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跳ねる水
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ほぼ同時刻に泉水と水帆は落ち合った。
赤ワインを頼むと、軽い食事やツマミを頼んだ。
「まだ過去の決着をつけてないの?」
水帆は泉水を見つめながら言う。
「ああ。恋人に心配ばかりかけて、何も動けないでいる。自分がこんなに弱虫だと思わなかった」
ワインが運ばれ、グラスに注がれる様を2人は黙って見つめた。
「なぜ、そんなに過去を暴くのが怖い?母親を愛しているから?幼い時の曖昧な記憶が、幻だったと落胆したくないからか?」
ストレート過ぎる水帆に泉水は返す言葉がない。
「それで大切な人に心配かけるなど本末転倒だな。自分ばかりが悲劇の主人公なのか?」
いやに今日は辛口だなと泉水は思った。
「別に、悲劇を装っている訳じゃない。真実を知って、俺がおかしくなって、またワタルに心配をかける方が怖いんだ」
気がつかないうちに、ワタルの名を出してしまった。
「恋人は、ワタルと言うのか」
水帆の言葉に泉水はハッとした。今更聞かなかったことにはしてくれそうにもない。
「そのワタル君を信じてないの?」
「信じてないって?違う、ワタルに心配かけたくないだけで」
「本当にそう?泉水が真実を知って、自分が壊れた時、ワタル君が離れていくって危惧してるんじゃないの?」
核心を突かれ泉水は何も答えられない。
「……そうだよ。自分が描く母とは違う話を聞かされるのが怖いんだよ。真実を聞いて立ち直れなくなるのが怖い。今以上にワタルを傷つけてしまいそうで」
両手の掌で顔を覆い、泉水はうなだれる。
「逃げていて、この先ワタル君とやっていけるの?そっちの方が不自然じゃない?」
水帆に言われなくとも分かっている。分かっていても、自分からは父親に聞けなかった。
「俺ね、最近面白い男と知り合ったんだ。前に、世間を震撼させた事件があっただろ?その時に出会った刑事なんだが、また今一緒に仕事をしている」
話しが突然変わり、泉水は拍子抜けした。
「何を、突然?」
つい声にも出してしまった。
「鋭く良い目をしてるんだ。迷いのないね。刑事として優秀だと思う。人間的にも魅力がある」
泉水の問いを無視して続ける。
「泉水とは正反対で興味を持った。こんな風な気持ちで誰かに興味を持つのは初めてかもしれない」
泉水はモヤモヤした。自分の話を聞いてくれてたんじゃないのかと。そして、もう自分には興味がなくなったのかと。
「泉水にはもう何も言わない。いつまでもそうやってウダウダして逃げていれば良いさ。今夜会って俺もはっきりした。俺が望んでる相手は、アイツだって」
水帆はにっこり微笑む。
「ちょっと待て?なんか俺、水帆にフラれた気分なんだけど?」
泉水の言葉に水帆は笑う。
「俺は見る景色を変えただけさ。まあ、良いじゃない。友情は永遠だ」
楽しそうに水帆は言う。泉水はなんだか変な気分のまま納得した。
「いつか結果が出たら教えてくれ。お前の過去は心理学的に興味がある」
水帆の言葉に泉水は苦笑した。
まるでモルモットにでもなった気分だった。
しかし、水帆の心を捉えた男に興味を持った。
「面白い男ってどんな感じ?」
泉水が尋ねると、水帆はワイングラスを唇から外した。
「外見的には、俺より30cm近く背が高い男だね。見た目は、かなり女性にモテるぐらいだからイケメンの部類じゃない?ただ、あまり必要以上に人を寄せ付けない。確固たる自分を持っていて、人に対しての思い遣りもあるが、押し付けがましいところはない。どんな状態でも、耐えれるほどの精神力もありそうだ」
「べた褒めだな。まるで好きな相手を語っているようだ」
冷やかし半分泉水が言うと水帆は笑う。
「そうだね。きっと求められたら抱かれてしまうかもな」
色っぽい口元のホクロが、そのセリフで一段と艶っぽくなった。
「抱かれる方なんだ」
自分の時は、抱くと言っていたくせにと泉水は思って笑う。
「そうだね。アイツになら抱かれたい」
妖しい瞳の水帆に泉水はドキリとした。
「もし抱かれたら教えてくれ」
