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熱い水
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流星はヘアーサロンに来て待合で雑誌を見ていた。
「お久しぶりですね、流星さん。3ヶ月ぶりなんて珍しい」
若きイケメンオーナーはにっこり微笑む。
「最近ずっと忙しくて。久しぶりの休みで家でボーッとしてたんだけど、髪の毛気になっちゃってさ」
流星も微笑みながら応える。
「では先にシャンプーを。裕貴、頼む」
ユキと呼ばれた若い男が流星の前に現れた。
背の高い甘いマスク。女性客に人気がありそうだと流星は思った。
「初めてだね。咲花です」
「初めまして。裕貴です。流星さんて呼んで良いですか?」
「どうぞ」
流星はにっこり笑った。
シャンプー台の椅子に腰掛けると顔にフェイスガーゼをかけられる。耳元でシャワーの音が響いた。
「失礼します」
目を瞑って声を聞くとあまりのイケメンボイスに、流星は少しだけ恥ずかしくなった。
「熱くないですか?」
裕貴の言葉に流星は頷く。
シャワーで髪をすすぎ、シャンプーで髪の毛を洗いだした。程よい力加減で気持ちよかった。
「力加減、いかがですか?」
「大丈夫だよ」
シャンプーの泡を流していく。耳に触れられてビクッと反応してしまった。
「すみません。耳、痛かったですか?」
「違う違う。くすぐったかっただけ」
流星の言葉に裕貴はホッとしたようだった。
コンディショナーも終わり、流星の椅子が元に戻った。
「どうぞこちらに」
言われるまま付いていく。オーナーが待ち受けていた。
「さて、どんな髪型にしますか?」
「お任せで。もう夏だからサッパリできれば良いよ」
「了解です」
オーナーのハサミが走り出した。滑らかに指が動いている。
だんだん髪が短くなり軽くなってきた。
ふと視線を感じて、鏡を見て視線の先を見つめる。
裕貴が優しい瞳で流星を見ていた。
若いよね。
勉強熱心なんだなー。
ああ見えて、女の子に対してはすげータラシだったり。
流星はついクスッと笑ってしまった。
「どうしました?急に笑って。思い出し笑いですか?」
オーナーに尋ねられて、まさか妄想の中の裕貴で笑ったとも言えず頷いた。
「うん、ちょっと思い出し笑い」
誤魔化して照れ笑い。
「すごく楽しかったんでしょうね。本当に楽しそうな顔でしたよ」
「あまり言わないで。恥ずかしい」
流星の照れた顔を裕貴も微笑んでいる。ヘアーサロンの中は和やかになった。
会計を済ませて流星は店を出た。髪を切っただけで、気持ちも楽になった。
自分の中もリセットされた気がした。
ヘアーサロンを出てカフェでお茶でもして帰ろうと歩いていると、息を切らしたイケメンボイスが流星を呼んでいて流星は振り返る。
「すみません!オーナーがお釣り間違えたって、言うんで」
ハァハァ息を整えながら、甘い笑顔で裕貴は言う。
「あれ?そうなの?」
「お釣り少なく渡したって」
流星もいくら財布から出したか分からなかった。
「わざわざありがとう」
流星は裕貴からお金を受け取る。
「いえ、俺、流星さんに会えて嬉しかったです。店のホームページに載ってる流星さん見て、すげー素敵な人だって思ってたし。俺まだアシスタントですが、いつか俺に流星さんの髪を切らせてください」
前にオーナーに泣きつかれてヘアモデルの1人として、ホームページに載ることをオーケーした事を思い出した。
「裕貴君はアシスタント何年め?」
「俺、今年専門卒業して、この4月から今のサロンに入ったんです。まだまだアシスタントでも下っ端です」
照れながら裕貴は言う。
この顔で背も高くて、モデルでも食えそうなのにと流星は思った。
「将来はオーナーみたいなスタイリストになりたいんです。だから頑張るだけです」
若くてキラキラして、流星には眩しかった。
「うん、頑張ってね。また店行くから」
裕貴は嬉しそうに、はい、と返事をした。
裕貴と別れ、流星はカフェに入った。
疾風からメールが来ていた。
【鍵返された事怒っていないよ。でも俺の中でも答えが出た。お互い、好きな奴のために、もう会うのはやめよう】
疾風からのメールを読んで、流星はフッと笑ったが、自然と涙がこぼれた。
好きな奴のため。
流星も疾風が好きだと気づいたのに、もう本当に遅かった。
疾風が幸せになるなら、もう何も言わずに身を引こうと思った。
今まで甘えてきたツケが回ってきたんだと流星は思い知った。
