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清らかな水
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青山墓地のすぐ近くの青山の画廊の前で、泉水はプライムの社長田嶋伊織と待ち合わせをしていた。
流星も付き添うと言ったが、せっかくの休みの日に可哀想だと思い、今日は泉水だけでやってきた。
「お待たせしてすみません!」
伊織は眼鏡をかけた知的なクールなイメージだったが、今日はスーツではないせいか爽やかイケメンで現れた。
「お休みの日に付き合わせてすみませんでした」
泉水は恐縮する。
「いえ、私も何か掘り出し物があれば購入したいと思っているので、お気になさらないでください」
伊織は礼儀正しい好青年のイメージだった。
伊織が先に画廊の中に入った。
落ち着きのある老紳士のオーナーが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、田嶋様。御笠様までご紹介いただいて光栄です」
和やかな雰囲気で、オーナーは丁寧に画家達の作品を説明してくれた。
「こちらがおススメの画家です。ジョー・クラノ。まだ35歳ですが、ニューヨークでも活躍しております」
近代アート美術館にも所蔵されていると言う画家の絵だった。
「スタイリッシュだと思いませんか?」
楽しそうに伊織は言うが、泉水には良さが分からない。笑ってごまかす。
「難しいですよね、見慣れませんと」
優しくオーナーは言ってくれた。
「どの様な絵をお探しですか?」
「実は、新たに芸能事務所を立ち上げまして、その事務所に飾りたいと。所属しているのはまだ男性モデルとピアニストの2人なんですが」
泉水が言うとオーナーは驚く。
「もしかして、夕月美緒が所属している事務所でしょうか?最近美緒さんが芸能事務所に所属したと聞いて気になっていたんですが。私、美緒さんのファンなんです」
泉水が頷くと、さすが芸術家には詳しいらしいオーナーは、嬉しそうな顔をした。
「ありがとうございます。美緒も喜ぶと思います」
「モデルさんとピアニスト、ですか。お二人とも男性ですからね、どんな絵がよろしいかなぁ」
俄然探す事にオーナーは意欲を見せる。
泉水はふと1枚の絵が目に飛び込んできた。
ピンク色のグラデーションが中心に向かうとだんだん濃くなり、最後は太陽の様なオレンジ色になっている。
「気になりましたか?」
オーナーが優しい目で言う。
「ええ。なんだか、優しい気持ちになる絵だなって」
「ハワイから帰ったばかりのイラストレーターの作品なんですよ。ヒメコって言います。26だったかな」
女性なんだと分かり、泉水はこのタッチに納得した。
「こちら頂けますか?おいくらでしょう」
「8万円になります」
手頃な値段だと泉水は購入を決めた。事務所の受付に飾ろうと決めた。
「後はいかがなさいますか?私のイメージでのお勧めはこちらですが」
やはりジョーの絵をオーナーは選んできた。
影絵の様なタッチで、男性2人が背中合わせに立っている絵だった。
さっきのよりも、泉水にも理解できた。
「お洒落な絵画ですね。オーナーお勧めなので、ぜひこちらを美緒達の事務所の社長室に寄贈させてもらいます」
オーナーはにっこり微笑む。
「こちら、50万ですが、私からもお祝いを込めて40万でいかがでしょうか?」
「よろしいんですか?」
オーナーは優しい顔で微笑む。
「じゃあ、私は最初の絵を頂きますよ。あれはいくら?」
伊織が尋ねると、オーナーはふふふと笑う。
「あちらは100万になります」
げっと言う顔を伊織はした。
「参ったなぁ。仕方ない、今回は諦めます」
伊織の苦笑いにオーナーと泉水は笑った。
「……まけてくれませんよね?」
諦めきれないのか伊織が言うとオーナーは笑う。
「画廊で値切る人は初めてだ。残念ですが、ジョーの価格設定なのでこちらは無理です」
「だって、さっきのは?」
伊織が泉水が購入を決めた絵を指す。
「あれは、私からのご祝儀値段です」
にっこりそう言われては、伊織も引き下がるしかない。
「田嶋さん、いい買い物ができました!ありがとう!」
嬉しそうに伊織に礼を言う泉水に複雑な笑顔の伊織だった。
「まだお時間があれば、お茶でもどうですか?」
伊織の誘いに泉水は快諾した。
泉水もまだ伊織と話をしたかった。
店の入り口のドアから泉水は伊織と並んで笑顔で出てきた。
