田辺君はずるいから

五嶋樒榴

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5ずるい・リス

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田辺の部屋の玄関に入って、諭はハッとした。
田辺がコンドームを買っていたと言うことは、彼女が遊びに来ていると思ったのだ。

「あのッ!誰かいるんじゃねーの?俺、帰ろうか?」

今頃になってばたつく諭。

「まだ良いっすよ。来るのバイト終わってからって言ってたから」

田辺はそう言ってスタスタと部屋の中に入って行く。
諭は気がひけるものの、帰るのも変だと思い靴を脱ぐ。

「お邪魔しまーす」

田辺の部屋は至ってシンプル。
ベッドと机とテレビ。
部屋の真ん中のテーブルに買ってきた物をドサっと置くと、田辺は袋からコンドームを出してベッドにポンと放り投げた。
諭はついその動きを目で追ってしまった。

「飲み物飲むのにコップとか使います?」

キッチンに移った田辺が声を掛ける。

「500のだからペットボトルのままで良いよ」

田辺は自分の分だけコップを持ってきた。
諭の斜め横に座ると、1.5リットルのペットボトルのキャップを開けてコップにトクトクと注ぐ。

「料理とかしねーの?」

田辺をチラッと見て諭は聞く。

「しないと言うかできないです。作ったことないんで」

コンビニの弁当を食べ始める田辺。

「そうなんだ。なんでもできそうだけどな」

「諭先輩は作るんですか?」

「多少は。炒め物とかカレーぐらいだけどな」

シーンとする空間。

「おまッ!そうなんですか、とか、凄いですね、とか感想ねーの?会話続かねーだろッ!」

ムキになる諭に田辺は笑う。

「諭先輩って面白いっすね。突然俺の前に現れて、いつもガチャガチャしてる」

田辺の笑顔に諭は恥ずかしくなる。
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