鳴かない杜鵑-ホトトギス-(鳴かない杜鵑 episode1)

五嶋樒榴

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渋い水

5

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半田組の組長半田は、妻のクラブに真幸がきたことが面白くなかった。
確かに上納金は遅れているが、それを会長からではなく、弟分から催促を受けたことが何より面白くない。

「クッソ!何が飯塚組長の孫だ!でけぇツラしやがって!」

半田はむしゃくしゃしてテーブルを足で蹴る。

「でもあんた、本当にそろそろヤバくない?もし組を潰されでもしたら」

「五月蝿ぇ!黙っとれや!」

そんな事、いちいち言われなくても分かっている。代紋を維持するには金が必要なことも。

「でけぇ詐欺でもかけるしかねぇか。だがなんだ。何か手を考えねぇと」

ガキを使った“オレオレ詐欺”も、最近は金融機関が厳しくなり、騙すにもそれなりの能力が必要になってきた。
もちろん白竜の二の舞にはなりたくないので薬に手を出すつもりもなかった。

「不動産か。バブルの時のようにすぐ土地が転がせる時代なら地上げ屋も楽だったんだがな」

地上げ屋を閃いて、半田は思いついた。

「そうか、地面師って手があったなぁ。確か、伊丹会長が、地面師グループとコンタクト取ってたじゃねーか?」

半田は慌ててスマホの連絡帳を開く。

「そうだ、こいつが確かリーダーだ」

伊丹が地面師グループと会う時、半田が接触役を引き受けたのだった。
半田はダメ元と地面師グループのリーダーの男に電話をかける。

『はい?どちらさん?』

半田は電話が繋がり、ゴクリと生唾を飲む。

「誠竜会傘下、半田組組長の半田だ」

『ほぉう。誠竜会と言えば、先日会った伊丹さんトコの』

「実は頼みがある。土地はこっちで探すから、動いてもらえねーか?」

地面師グループのリーダーは、考えている。

『安っぽい仕事はしないよ。最低でも20億』

「分かった。こっちの取り分は?2割で良い」

『1割。こっちは騙すのに金がかかるんだ。伊丹さんともそれで交渉決裂した』

「せめて1割五分」

『何事も半端は嫌いでね。1割。金が欲しけりゃ、50億は探して来いや』

半田は黙る。

「分かった。1割で。本当に1割くれるんだな?」

『もちろん。あんたのバックには結局政龍組が付いてる。あんたまで騙して敵を増やしてもこっちも面倒だしね。期限は1週間。その間に土地を探しとくれ』

地面師グループのリーダーと電話を終えると、半田はみかじめ料を取っている、新宿のセントラル不動産に電話をかけた。この不動産屋は裏で風俗店も経営していた。

「半田だ。社長、みかじめ料の事なんだけどさ、こっちの言うこと聞いてくれたら、あの店1年間ただにしてやるぜ」

セントラル不動産との交渉は楽だった。後は土地を見つけるだけ。
そして肝心のカモだ。
美味しい餌に飛びつく大手企業を探さなければならない。
半田は一世一代の大勝負に出ることにした。
まずはなるべくイカツイ顔をしていない舎弟2人に、セントラル不動産の社員になり済まさせて名刺を持たせる。

「お前は笹原だ。名前間違えるなよ」

半田が言うと、笹原と呼ばれた年配の男は笑って頷く。

「組長!俺は?俺の名刺」

若い男が調子よく言う。

「お前のはねーよ。笹原をちゃんとサポートしろよ」

ちぇーッと悔しがる。

「とりあえず、手の空いてる奴らは法務局行って、広大な土地の所有者の要約書を取りまくれ。差押と乙区ってのが何も付いてねー土地がターゲットだ。土地が見つかったら今度は所有者の身元調査だ。入院してるような年寄りを狙え。分かったな!」

めんどくせーと内心思いながら手の空いている舎弟達は事務所を出て行った。

「組長、伊丹会長から電話です」

半田組の若頭が電話を取り次ぐ。もう聞きつけたのかと半田はギクリとした。

「変わりました、半田です」

『おう、最近ツラ見せねーが、そんなに忙しいんかぁ?なんだか寂しいじゃねぇか』

わざとらしいと半田は苦虫を噛み潰したよう顔になる。

「すいません会長。ちょっと急ぎの大口の話がありまして」

『ああ、地面師と仕事すんだろ?まあせいぜい足つかねーようになぁ』

「はい」

『カモを見誤るなよ。じゃあな』

激励なのか警告なのか半田は分からなかったが、この仕事は伊丹公認と思い、地面師と手を組んだのは間違いではなかったと半田は確信した。
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