面白がって泉水は言う。
「い、や、だ」
そう言って水帆は美しい顔で妖しく微笑んだ。
赤ワインを頼むと、軽い食事やツマミを頼んだ。
「まだ過去の決着をつけてないの?」
水帆は泉水を見つめながら言う。
「ああ。恋人に心配ばかりかけて、何も動けないでいる。自分がこんなに弱虫だと思わなかった」
ワインが運ばれ、グラスに注がれる様を2人は黙って見つめた。
「なぜ、そんなに過去を暴くのが怖い?母親を愛しているから?幼い時の曖昧な記憶が、幻だったと落胆したくないからか?」
ストレート過ぎる水帆に泉水は返す言葉がない。
「それで大切な人に心配かけるなど本末転倒だな。自分ばかりが悲劇の主人公なのか?」
いやに今日は辛口だなと泉水は思った。
「別に、悲劇を装っている訳じゃない。真実を知って、俺がおかしくなって、またワタルに心配をかける方が怖いんだ」
気がつかないうちに、ワタルの名を出してしまった。
「恋人は、ワタルと言うのか」
水帆の言葉に泉水はハッとした。今更聞かなかったことにはしてくれそうにもない。
「そのワタル君を信じてないの?」
「信じてないって?違う、ワタルに心配かけたくないだけで」
「本当にそう?泉水が真実を知って、自分が壊れた時、ワタル君が離れていくって危惧してるんじゃないの?」
核心を突かれ泉水は何も答えられない。
「……そうだよ。自分が描く母とは違う話を聞かされるのが怖いんだよ。真実を聞いて立ち直れなくなるのが怖い。今以上にワタルを傷つけてしまいそうで」
両手の掌で顔を覆い、泉水はうなだれる。
「逃げていて、この先ワタル君とやっていけるの?そっちの方が不自然じゃない?」
水帆に言われなくとも分かっている。分かっていても、自分からは父親に聞けなかった。
「俺ね、最近面白い男と知り合ったんだ。前に、世間を震撼させた事件があっただろ?その時に出会った刑事なんだが、また今一緒に仕事をしている」
話しが突然変わり、泉水は拍子抜けした。
「何を、突然?」
つい声にも出してしまった。
「鋭く良い目をしてるんだ。迷いのないね。刑事として優秀だと思う。人間的にも魅力がある」
泉水の問いを無視して続ける。
「泉水とは正反対で興味を持った。こんな風な気持ちで誰かに興味を持つのは初めてかもしれない」
泉水はモヤモヤした。自分の話を聞いてくれてたんじゃないのかと。そして、もう自分には興味がなくなったのかと。
「泉水にはもう何も言わない。いつまでもそうやってウダウダして逃げていれば良いさ。今夜会って俺もはっきりした。俺が望んでる相手は、アイツだって」
水帆はにっこり微笑む。
「ちょっと待て?なんか俺、水帆にフラれた気分なんだけど?」
泉水の言葉に水帆は笑う。
「俺は見る景色を変えただけさ。まあ、良いじゃない。友情は永遠だ」
楽しそうに水帆は言う。泉水はなんだか変な気分のまま納得した。
「いつか結果が出たら教えてくれ。お前の過去は心理学的に興味がある」
水帆の言葉に泉水は苦笑した。
まるでモルモットにでもなった気分だった。
しかし、水帆の心を捉えた男に興味を持った。
「面白い男ってどんな感じ?」
泉水が尋ねると、水帆はワイングラスを唇から外した。
「外見的には、俺より30cm近く背が高い男だね。見た目は、かなり女性にモテるぐらいだからイケメンの部類じゃない?ただ、あまり必要以上に人を寄せ付けない。確固たる自分を持っていて、人に対しての思い遣りもあるが、押し付けがましいところはない。どんな状態でも、耐えれるほどの精神力もありそうだ」
「べた褒めだな。まるで好きな相手を語っているようだ」
冷やかし半分泉水が言うと水帆は笑う。
「そうだね。きっと求められたら抱かれてしまうかもな」
色っぽい口元のホクロが、そのセリフで一段と艶っぽくなった。
「抱かれる方なんだ」
自分の時は、抱くと言っていたくせにと泉水は思って笑う。
「そうだね。アイツになら抱かれたい」
妖しい瞳の水帆に泉水はドキリとした。
「もし抱かれたら教えてくれ」
面白がって泉水は言う。
「い、や、だ」
そう言って水帆は美しい顔で妖しく微笑んだ。
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