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●アンビバレント●

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蓮司がソファに腰掛けると、幸江はキッチンでお茶の支度を始めた。

「本当に、突然すみません。ずっと賢一郎の事が気になっていたんです。家が取り壊されて、その場にいた、買った人らしき男の人から事情を聞こうと尋ねたんですが、流石にその人からは全く教えてもらえず」

「良くここが分かったね」

どうやって訪ねて来たのかと一久は思った。

「母が香典を送ったそうで、そのお返しを頂いていたので、住所が分かりました」

実際はシュウの母親から改めて聞いたのだがそこは省略した。

「そうだったんだね。お母さんにもありがとうと改めて伝えてね」

一久が温厚な感じで蓮司はホッとする。

「……賢一郎の為にも、あの家は無くなった方がいいと思ってね。どうせ帰れるわけでもないし」

「……でも、賢一郎はいつか戻ってきますよね?」

「そうだね。罪を償って、いつかは私たちの所に戻って欲しいとは思ってるよ。ただ、正直複雑だ。賢一郎を愛しているが、息子を、桜さんを、何故殺したんだと、それはどうしても私の中で許せなくて」

一久の悲痛な叫びに、キッチンにいた幸江も口に手を当てて涙を堪える。

「俺、信じられないんです。賢一郎はお母さんのこと本当に好きだったし仲良しだったし。2人で買い物してる姿も良く見てました。お父さんとも、きっと仲良しだったと思ってます」

「そうだね。子供の頃は、ここにも良く遊びにきていたよ。息子と……父親とキャッチボールをしたり、桜さんを2人で良く取り合って戯れていたり。あの頃は、こんな事になるなんて想像できなかった」

幸せだったごく普通の家族。
何が賢一郎を狂気に走らせたのか。
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