すいぎょのまぢわり

五嶋樒榴

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第四話

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どうして突然、絢斗とこんな風になってしまったのか、茉理は理解できない部分があった。
絢斗とは小さい頃からずっと一緒で、確かに兄弟のように仲良くしていた。
それでも高校に入るまでは、絢斗は何人もの女子と付き合って、茉理とは違う世界も見ていた。
確かに高校に入ってしばらくして絢斗は誰とも付き合わなくなった。
そして、最近こんな関係に変わった。
絢斗に何があったのか、茉理は何も分からなかった。

「…………絢斗が俺を好きになる、きっかけ?ってなんなの?」

ベッドの上で壁に寄りかかって茉理は尋ねる。
絢斗はベッドに寄りかかって床に腰掛けていた。

「きっかけって言うか、ずっと好きだったよ。男だとしてもお前が好きって分かったのは高校入ってからだけどさ」

それは前にも少し聞いた。

「決定的だったのは、お前が先輩に告られたのがきっかけかな」

先輩に告られたのを絢斗に知られていたんだと茉理は焦る。

「どうして知ってんの!」

「そりゃあ、お前を見てたんだもん。先輩に呼び出されたら気になるでしょ」

落ち着き払って絢斗は言うが、ストーカーかよッと茉理は思った。

「あと、一哉」

一哉の名前まで出て茉理はびっくりする。

「なんで一哉だよ」

「お前にひっつきすぎ。あいつは俺と違ってお前にそう言う気持ちはないだろうけど、お前を可愛がるのがムカつく」

嫉妬してるんだと知り、茉理はびっくりしながらも嬉しいと思ってしまった。
普段無表情で冷静で、心の中が全く見えない絢斗が、実は自分の周りの男に嫉妬していたと知り、素直に嬉しいと思って顔がニヤけた。

「何笑ってんだよ」

ムッとしながら絢斗は言う。

「べーつに」

ヘラヘラとしている茉理に、絢斗はムッとしてベッドに顔を埋める。

「ったく!もっと簡単だと思ってたのにさ」

ため息まじりに絢斗は言う。

「簡単って何がよ」

ムッとしながら茉理が尋ねる。

「お前も俺を好きになるって」

恨めしそうに絢斗が言うと茉理は顔をピキッと引きつらせる。

「おまッ!その自信どっから湧いて出てくるんだッ!友達以上の好きとか、フツー考えねーわッ!」

焦りながら茉理は捲し立てる。

「そうか?可能性はゼロだと思ってなかったよ。そりゃ直ぐには無理だとは思ってたけど、俺の扱い方が悪い?」

今更それかよと茉理は絶句する。

「大切にしてるんだけどなー、お前のこと。小さい時からずっとさ。今はもっとだけどね」

フッと柔らかい笑顔で絢斗は言う。
その笑顔、反則だ。と、茉理は思って恥ずかしくなる。

「扱い方、悪いよッ!必要以上にお前を意識しちゃうだろ!」

もう、恥ずかしくて恥ずかしくて、どうして良いか分からない。
一緒にいて嬉しいのに、だからと言って、絢斗と自分が恋人になると言う選択肢を受け入れられない。

「意識しろよ。で、早く認めろよ。お前も俺が好きだってさ」

にっこり笑って絢斗は言う。

「だからぁ、そう言うのズルいから。俺が絢斗を嫌いになれないって分かってて言ってるし」

この自意識過剰の自信家に、ギャフンと言わせたいのに言わせられない腹立たしさ。

「分かって言ってるから、早く慣れろよ。俺の愛情表現」

「俺はまだ友達の好きしかないからなッ!」

それがせめてもの抵抗。

男同士での恋愛やエッチに、茉理はまだ理解できなかった。

「って言うか、そうだよ。本当に絢斗は俺をどうしたいの?」

絢斗はジッと茉理を見つめる。

「正直、俺も分かんないわ。男とエッチした事ねーし。でも茉理とエッチしたいけどな。もちろん俺が抱く方だけど」

サラッと大胆発言に茉理は真顔になる。

「お、俺は嫌だ!女の子ともしたことねーのにッ!初体験が男とか、しかも幼馴染みのお前とか、想像の限界!」

「女の子とエッチしたいの?」

ムッとして絢斗は尋ねる。

「当たり前だろッ!」

「じゃあ、とっととしろよ。お前なら直ぐできるよ」

絢斗の冷たい言い方に茉理もムッとする。

「そう言う言い方ないだろッ!好きでもない子と直ぐにできるかッ!」

「そんなの知るか。帰る」

絢斗はそう言うと不機嫌極まりない顔で茉理の部屋を後にした。
茉理は無性に腹が立って、出て行った絢斗がドアを閉めると枕をドアに投げ付けた。

「腹立つー!」

茉理はイライラして腹立たしくて仕方なかった。
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