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前に進む勇気
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美奈子との再会は、千秋にとって衝撃だった。
もう二度と会うことも、関わりを持つこともやめようと決めていたのに、まさか龍彦が関わる仕事に美奈子も関与していると思ってもみなかった。
まさに青天の霹靂である。
しかも龍彦の目を見た時、千秋はゾクリとした。
あの目は、どう考えても美奈子との関係を疑っている。もしくは気付いている。
美紅が美奈子の名前を知っていることから、もし龍彦の口から美奈子のことが話に出たらと千秋は不安になった。
そして、もし美紅が龍彦と付き合っているなら、龍彦と美奈子が関わりを持つことで傷つくのではないかと思案する。
もう、美紅を傷つけたく無いのに。
俺が全て悪かったのはわかっている。
だからもう、美紅を不安にさせたくない。
千秋はスーツからスマホを出すと指を滑らせ電話を掛ける。
その相手は、ちょうど仕事終わりの美紅だった。
スマホが鳴り、美紅はバッグからスマホを取り出した。
「!」
画面に出てきた西川千秋と言う名前に美紅は固まる。
出るか出ないか考えていたが、逃げる必要はないと美紅は電話に出た。
「……もしもし」
久しぶりに聞く美紅の声に千秋は緊張する。
『突然、ごめん』
「いえ」
『今、大丈夫?』
「ええ。何かあったの?」
美紅の声に千秋は一呼吸した。
『先日、真壁課長に会ってね。美紅をちゃんと諦めろって言われた』
わざわざそんな報告をなぜ?と美紅は思った。
『美紅は、今、付き合ってる男いるの?』
「え?」
千秋の電話の意図が分からず美紅は困惑する。
『亘理と付き合ってるの?』
美紅は千秋が知らなかったんだと知り、どう答えていいか分からず考える。
でもこの際、きちんと話しておいた方がいいと思った。
「……聞いてないんですね。たっ君もわざわざ言うタイプでもないけど」
美紅が龍彦をたっ君と呼ぶことに、千秋は胸がキリキリする。
分かっていたことだが、嫉妬でおかしくなりそうだった。
「私、亘理君と付き合ってます。もちろん、千秋さんときちんとお別れした後です」
『……そうだったんだね。ずっと気になってた。美紅がシェアハウスに移ってから、いつかこんな日が来るんじゃないかって』
千秋の言い方に、まるで龍彦と付き合うために、シェアハウスに移ったと言われているようで美紅はカッとなった。
「勘違いしないで。たっ君が好きだって気付いたのだって、千秋さんときちんと別れてからだから」
『ごめん、そう言うつもりで言ったんじゃないんだ。嫉妬。自分の不甲斐なさに腹立ててるだけ』
美紅は何も言い返せない。
千秋が浮気をしなければ、こんな話をすることもなかったのだから。
千秋以外の男を、本気で愛する日が来ることなどなかったはずなのだから。
『……美紅の口から、亘理とのこと聞けて良かった。これでモヤモヤすることもないよ。亘理が良い奴なのは俺も嫌でも分かってる。じゃあ』
「千秋さんッ!」
電話を切ろうとした時、美紅の声が聞こえて千秋は動きが止まる。
「もう心配してくれなくて大丈夫です。私、もう大丈夫だから。もう」
『うん。分かったよ。じゃあね』
美紅は言いたいことを言い切れなかったが、もう二度と千秋は電話をかけては来ないと思って、そのままバッグにスマホをしまった。
千秋は切れたスマホを見つめながら、美紅のために、龍彦には本当のことを話そうと決意した。
もう二度と会うことも、関わりを持つこともやめようと決めていたのに、まさか龍彦が関わる仕事に美奈子も関与していると思ってもみなかった。
まさに青天の霹靂である。
しかも龍彦の目を見た時、千秋はゾクリとした。
あの目は、どう考えても美奈子との関係を疑っている。もしくは気付いている。
美紅が美奈子の名前を知っていることから、もし龍彦の口から美奈子のことが話に出たらと千秋は不安になった。
そして、もし美紅が龍彦と付き合っているなら、龍彦と美奈子が関わりを持つことで傷つくのではないかと思案する。
もう、美紅を傷つけたく無いのに。
俺が全て悪かったのはわかっている。
だからもう、美紅を不安にさせたくない。
千秋はスーツからスマホを出すと指を滑らせ電話を掛ける。
その相手は、ちょうど仕事終わりの美紅だった。
スマホが鳴り、美紅はバッグからスマホを取り出した。
「!」
画面に出てきた西川千秋と言う名前に美紅は固まる。
出るか出ないか考えていたが、逃げる必要はないと美紅は電話に出た。
「……もしもし」
久しぶりに聞く美紅の声に千秋は緊張する。
『突然、ごめん』
「いえ」
『今、大丈夫?』
「ええ。何かあったの?」
美紅の声に千秋は一呼吸した。
『先日、真壁課長に会ってね。美紅をちゃんと諦めろって言われた』
わざわざそんな報告をなぜ?と美紅は思った。
『美紅は、今、付き合ってる男いるの?』
「え?」
千秋の電話の意図が分からず美紅は困惑する。
『亘理と付き合ってるの?』
美紅は千秋が知らなかったんだと知り、どう答えていいか分からず考える。
でもこの際、きちんと話しておいた方がいいと思った。
「……聞いてないんですね。たっ君もわざわざ言うタイプでもないけど」
美紅が龍彦をたっ君と呼ぶことに、千秋は胸がキリキリする。
分かっていたことだが、嫉妬でおかしくなりそうだった。
「私、亘理君と付き合ってます。もちろん、千秋さんときちんとお別れした後です」
『……そうだったんだね。ずっと気になってた。美紅がシェアハウスに移ってから、いつかこんな日が来るんじゃないかって』
千秋の言い方に、まるで龍彦と付き合うために、シェアハウスに移ったと言われているようで美紅はカッとなった。
「勘違いしないで。たっ君が好きだって気付いたのだって、千秋さんときちんと別れてからだから」
『ごめん、そう言うつもりで言ったんじゃないんだ。嫉妬。自分の不甲斐なさに腹立ててるだけ』
美紅は何も言い返せない。
千秋が浮気をしなければ、こんな話をすることもなかったのだから。
千秋以外の男を、本気で愛する日が来ることなどなかったはずなのだから。
『……美紅の口から、亘理とのこと聞けて良かった。これでモヤモヤすることもないよ。亘理が良い奴なのは俺も嫌でも分かってる。じゃあ』
「千秋さんッ!」
電話を切ろうとした時、美紅の声が聞こえて千秋は動きが止まる。
「もう心配してくれなくて大丈夫です。私、もう大丈夫だから。もう」
『うん。分かったよ。じゃあね』
美紅は言いたいことを言い切れなかったが、もう二度と千秋は電話をかけては来ないと思って、そのままバッグにスマホをしまった。
千秋は切れたスマホを見つめながら、美紅のために、龍彦には本当のことを話そうと決意した。
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