったが、言うなら今かなと、美紅は口を開いた。
「……あのね、私、シェアハウス出ようと思ってる」
「え?」
突然の美紅の告白に、龍彦は聞き間違えかと美紅を見る。
「なんでだよ!」
焦る龍彦の声に美紅はビクッとする。
「まだ落ち着いてないのに?って言うか、いく場所なんて無いだろ?何を突然訳のわからねーこと言い出してんだよッ!」
龍彦が感情的に捲し立てる。
周りは何事かと美紅と龍彦に視線が集まってしまい、美紅は困った顔をして、声のトーンを下げて話し始めた。
「そうだけど、今のままじゃダメだって思って。みんなが優しいからって甘えてるのが辛いの。自立しなきゃダメだって思ってる」
龍彦は、美紅の言い分が全く理解できずに仏頂面になる。
その顔を見ながら、美紅は本心を告げることができない。龍彦と沙優が気になるとは言えない。
「その話はとりあえず保留な。今夜は聞きたく無い」
「でも、亘理君には助けてもらってばかりで、迷惑だってかけてる。それが心苦しくて」
美紅がなんと言おうと、龍彦は全否定する勢いだった。
「助けるのは当たり前だろ。原田は大切な仲間だ。お前の辛い顔とか見たくねーんだよ」
真っ直ぐな目で龍彦は美紅を見る。
心配してくれる龍彦に、美紅は自分の気持ちを隠していることが恥ずかしくなった。
好きになってはいけない人を、好きになりかけていることが苦しくてたまらない。
「とにかく、みんなにはまだ言うなよ。もう少しゆっくり先のことを考えろ」
龍彦は、美紅が遠慮して焦っていると思っている。そんな美紅を一人に出来るわけがないと考えた。
「あー、腹減った。とりあえず飯が先!ほら、何飲むんだよ」
龍彦が話を変えてしまったので、美紅ももう何も言えないと思った。
とりあえず今夜は、自立する意思があることを伝えられただけ良かったと思うことにした。
優しくしてくれる龍彦の存在が、美紅の中で大きくなっていたのが怖くなっている。
それに気付いてしまった美紅は、龍彦と距離を置く事を決め、仕事の後に龍彦を飲みに誘った。
「へぇ。こういう店に来てるんだ。なかなかお洒落じゃね」
龍彦は頬杖をついて、本格的なタイ料理の店のメニューを面白がって見ている。
「ここのお料理美味しいんだよ。辛い物とか大丈夫だった?あ、辛く無いのもあるよ」
「原田ってホント辛い物好きだよなぁ。前に作ってくれたカレーもマジ辛かったし」
美紅が作ってくれたカレーを思い出して龍彦は笑う。
「だから言ったじゃん。激辛カレー作ってあげるってッ!」
美紅がムキになって言い返す。
「あれ、マジで作ると思ってなかったから油断した。沙優とか平気で食うから、やっぱり女子の方が辛いの強いんかなー」
沙優の名前が出て美紅はズキッとする。
油断している時に沙優の名前を聞くのは辛かったが、言うなら今かなと、美紅は口を開いた。
「……あのね、私、シェアハウス出ようと思ってる」
「え?」
突然の美紅の告白に、龍彦は聞き間違えかと美紅を見る。
「なんでだよ!」
焦る龍彦の声に美紅はビクッとする。
「まだ落ち着いてないのに?って言うか、いく場所なんて無いだろ?何を突然訳のわからねーこと言い出してんだよッ!」
龍彦が感情的に捲し立てる。
周りは何事かと美紅と龍彦に視線が集まってしまい、美紅は困った顔をして、声のトーンを下げて話し始めた。
「そうだけど、今のままじゃダメだって思って。みんなが優しいからって甘えてるのが辛いの。自立しなきゃダメだって思ってる」
龍彦は、美紅の言い分が全く理解できずに仏頂面になる。
その顔を見ながら、美紅は本心を告げることができない。龍彦と沙優が気になるとは言えない。
「その話はとりあえず保留な。今夜は聞きたく無い」
「でも、亘理君には助けてもらってばかりで、迷惑だってかけてる。それが心苦しくて」
美紅がなんと言おうと、龍彦は全否定する勢いだった。
「助けるのは当たり前だろ。原田は大切な仲間だ。お前の辛い顔とか見たくねーんだよ」
真っ直ぐな目で龍彦は美紅を見る。
心配してくれる龍彦に、美紅は自分の気持ちを隠していることが恥ずかしくなった。
好きになってはいけない人を、好きになりかけていることが苦しくてたまらない。
「とにかく、みんなにはまだ言うなよ。もう少しゆっくり先のことを考えろ」
龍彦は、美紅が遠慮して焦っていると思っている。そんな美紅を一人に出来るわけがないと考えた。
「あー、腹減った。とりあえず飯が先!ほら、何飲むんだよ」
龍彦が話を変えてしまったので、美紅ももう何も言えないと思った。
とりあえず今夜は、自立する意思があることを伝えられただけ良かったと思うことにした。
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