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澄んだ水
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伊織が真幸のマンションに久し振りにやってきた。
「仕事はどう?もう田嶋会とは関係なくなったんだろう?」
真幸は尋ねると煙草に火を着けた。
「ああ。飯塚組長のお陰で、全く後ろ暗い思いをしなくて済んでいるよ」
あの人が1番危険なんだけどと真幸は笑う。
「それより、ちょっと妙な噂を聞いてね。それもあって今日は来た。お前裏ではサツと繋がりがあるって言うのは本当か?お前の男って、そいつなのか?」
真幸は煙草の煙を吐き出した。
「ガセだ。誰か、俺を嵌めたいんだろ。俺は何かしら狙われているようだしな」
伊織はじっと真幸を見つめる。
「つくならもっと上手い嘘をつけ。これを見てどう思うよ」
伊織は写真をテーブルに投げた。
真幸のマンションのエントランスに入る疾風が写っている。
「悪いが調べた。警視庁捜査一課警部補、椎野疾風。だろ?」
真幸は微動だにもせずに写真を見つめる。
「言っちゃ悪いが、この男がこのマンションの住人だとは思えない。そしてこのマンションの住人と接点があるとしたらお前だけだ」
「まーったく、誰よ、この写真撮った暇人」
呆れ顔で真幸は失笑しながら言う。
「さあ。この椎野に恨みがある人物だろ」
伊織は顔色を変えず真幸を見つめる。
「お前はこの写真、どうやって手に入れた?」
どんなルートか真幸は聞く。
「俺と昔関係のあった元白竜組の男だ。お前を心配して俺に流してきた」
伊織の告白に真幸は目が点になった。
「うちの下位団体の男にも手を出してたのかよ!」
驚いて真幸は伊織に言う。
「昔の話だ。もう今は全く関係は無い。今はこいつもカタギになって真面目に働いている。他の元白竜組の男に持ちかけられたらしい。これをネタに真幸を潰そうって。お前も結局まだ恨み買ってるってわけだ」
フフフと笑う伊織を真幸は睨む。
「俺を潰そうと画策している白竜組の残党達は?」
「若頭以下の大半は例の覚せい剤の件で捕まって、若頭に全て罪をおっ被せた組長は、警察には張られているが逃げ回っている。お前の事は助けるだろうが、この椎野って男までは飯塚組長も助けられないだろうね」
助けられないのではない。助けるつもりがないのだ。
「俺と疾風の関係まで飯塚組長にバレたってことか。ガッカリだったろうな。自分の愛人孕ませた孫が、実は男と身体の関係を持ってると知って」
内心ザマーミロと真幸は思っていた。
「お前達が身体の関係があるとは誰も思っていない。この椎野ってやつから情報を得てるとだけ思っているらしい。俺に教えてくれた男も、その事には触れていない」
真幸は伊織とのあの日の出来事を思い出していた。
あの時に伊織には自分に男の恋人がいる事はバレている。
そしてその相手が今、伊織にバレてしまった。
「どうするんだ?ヤクザと警察がプライベートで会っているとバレたら、こいつはもうおしまいだな」
伊織が疾風の写真の顔を指で弾く。
「疾風が俺と会っていた決定的な証拠はない。今ならまだ間に合う」
真幸の言葉に伊織は首を傾げる。
「ん?どう言うことだ?何を考えてる?」
「捜査一課警部補椎野疾風なんて男を俺は知らない。その写真に写っていた男は、たまたまこのマンションの前にいただけだ」
真幸はそう言うとまた煙草を咥えた。
「もう、二度と会わない」
真幸はそう言うと、煙を吐いてすぐに煙草を潰して火を消した。スマホを取ると、疾風に電話をかける。
『よう。どうした?お前から電話してくるなんて珍しいな』
疾風が嬉しそうに言う声は、真幸にとっては辛かった。
「お前との関係がそのうち警察にバレる。誰かが近いうちに警察にリークする。何を聞かれても、俺を知らないと言え。もう終わりだ。じゃあな」
それだけ言うと真幸は電話を切ってソファーにスマホを投げた。
すぐに疾風から折り返しがかかってきたが、真幸は無視をする。
「出てやれよ。一方的じゃ、向こうも納得できねぇだろ」
スマホの着信音と伊織の声が、真幸には堪らない雑音だった。
「五月蝿ぇんだよ!黙れ!」
真幸はスマホを床に叩きつける。
ピタッと音が止まり静寂になった。
「帰ってくれ。1人になりたい」
真幸はそう言うと床に座って膝を抱える。
伊織は真幸の部屋を出た。ため息をついて表に出る。
止まっているベンツの窓を叩く。
「お話は済みましたか?」
工が窓を開けて伊織に言う。
「ああ。直ぐに部屋に行ってやれ。まあ、入れてくれるかは分からねぇけど」
伊織はそう言うと、伊織を待つ車に乗り込んだ。
工はベンツから降りるとエントランスに向かう。
「頭、恵比寿です」
無言で返事がなかった。工はしつこくインターホンを押す。
しばらくして真幸の掠れた声が聞こえた。
「……部屋を、しばらく出る。次のマンションが見つかるまでホテルに行く」
「分かりました。ここで待ってます」
工との会話が済むと真幸は笑った。
疾風を失うくらいなら死んでもいいと思っていたのに、いざとなると死ねない自分が滑稽だった。
「別れるとなったらあっけねぇなぁ。一瞬だぜ」
