インシデント～楜沢健の非日常〜

●アンビバレント●

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「エディプスコンプレックス。フロイトが提唱した精神分析です」

初めて聞く言葉に、健は眉を顰める。

「もっと分かりやすくお願いします」

「幼少期に、父親に対して殺意的な憎悪を持ち、それに対して母親には、性的感情を抱くとされています。つまり近親相姦願望を持つようになる。語源は、ギリシャ神話のオイディプースが、実の父親を殺害し母親と結婚した事からかと。オイディプースのドイツ語がエディプスと読む事で、エディプスコンプレックスという言葉になりました」

それはフロイトが、オーストリア人で母国語がドイツ語だったからだと補足された。

「幼少期にもう性の芽生えがあると言うことですか？」

あり得ないと健は心の中で反発する。

「もちろん無意識にです。ただ幼児期のそれは、性愛というよりは愛着でしょうが」

性衝動というより、母親の愛情を父親から奪いたい。父親に対し嫉妬する感情が顕になる。

「ただ発達していくに従い、父親という存在を脅威なものと感じ、敗北感から母親への愛情を残したまま願望は消失していきます。男児がエディプスコンプレックスを抱えたまま、大人になる事はほぼないとされています」

母への愛情は、次第に他の異性に向けられると言う事だった。

「もしその願望が消えないまま成長を続けると？」

賢一郎がそうだったのかが知りたい。
それが犯行動機になり得るのか。