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膨よかな水
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御笠グループの沖縄リゾート開発事業の計画は10年前から始まっていた。
それがやっと実を結び、完成されたのだった。
ホテルはもちろん、ショッピングモール、テーマパークなどを建設。昔からの沖縄の雰囲気を壊すことなく現代との融合を実現したのだった。
海の日に行われる完成披露パーティー、マスコミや招待客に向けたプレオープン、そしてオープンを待つだけとなったのだった。
「社長、明日のパーティーの件ですが」
ホテルの部屋に流星が入ってきた。
泉水は夜の海を眺めていたが、流星に目を向けた。
細かい最終チェックが終わり流星を見つめた。
ワタルとの出会いから色々あり、自分の中で求めていた流星が、やっと1人の部下として見られるようになったと泉水は思った。
それは流星も同じだった。
泉水に対して上司以上の感情を抱き、泉水の相手に嫉妬を繰り返していたはずが、実は自分が本当に愛していたのは疾風と知り、泉水に対しては憧れと尊敬だったと知ったのだった。
「明後日の午前中の飛行機で東京に戻ります。滞在中かなりハードにはなりますが体調を整えてください」
「分かった。明日のパーティーよろしく頼むよ」
流星は一礼して部屋を出て行った。
泉水は1人になるとワタルへメールを送った。
【やっと寛いでいるところ。私が留守の間、家のことはよろしく頼むよ】
しばらくして返信が来た。
【今から家に帰るよ。今夜は僕の大好きなグラタンだって。泉水さんは安心して仕事頑張ってね(ハート)】
ワタルのメールを読んで、泉水は本当に癒された気持ちだった。
一夜明け、朝からスタッフはバタバタと仕事をこなしていた。
泉水は集まり始めた来賓に挨拶をして周り、最終チェックの報告を受けていた。
「泉水さん!この度はおめでとうございます」
声の方に振り向く。
黒崎グループの専務、黒崎聖だった。現在30歳だがまだ結婚はしておらず、泉水より長身の正統派のイケメンである。
「聖君!凄く久しぶりだね!会長や社長はお元気ですか?」
「はい。2人とも呑気なものです。今日は、泉水さんに会いたくて私がこちらに来させてもらいました」
御笠家と黒崎家は、日本屈指の大財閥であり日本を代表する大企業でもある。
日本はもちろん世界での影響力も強い。
「日本に戻って半年ぐらい経ちましたか?ずっとアメリカだったよね?」
「はい。アメリカの大学を卒業して、そのままうちの支社に就職して今年の2月に日本に戻って参りました」
聖が日本にいた時も、せいぜい会うのは年に一度くらいだったので、この再会は10年以上ぶりだった。
「これからのお付き合いもありますので、東京に戻ったら、ぜひ一緒にお食事でもお願いします」
「こちらこそ。またこのリゾート全体の評価もよろしくね」
2人は雑談を終え一時離れた。
「社長、県知事があちらにお見えです」
流星に声をかけられ、泉水は仕事モードに戻った。
一部のマスコミやプレスにも、この完成披露パーティーのインタビューに時間を設定して許可を出していた。
全ての仕事をこなし、泉水はようやく解放された。
ホテルの部屋に1人になると、疲れが一気に押し寄せ早く東京に戻りたかった。
ワタルに会いたくて仕方なかった。
いつから、こんなにもワタルの存在が大きくなったのだろう。
ワタルだけを愛してると自覚してから、ワタルが離せなくなっている。
いつまでこの関係を続けて居られるのだろうか。
なぜか今夜は、ワタルがいつか自分の元を離れて行く日が来るような気がしてならなかった。
手に入れると、それを逃したくないという不安の表れでもあった。
でもどこかで、ワタルなら自分を置いて出て行くことはないと信じている自分もいる。
母親に捨てられたようにワタルに捨てられたら、もう立ち直れないと思った。
目を瞑って母親を描いても顔が思い浮かばない。
36年間、一度も会ったことがない母。
なぜ母親は、愛してもいない父親と結婚したのだろうかと考える。
今は日本にいるのかも分からない。
自由奔放に生き、子供である泉水を捨てた。
たまに会う父親は母親のことには一切触れない。
自分を生むためだけに結婚したということだけは分かっている。
御笠の家のためだけに、この世に生を受けた事だけは泉水も認識している。
失うものがない時は平気だったことが、慣れない土地にいるせいか、なぜか今夜は孤独に耐えきれない泉水だった。
ベッドの上でスマホを触る。
ワタルに電話をかける。
しばらくすると、ワタルが電話に出た。
『泉水さん。どうしたの?』
突然の電話にワタルは驚く。
「なんだか、ワタルの声が聞きたくなった。明日の夜には会えるけど我慢できなくて」
泉水の電話がワタルはとても嬉しかった。
『僕も早く泉水さんに会いたい。泉水さんが居ないと、この家って本当に大きくてさ。泉水さんと早く会いたいよ』
ワタルの声に泉水は癒される。
「明日の夜、仕事?」
『うん。ちょっと遅くなるかも。なるべく早くに家に帰るようにするね』
「分かったよ。おやすみ」
泉水の寂しそうな声にワタルは締め付けられる。
『泉水さん、何かあったの?』
「んー。どうしてもワタルに会いたい。会いたくてたまらなくなった」
泉水はそう言って目を掌で覆う。
「自分で思ってる以上に、私は寂しがり屋なのかも」
笑いながら泉水は言う。
『帰ってきたら、いっぱい甘やかしてあげる』
「うん。そうしてくれ」
『大好きだよ』
ワタルの言葉に癒される。