真幸はそう言って何も持たずに部屋を出た。
「仕事はどう?もう田嶋会とは関係なくなったんだろう?」
真幸は尋ねると煙草に火を着けた。
「ああ。飯塚組長のお陰で、全く後ろ暗い思いをしなくて済んでいるよ」
あの人が1番危険なんだけどと真幸は笑う。
「それより、ちょっと妙な噂を聞いてね。それもあって今日は来た。お前裏ではサツと繋がりがあるって言うのは本当か?お前の男って、そいつなのか?」
真幸は煙草の煙を吐き出した。
「ガセだ。誰か、俺を嵌めたいんだろ。俺は何かしら狙われているようだしな」
伊織はじっと真幸を見つめる。
「つくならもっと上手い嘘をつけ。これを見てどう思うよ」
伊織は写真をテーブルに投げた。
真幸のマンションのエントランスに入る疾風が写っている。
「悪いが調べた。警視庁捜査一課警部補、椎野疾風。だろ?」
真幸は微動だにもせずに写真を見つめる。
「言っちゃ悪いが、この男がこのマンションの住人だとは思えない。そしてこのマンションの住人と接点があるとしたらお前だけだ」
「まーったく、誰よ、この写真撮った暇人」
呆れ顔で真幸は失笑しながら言う。
「さあ。この椎野に恨みがある人物だろ」
伊織は顔色を変えず真幸を見つめる。
「お前はこの写真、どうやって手に入れた?」
どんなルートか真幸は聞く。
「俺と昔関係のあった元白竜組の男だ。お前を心配して俺に流してきた」
伊織の告白に真幸は目が点になった。
「うちの下位団体の男にも手を出してたのかよ!」
驚いて真幸は伊織に言う。
「昔の話だ。もう今は全く関係は無い。今はこいつもカタギになって真面目に働いている。他の元白竜組の男に持ちかけられたらしい。これをネタに真幸を潰そうって。お前も結局まだ恨み買ってるってわけだ」
フフフと笑う伊織を真幸は睨む。
「俺を潰そうと画策している白竜組の残党達は?」
「若頭以下の大半は例の覚せい剤の件で捕まって、若頭に全て罪をおっ被せた組長は、警察には張られているが逃げ回っている。お前の事は助けるだろうが、この椎野って男までは飯塚組長も助けられないだろうね」
助けられないのではない。助けるつもりがないのだ。
「俺と疾風の関係まで飯塚組長にバレたってことか。ガッカリだったろうな。自分の愛人孕ませた孫が、実は男と身体の関係を持ってると知って」
内心ザマーミロと真幸は思っていた。
「お前達が身体の関係があるとは誰も思っていない。この椎野ってやつから情報を得てるとだけ思っているらしい。俺に教えてくれた男も、その事には触れていない」
真幸は伊織とのあの日の出来事を思い出していた。
あの時に伊織には自分に男の恋人がいる事はバレている。
そしてその相手が今、伊織にバレてしまった。
「どうするんだ?ヤクザと警察がプライベートで会っているとバレたら、こいつはもうおしまいだな」
伊織が疾風の写真の顔を指で弾く。
「疾風が俺と会っていた決定的な証拠はない。今ならまだ間に合う」
真幸の言葉に伊織は首を傾げる。
「ん?どう言うことだ?何を考えてる?」
「捜査一課警部補椎野疾風なんて男を俺は知らない。その写真に写っていた男は、たまたまこのマンションの前にいただけだ」
真幸はそう言うとまた煙草を咥えた。
「もう、二度と会わない」
真幸はそう言うと、煙を吐いてすぐに煙草を潰して火を消した。スマホを取ると、疾風に電話をかける。
『よう。どうした?お前から電話してくるなんて珍しいな』
疾風が嬉しそうに言う声は、真幸にとっては辛かった。
「お前との関係がそのうち警察にバレる。誰かが近いうちに警察にリークする。何を聞かれても、俺を知らないと言え。もう終わりだ。じゃあな」
それだけ言うと真幸は電話を切ってソファーにスマホを投げた。
すぐに疾風から折り返しがかかってきたが、真幸は無視をする。
「出てやれよ。一方的じゃ、向こうも納得できねぇだろ」
スマホの着信音と伊織の声が、真幸には堪らない雑音だった。
「五月蝿ぇんだよ!黙れ!」
真幸はスマホを床に叩きつける。
ピタッと音が止まり静寂になった。
「帰ってくれ。1人になりたい」
真幸はそう言うと床に座って膝を抱える。
伊織は真幸の部屋を出た。ため息をついて表に出る。
止まっているベンツの窓を叩く。
「お話は済みましたか?」
工が窓を開けて伊織に言う。
「ああ。直ぐに部屋に行ってやれ。まあ、入れてくれるかは分からねぇけど」
伊織はそう言うと、伊織を待つ車に乗り込んだ。
工はベンツから降りるとエントランスに向かう。
「頭、恵比寿です」
無言で返事がなかった。工はしつこくインターホンを押す。
しばらくして真幸の掠れた声が聞こえた。
「……部屋を、しばらく出る。次のマンションが見つかるまでホテルに行く」
「分かりました。ここで待ってます」
工との会話が済むと真幸は笑った。
疾風を失うくらいなら死んでもいいと思っていたのに、いざとなると死ねない自分が滑稽だった。
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真幸はそう言って何も持たずに部屋を出た。
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