田辺君はずるいから

五嶋樒榴

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3ずるい・出会い

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エレベーターが5階に止まり、田辺が会釈してスッと降りる。
と、諭もつられて降りてしまった。

「あ、あれ?」

ハッとする諭。
それを見つめる田辺。
エレベーターは上に上っていく。

「7階ですよね?」

キョトンとする田辺。

「あ、うんッ!なんでだろう、何、降りちゃったかなぁ」

恥ずかしくて焦りまくる諭。
それを見てプッと笑う田辺。
そのままクスクス笑いが止まらない。


あー。
こいつ、笑顔も爽やかぁ。
さっきまで無表情だったくせに。
この笑顔、ずるいだろ。


「あははは。ん?なんですか?」

笑いが落ち着いたのか、ジッと自分を見つめる諭に尋ねる田辺。

「あ、いや、そのッ!なんでもないよッ!」

真っ赤になってエレベーターに向くと、焦って諭は下がるボタンを押してしまった。

「何やってんすか?そそっかしい人ですね」

田辺はそう言って、諭の背後から腕を伸ばして上がるボタンを押す。
エレベーターがやって来て上階行きになったので、諭はエレベーターに乗り込む。恥ずかし過ぎて早くこの場から立ち去りたい。
でも、田辺が気になる諭。

「俺、内名諭。またねッ!」

ついフルネームを教えてしまった。
真っ赤になっている諭を見て、田辺はクスッと笑う。


まるで小動物だなぁ。
ちんまりして、慌ただしくてリスみてぇ。


「はい。俺は田辺蘭です」

諭を乗せたエレベーターは扉が閉まり上がっていく。
田辺はクスクス笑いながら自分の部屋に入って行った。


田辺蘭かぁ。


諭は田辺を思い浮かべながら心の中で名前を呼ぶ。
それがふたりの出会いだった。
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