「私も大好きだよ」
ワタルの声を聞いて、例えワタルが離れたいと言っても、もう絶対離したくないと思った。
それがやっと実を結び、完成されたのだった。
ホテルはもちろん、ショッピングモール、テーマパークなどを建設。昔からの沖縄の雰囲気を壊すことなく現代との融合を実現したのだった。
海の日に行われる完成披露パーティー、マスコミや招待客に向けたプレオープン、そしてオープンを待つだけとなったのだった。
「社長、明日のパーティーの件ですが」
ホテルの部屋に流星が入ってきた。
泉水は夜の海を眺めていたが、流星に目を向けた。
細かい最終チェックが終わり流星を見つめた。
ワタルとの出会いから色々あり、自分の中で求めていた流星が、やっと1人の部下として見られるようになったと泉水は思った。
それは流星も同じだった。
泉水に対して上司以上の感情を抱き、泉水の相手に嫉妬を繰り返していたはずが、実は自分が本当に愛していたのは疾風と知り、泉水に対しては憧れと尊敬だったと知ったのだった。
「明後日の午前中の飛行機で東京に戻ります。滞在中かなりハードにはなりますが体調を整えてください」
「分かった。明日のパーティーよろしく頼むよ」
流星は一礼して部屋を出て行った。
泉水は1人になるとワタルへメールを送った。
【やっと寛いでいるところ。私が留守の間、家のことはよろしく頼むよ】
しばらくして返信が来た。
【今から家に帰るよ。今夜は僕の大好きなグラタンだって。泉水さんは安心して仕事頑張ってね(ハート)】
ワタルのメールを読んで、泉水は本当に癒された気持ちだった。
一夜明け、朝からスタッフはバタバタと仕事をこなしていた。
泉水は集まり始めた来賓に挨拶をして周り、最終チェックの報告を受けていた。
「泉水さん!この度はおめでとうございます」
声の方に振り向く。
黒崎グループの専務、黒崎聖だった。現在30歳だがまだ結婚はしておらず、泉水より長身の正統派のイケメンである。
「聖君!凄く久しぶりだね!会長や社長はお元気ですか?」
「はい。2人とも呑気なものです。今日は、泉水さんに会いたくて私がこちらに来させてもらいました」
御笠家と黒崎家は、日本屈指の大財閥であり日本を代表する大企業でもある。
日本はもちろん世界での影響力も強い。
「日本に戻って半年ぐらい経ちましたか?ずっとアメリカだったよね?」
「はい。アメリカの大学を卒業して、そのままうちの支社に就職して今年の2月に日本に戻って参りました」
聖が日本にいた時も、せいぜい会うのは年に一度くらいだったので、この再会は10年以上ぶりだった。
「これからのお付き合いもありますので、東京に戻ったら、ぜひ一緒にお食事でもお願いします」
「こちらこそ。またこのリゾート全体の評価もよろしくね」
2人は雑談を終え一時離れた。
「社長、県知事があちらにお見えです」
流星に声をかけられ、泉水は仕事モードに戻った。
一部のマスコミやプレスにも、この完成披露パーティーのインタビューに時間を設定して許可を出していた。
全ての仕事をこなし、泉水はようやく解放された。
ホテルの部屋に1人になると、疲れが一気に押し寄せ早く東京に戻りたかった。
ワタルに会いたくて仕方なかった。
いつから、こんなにもワタルの存在が大きくなったのだろう。
ワタルだけを愛してると自覚してから、ワタルが離せなくなっている。
いつまでこの関係を続けて居られるのだろうか。
なぜか今夜は、ワタルがいつか自分の元を離れて行く日が来るような気がしてならなかった。
手に入れると、それを逃したくないという不安の表れでもあった。
でもどこかで、ワタルなら自分を置いて出て行くことはないと信じている自分もいる。
母親に捨てられたようにワタルに捨てられたら、もう立ち直れないと思った。
目を瞑って母親を描いても顔が思い浮かばない。
36年間、一度も会ったことがない母。
なぜ母親は、愛してもいない父親と結婚したのだろうかと考える。
今は日本にいるのかも分からない。
自由奔放に生き、子供である泉水を捨てた。
たまに会う父親は母親のことには一切触れない。
自分を生むためだけに結婚したということだけは分かっている。
御笠の家のためだけに、この世に生を受けた事だけは泉水も認識している。
失うものがない時は平気だったことが、慣れない土地にいるせいか、なぜか今夜は孤独に耐えきれない泉水だった。
ベッドの上でスマホを触る。
ワタルに電話をかける。
しばらくすると、ワタルが電話に出た。
『泉水さん。どうしたの?』
突然の電話にワタルは驚く。
「なんだか、ワタルの声が聞きたくなった。明日の夜には会えるけど我慢できなくて」
泉水の電話がワタルはとても嬉しかった。
『僕も早く泉水さんに会いたい。泉水さんが居ないと、この家って本当に大きくてさ。泉水さんと早く会いたいよ』
ワタルの声に泉水は癒される。
「明日の夜、仕事?」
『うん。ちょっと遅くなるかも。なるべく早くに家に帰るようにするね』
「分かったよ。おやすみ」
泉水の寂しそうな声にワタルは締め付けられる。
『泉水さん、何かあったの?』
「んー。どうしてもワタルに会いたい。会いたくてたまらなくなった」
泉水はそう言って目を掌で覆う。
「自分で思ってる以上に、私は寂しがり屋なのかも」
笑いながら泉水は言う。
『帰ってきたら、いっぱい甘やかしてあげる』
「うん。そうしてくれ」
『大好きだよ』
ワタルの言葉に癒される。
「私も大好きだよ」
ワタルの声を聞いて、例えワタルが離れたいと言っても、もう絶対離したくないと思った。
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