そして、その光景をたまたま見かけていた男がいた。
工とジュリに守られ、母親の墓参りに青山墓地から出てきた真幸だった。
流星も付き添うと言ったが、せっかくの休みの日に可哀想だと思い、今日は泉水だけでやってきた。
「お待たせしてすみません!」
伊織は眼鏡をかけた知的なクールなイメージだったが、今日はスーツではないせいか爽やかイケメンで現れた。
「お休みの日に付き合わせてすみませんでした」
泉水は恐縮する。
「いえ、私も何か掘り出し物があれば購入したいと思っているので、お気になさらないでください」
伊織は礼儀正しい好青年のイメージだった。
伊織が先に画廊の中に入った。
落ち着きのある老紳士のオーナーが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、田嶋様。御笠様までご紹介いただいて光栄です」
和やかな雰囲気で、オーナーは丁寧に画家達の作品を説明してくれた。
「こちらがおススメの画家です。ジョー・クラノ。まだ35歳ですが、ニューヨークでも活躍しております」
近代アート美術館にも所蔵されていると言う画家の絵だった。
「スタイリッシュだと思いませんか?」
楽しそうに伊織は言うが、泉水には良さが分からない。笑ってごまかす。
「難しいですよね、見慣れませんと」
優しくオーナーは言ってくれた。
「どの様な絵をお探しですか?」
「実は、新たに芸能事務所を立ち上げまして、その事務所に飾りたいと。所属しているのはまだ男性モデルとピアニストの2人なんですが」
泉水が言うとオーナーは驚く。
「もしかして、夕月美緒が所属している事務所でしょうか?最近美緒さんが芸能事務所に所属したと聞いて気になっていたんですが。私、美緒さんのファンなんです」
泉水が頷くと、さすが芸術家には詳しいらしいオーナーは、嬉しそうな顔をした。
「ありがとうございます。美緒も喜ぶと思います」
「モデルさんとピアニスト、ですか。お二人とも男性ですからね、どんな絵がよろしいかなぁ」
俄然探す事にオーナーは意欲を見せる。
泉水はふと1枚の絵が目に飛び込んできた。
ピンク色のグラデーションが中心に向かうとだんだん濃くなり、最後は太陽の様なオレンジ色になっている。
「気になりましたか?」
オーナーが優しい目で言う。
「ええ。なんだか、優しい気持ちになる絵だなって」
「ハワイから帰ったばかりのイラストレーターの作品なんですよ。ヒメコって言います。26だったかな」
女性なんだと分かり、泉水はこのタッチに納得した。
「こちら頂けますか?おいくらでしょう」
「8万円になります」
手頃な値段だと泉水は購入を決めた。事務所の受付に飾ろうと決めた。
「後はいかがなさいますか?私のイメージでのお勧めはこちらですが」
やはりジョーの絵をオーナーは選んできた。
影絵の様なタッチで、男性2人が背中合わせに立っている絵だった。
さっきのよりも、泉水にも理解できた。
「お洒落な絵画ですね。オーナーお勧めなので、ぜひこちらを美緒達の事務所の社長室に寄贈させてもらいます」
オーナーはにっこり微笑む。
「こちら、50万ですが、私からもお祝いを込めて40万でいかがでしょうか?」
「よろしいんですか?」
オーナーは優しい顔で微笑む。
「じゃあ、私は最初の絵を頂きますよ。あれはいくら?」
伊織が尋ねると、オーナーはふふふと笑う。
「あちらは100万になります」
げっと言う顔を伊織はした。
「参ったなぁ。仕方ない、今回は諦めます」
伊織の苦笑いにオーナーと泉水は笑った。
「……まけてくれませんよね?」
諦めきれないのか伊織が言うとオーナーは笑う。
「画廊で値切る人は初めてだ。残念ですが、ジョーの価格設定なのでこちらは無理です」
「だって、さっきのは?」
伊織が泉水が購入を決めた絵を指す。
「あれは、私からのご祝儀値段です」
にっこりそう言われては、伊織も引き下がるしかない。
「田嶋さん、いい買い物ができました!ありがとう!」
嬉しそうに伊織に礼を言う泉水に複雑な笑顔の伊織だった。
「まだお時間があれば、お茶でもどうですか?」
伊織の誘いに泉水は快諾した。
泉水もまだ伊織と話をしたかった。
店の入り口のドアから泉水は伊織と並んで笑顔で出てきた。
そして、その光景をたまたま見かけていた男がいた。
工とジュリに守られ、母親の墓参りに青山墓地から出てきた真幸だった。
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