【今までありがとう。お互い、幸せになろーぜ】
メールを返信すると、涙を拭いカフェラテを飲んだ。
「お久しぶりですね、流星さん。3ヶ月ぶりなんて珍しい」
若きイケメンオーナーはにっこり微笑む。
「最近ずっと忙しくて。久しぶりの休みで家でボーッとしてたんだけど、髪の毛気になっちゃってさ」
流星も微笑みながら応える。
「では先にシャンプーを。裕貴、頼む」
ユキと呼ばれた若い男が流星の前に現れた。
背の高い甘いマスク。女性客に人気がありそうだと流星は思った。
「初めてだね。咲花です」
「初めまして。裕貴です。流星さんて呼んで良いですか?」
「どうぞ」
流星はにっこり笑った。
シャンプー台の椅子に腰掛けると顔にフェイスガーゼをかけられる。耳元でシャワーの音が響いた。
「失礼します」
目を瞑って声を聞くとあまりのイケメンボイスに、流星は少しだけ恥ずかしくなった。
「熱くないですか?」
裕貴の言葉に流星は頷く。
シャワーで髪をすすぎ、シャンプーで髪の毛を洗いだした。程よい力加減で気持ちよかった。
「力加減、いかがですか?」
「大丈夫だよ」
シャンプーの泡を流していく。耳に触れられてビクッと反応してしまった。
「すみません。耳、痛かったですか?」
「違う違う。くすぐったかっただけ」
流星の言葉に裕貴はホッとしたようだった。
コンディショナーも終わり、流星の椅子が元に戻った。
「どうぞこちらに」
言われるまま付いていく。オーナーが待ち受けていた。
「さて、どんな髪型にしますか?」
「お任せで。もう夏だからサッパリできれば良いよ」
「了解です」
オーナーのハサミが走り出した。滑らかに指が動いている。
だんだん髪が短くなり軽くなってきた。
ふと視線を感じて、鏡を見て視線の先を見つめる。
裕貴が優しい瞳で流星を見ていた。
若いよね。
勉強熱心なんだなー。
ああ見えて、女の子に対してはすげータラシだったり。
流星はついクスッと笑ってしまった。
「どうしました?急に笑って。思い出し笑いですか?」
オーナーに尋ねられて、まさか妄想の中の裕貴で笑ったとも言えず頷いた。
「うん、ちょっと思い出し笑い」
誤魔化して照れ笑い。
「すごく楽しかったんでしょうね。本当に楽しそうな顔でしたよ」
「あまり言わないで。恥ずかしい」
流星の照れた顔を裕貴も微笑んでいる。ヘアーサロンの中は和やかになった。
会計を済ませて流星は店を出た。髪を切っただけで、気持ちも楽になった。
自分の中もリセットされた気がした。
ヘアーサロンを出てカフェでお茶でもして帰ろうと歩いていると、息を切らしたイケメンボイスが流星を呼んでいて流星は振り返る。
「すみません!オーナーがお釣り間違えたって、言うんで」
ハァハァ息を整えながら、甘い笑顔で裕貴は言う。
「あれ?そうなの?」
「お釣り少なく渡したって」
流星もいくら財布から出したか分からなかった。
「わざわざありがとう」
流星は裕貴からお金を受け取る。
「いえ、俺、流星さんに会えて嬉しかったです。店のホームページに載ってる流星さん見て、すげー素敵な人だって思ってたし。俺まだアシスタントですが、いつか俺に流星さんの髪を切らせてください」
前にオーナーに泣きつかれてヘアモデルの1人として、ホームページに載ることをオーケーした事を思い出した。
「裕貴君はアシスタント何年め?」
「俺、今年専門卒業して、この4月から今のサロンに入ったんです。まだまだアシスタントでも下っ端です」
照れながら裕貴は言う。
この顔で背も高くて、モデルでも食えそうなのにと流星は思った。
「将来はオーナーみたいなスタイリストになりたいんです。だから頑張るだけです」
若くてキラキラして、流星には眩しかった。
「うん、頑張ってね。また店行くから」
裕貴は嬉しそうに、はい、と返事をした。
裕貴と別れ、流星はカフェに入った。
疾風からメールが来ていた。
【鍵返された事怒っていないよ。でも俺の中でも答えが出た。お互い、好きな奴のために、もう会うのはやめよう】
疾風からのメールを読んで、流星はフッと笑ったが、自然と涙がこぼれた。
好きな奴のため。
流星も疾風が好きだと気づいたのに、もう本当に遅かった。
疾風が幸せになるなら、もう何も言わずに身を引こうと思った。
今まで甘えてきたツケが回ってきたんだと流星は思い知った。
【今までありがとう。お互い、幸せになろーぜ】
メールを返信すると、涙を拭いカフェラテを飲んだ。
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