六本木の鴉-カラス-(鳴かない杜鵑 episode2)

五嶋樒榴

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深夜に、真春は工が病院を抜け出した事を知った。
夜中に巡回した看護師が、工がいなくなった事を直ぐに報告したのだった。
確かに退院できるほど体は回復しているが、それでも普通の生活に直ぐ戻れるほど体力が戻っているわけではない。
真春はすぐ様工のアパートに向かったが、もちろんアパートには工の姿は無かった。工に何度電話をかけても、電源が落とされていて繋がらない。
真春は渋々、真夜中に真幸に連絡を取り真幸の元にやって来た。

「工が?ナニナニ?お前、何か工を怒らせたか?」

真幸は、真春をいたぶる様な口調で言う。

「怒らせてなんかいない。ただ、昨日は……」

工の告白を素直に真幸に話したくなかった。

「何があったんだよ。俺のところに工がいると思って来たんだろ?」

図星だった。
自分の前から姿を消し、もしかしたら真幸の元に戻ったのではと思ったのだ。

「言っとくが工は居ねぇよ。病院抜け出したって事は、もうお前の元にも、俺の元にも戻らないと決めたんだろうな」

真幸の言葉に真春は黙る。
自分が知りたいと思った事は、知ってはいけなかった事だったんだと、今更ながらに分かった。
どうして、話させてしまったんだろうと後悔する。聞きたくないと逃げれば良かったと自分を責める。

「…………どうして、そんなになんでもない顔が出来るの?工が消えたんだよ?」

あくまでも冷静な真幸に真春は尋ねる。

「仕方ねーだろ。あいつは組のモンじゃねぇ。元々五島組長の用心棒だ。あいつが普通の生活に戻りたいなら、止める理由はねぇんだよ」

「違う!工は普通の生活がしたいんじゃない!死ぬつもりなんだよ!もう俺を守る理由も真幸さんを守る理由もないから!だから、乙也って人の話を俺にしたんだ!」

真っ赤になって悔しそうに真春は言う。

「乙也って何モンだ」

言いたくなかったが、工をどうしても見つけたいと思った。
真幸の力を借りなければ、無理だと思ってここに居るんだと真春は認めた。

「…………乙也って人は工の恋人だった人だよ。工が刑務所に入ったのも、その人を守れなかったせいだ。その人、亡くなったんだ。それを工は自分のせいだと思ってる。助けられなかったことを悔やんでる」

真春は俯いた。

「工が縛られていた相手か。まぁ、なんとなく、あいつがああいう奴なのは、そんなこったろーとは思っていたけどな」

真幸は煙草を口に咥える。

「とても大切な人だったんだ。とても愛していたんだよ。俺なんかが眼中にないほど。そうだよね。俺は工に鬱陶しいと嫌われていたんだから」

真春は自虐的に言う。真幸は何も言わず煙草をただ吸っている。

「本当は、少し期待してたんだ。少しは俺の事、好きなんじゃないかって。ちょっとした事で俺は馬鹿みたいに期待して、だけど、工にしたら、真幸さんが命令したから俺のそばに居ただけだし、俺は工のお荷物だっただけだし」

グズグズと真春は半ベソになる。

「ああ、鬱陶しいわ。つーか、めでたい奴だよなぁ」

容赦ない真幸の言葉に、真春は恥ずかしくなる。

「工がお前を好き?ポジティブだよねぇ。だったら工は姿消す訳ねーだろ?もうお前の面倒を見るのが嫌になったんだよ。工が居なくてもお前の面倒見る奴はいくらでもいるんだからさぁ」

半笑いで真幸は辛辣な言葉を浴びせ続ける。

「分かってる!だけど俺には工が必要なんだよ!工が好きなんだ!ずっと工に側にいて欲しいんだよ!」

ムキになって真春は言う。

「お前が言う、工が好きって言うのは、どう言う好きなんだ?」

真幸の静かな口調に真春はドキッとする。

「分かってんだろ?工は男が好きな男だ。お前の好きはどう言う好きなんだよ」

核心に触れることを真幸に尋ねられ、真春は真っ直ぐ真幸を見る。

「俺は、工が好きだ。工の恋人になりたい」

真幸にそう告白するのは恥ずかしくなかった。

「…………やれやれ。全く。似たモン同士が集まりやがって」

真幸の意味深な言葉に、真春は真っ赤になる。

「それって、真幸さんも工が好きって事?真幸さんと工って、関係があったの?」

聞きたくなかったが、もう避けて通りたくなかった。
真幸と工の関係もきちんと聞きたかった。

「俺と工の関係は、お前に何か関係があるか?お前に言う必要があるか?お前が一方的に工に恋慕してるだけだろ?」

真幸はそう突き放すと、煙草を揉み消して真春を見つめる。

「いなくなった奴のことはもう忘れろ。お前は工と知り合う前に戻れば済むことだ。もう工を追うのもやめろ」

一方的な言葉に真春は納得がいかない。
真幸と工の関係も結局分からず終い。

「もういい!俺は勝手に工を探す!ひとりで絶対探してみせるから!」

真春は真幸のマンションを飛び出した。
玄関を出ると、工の代わりにずっとボディガードになっている飯塚組長の子分が待っていた。

「工を探しに行く。もう一度工のアパートに向かって」

真春がそう言うと子分は首を振る。

「もう諦めてください。組長がこれ以上は許しません」

今の自分は、なんて非力なんだと真春は思い知った。
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