六本木の鴉-カラス-(鳴かない杜鵑 episode2)

五嶋樒榴

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今日は3月15日。真春の20回目の誕生日だった。

「おい、真春」

飯塚組長の声に、出掛ける準備をしていた真春はドアに目を向けた。

「何?俺、出掛けるよ。車借りるからね」

真春がそう言うと飯塚組長は何かを真春に投げた。
真春は受け取ったものを見ると車のキーだった。

「お前がこの家に来ることが決まって直ぐお前用の車を買っといた。昨日届いたんだ」

キーは見たことがない車のロゴが入っていた。

「成人の誕生日プレゼント。お前にプレゼントなんざこれが最後だな」

飯塚組長が笑いながら言うと、真春はびっくりして飯塚組長を見つめる。

「今日が20歳の誕生日だって覚えてたんだ。ありがとう!」

真春が嬉しそうにお礼を言うと、飯塚組長は満足そうに真春の部屋を後にした。
実際は真春の誕生日を覚えていたのではなく、家政婦長から、今日がたまたま真春の誕生日だと聞かされたのだった。
真春はどんな車をくれたのか、急いで支度を済ませるとガレージに向かった。
ガレージの入り口近くに新車のSUVが止まっていた。

「これかぁ。今まではセダンだったから、こっちの方が良いや」

真春は嬉しくなって、早く工が来ないかと待ち遠しかった。
今日は、工とのデートの日だったからだ。
六本木の鴉の解明に協力するご褒美として、真春はちょうど誕生日だった今日をその日に当てたのだった。
しばらくして、靴音が聞こえて来て真春はガレージの表に出た。

「遅くなりました。こちらにいると思わなかったので」

工がそう言うと、真春はワクワクした顔で工を手招く。

「見て見て!父さんからプレゼントに車貰ったんだ!」

嬉しそうに真春は言う。
工はガレージに入りその車を見て目を見開いて驚いた。

「これは…………」

「今日ね、俺の誕生日だったの!20歳の誕生日プレゼントだって!」

無邪気に言う真春に工は内心目眩がした。


これ、マセラティだろ。
誕生日プレゼントって、宝の持ち腐れだろ。
絶対真春さんは価値分かってねー。


目の前のイタリアの高級車に、工はどう反応して良いか分からなかった。
真春が誕生日だと言うことも初めて知り、それもどう反応して良いかわからなかったが、お祝いぐらい言ってあげようかと真春を見た。

「誕生日だったのですね。おめでとうございます」

工は真春に頭を下げた。
工から、おめでとうと言われただけで真春は嬉しくてたまらない。

「俺的には工からのご褒美はグッドタイミングだった!工に今日は1日お祝いしてもらうからね!早く出発しよう」

嬉しそうに真春は言うと、マセラティの鍵を工に渡す。工は鍵を開けると助手席のドアを開けた。

「どうぞ」

工は真春を車に乗せ、自分は運転席に座った。

「シートベルト」

真春がそう言うと、工はヤレヤレと思いながらシートベルトを着けてあげる。
間近に工の顔が近付いて真春はドキドキした。

「…………工、今日が終わるまで一緒にいて。今日だけは俺のことだけ考えて」

恥ずかしそうに真春が言う。
工は真春を見つめながらフッと笑った。

「全く、20歳になっても甘えん坊だ」

工はそう言ってハンドルを握った。一瞬でも優しい顔の工が見れて真春はドキドキが激しくなる。
車はガレージを出て門を抜けると、まだ行くあても決まっていないが走り出した。

「さて、どちらに向かいましょうか?今日は真春さんの言う事を出来る限り叶えますよ」

真春は特に行きたい場所もなかった。
ただ工を独占して、ふたりだけの時間を過ごしたかった。

「出来る限りじゃヤダ。絶対叶えてもらう」

ムッとしながら真春が言うと工はフッと息を吐く。

「だって無理難題言いそうですから?出来ないことは出来ないと言っておかないと」

現実的な事を言われて真春は面白くない。

「無理難題言わないよ。本当はこうしてふたりでずっと車の中に居たっていいんだ。工がそばに、1日ずっといてくれるだけで嬉しいんだ」

自分でも欲が無いと思いながら、本当にそれが第一だった。

「工はどうせ俺が、その…………キス、とか、強請るって思ったんでしょッ!」

真っ赤になって真春は言う。

「はい」

間髪入れずに工は答える。
真春はぐうの音も出ない。

「そりゃ、して欲しいよ!好きだもん!工が!でも、工が嫌がることは望まない!」

真春が真っ赤になったまま俯く。
工は右手を伸ばすと真春の頭を撫でた。

「…………そう言うところは好きです」

ボソリと工が呟くと、真春は頭の上の工の手を握った。

「ズルいよ。そんなこと言われたら、もっと好きになってもらえるように頑張っちゃうじゃん」

ドキドキしながら真春は言う。
信号が赤になり、工は優しくブレーキを踏んだ。

「…………頑張らなくて良いです」

工は真春を見つめた。
真春も工をジッと見つめる。

「ったく。小動物の様な目で直ぐ見る」

工は真春の手を解いた。

「ヤダ!手、繋いでいたい!手ぐらい良いでしょ!」

真春は工の指に指を絡ませてくる。

「運転しにくいんです」

信号が青に変わり、工はアクセルを踏む。
それでも真春に手を握られるのを無理に振り解かない。

「…………じゃあ、どこかに車停めて」

真春のおねだりに、工は無言でしばらく車を走らせ、羽田空港近くの公園の駐車場に入った。日曜日のせいか、そこそこ車が駐車している。
工がパーキングブレーキを入れると、真春は工の大きな掌を握って自分の頬に触れさせた。
真春はジッと工を無言で見つめる。
その愛らしい顔を見ていると、工は辛くなってくる。
大きな瞳が自分を見つめ、素直に甘えて愛情表現を示されると、真春の顔と乙也がダブってしまう。

「…………真春さん。いつまでこうしてるつもりですか?」

どうしても乙也が浮かんでしまって、工は胸が締め付けられて辛くなる。

「…………ずっと」

「イヤです」

スパッと言われて真春は頬を膨らませる。

「もう!少しは俺にときめいてよ!俺、結構可愛いと思うんだけどな!工は可愛い系は嫌いなのかよッ!」

真春の言葉に工は目が点になる。
自分で可愛いと自覚があるんだと吹き出して笑いそうになり、工は口元に握り拳を当てた。

「…………敵わないなぁ。ズルいのはあなただ」

工は呟くと窓の外に目を向けた。
駐車場の先の芝生で、サッカーをする少年達が目に入った。
その風景に懐かしい気持ちになる。


ああ、きっと昔の俺なら、今の真春さんのセリフに大笑いしてたんだろうなぁ。


自分がまだ素直に笑顔でいられた頃、もうはっきり名前も顔も覚えてはいないが、雨の日に出会った、サッカーボールを持っていた美少年の顔がフッと朧気に浮かび、目の前の可愛い真春と重なった。

「20歳になったのに、まだまだ子供なんだから」

工は真春の頬に自分から右手で触れて優しい目で見つめた。
真春は切なそうに笑う。

「工、好き」

真春は工の胸に顔を埋め抱きつく。
工は抱きしめ返しはしないが、真春の頭をポンポンとするとしばらく真春の好きにさせ、これも自分に課された罰なのかと受け入れた。
その後夜まで工も観念して、午前0時まで真春をギリギリのラインで甘えさせた。
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